少子高齢化が進む中、巷では35歳転職限界説などもある一方で、65歳を過ぎても元気に働きたい意向が強いシニアも多い。
仕事人生は決して、60歳や65歳で終わるものではなく、その後も働き続けたい意向が強い人が増えている中で、50代以降のキャリアについて、青山学院大学経営学部マーケティング学科講師を務める、ビジネスノマドの働き方を実践してきた元博報堂山本直人氏にお話を伺いました。
フォーカスされることの少ない50歳以上の働き方、今後の日本の働き方はどのようなものになっていくのでしょうか?
Q:大企業にいても安心ではない時代、今後45歳~50歳以上のキャリアはどうなっていきますでしょうか?
山本 直人さん(以下、山本):
いまって、「50代以降のキャリア」っていうと定年に備える本しかないんですね。(笑)。
年金がどうなるか、資格をとるかなど。
いまは資格をとったから安心、という時代でもないですし、定年も65歳までと長い。
社外取締役といった仕事も一部のそれができる人に集中する。
45-60代のキャリアをどうしていくかは重要な課題ですね。
1つ言えるのは、「プライドは足枷」。
優良企業でも、プライドが高くて実力が伴わいない人は、どうしても自分の「組み換え」ができない。
結果として、心身が相当疲れてしまうケースもあります。
Q:2つ以上のスキルをかけあわせてキャリアの山を登る話にも通じますね。なるべく謙虚に向上心をもって、複数のスキルを持っていたほうがいい。
山本:
自分の得意なスキルも、時が経つとコモディティ化します。
「ブランディング」もコモディティ化してきました。
昔は弁理士の仕事だった商標のチェックもオンラインで誰でも出来てしまう。
ロゴマークのデザインやコンテンツライティングも、クラウドソーシングで安く発注することができる。
誰でも自分の強みを活かし、さらに強みをつくっていく必要があります。
このあいだ、昔新人研修をした会社で、最初に仕事を受けてから10年目ということでスピーチしたのですが「新人から10年経つと、いまは貯めていたノウハウの貯金が減り始めている。あと10年で貯金がなくなる。それを補充しておかないとやばいよ。」という話をしました。
Q:ノウハウの貯金がなくなるというのは、誰でも来る瞬間なので、やるしかないですね。
山本:
最近は外部からのプロ経営者も増えているし、経営者になるキャリアも変化してる。
日立の川村前会長も、本社だけでなく外に出て事業の立て直しや子会社のマネジメントを経験している。
昔は本社に長くいた方が出世には有利だったけど、いまは一生一社制とは違うマッチング、複数の会社での経験が重要になってきているよね。
たとえばマーケティングのプロは、どんどんいろんな会社に移ってます。
30代以降は社内最適化が始まり、市場価値が減ってきがちなので。自分の社内価値と市場価値がマッチし、外でやれる力があるよう、常に力を磨いておきたいです。
また気をつけたいのが、「スケジュールを埋める」(ことで安心する心理)は魔物だなと。
会社員だと、40代以降など、役職がつくと定期ミーティングが増えていきます。忙しいようで、それでスキルが伸びていくのかどうか。
定期ミーティングものの仕事って、やることが決まっていて新しい要素がなく、時間があっという間にすぎていきます。
僕は、1年前の手帳を置いといて、自分は進化したか?をみるようにしています。
まあ、個人的には、会社を辞めてからは、「得意なこと」で仕事をやってきたが、マーケティング・ブランディングのスキルもインフレを起こしていく。つまり総体的か価値が下がってきているので、また好きなことに戻るのもあるかなと思ったりもしていますが。
Q:小さくても好きなことを続けている人は生き残ったりしますしね。
山本:
自分のパーソナリティの把握も重要ですね。
例えば自分は小さい頃から右いけ、左いけと言われるのが嫌で。
同調圧力には強く、学生時代に合宿行くときとか「峠の釜飯」の店でも1人でそばを食べたりしていました。(笑)
Q:パーソナリティに関しては、EQの計測とか、オンラインツールもありますね。
山本:
自分はその手のツールで、企業のトップかフリーしかないのが分かりました(笑)
ただ、会社に入ると、役割が強くなり、パーソナリティが後退するので、それは覚悟しておく必要はあります。
Q:定期的なキャリアの健康診断サービスがあったらいいですね。キャリアカウンセラーサービスというか。自分がこの1年、何か新しくチャレンジしたか、常に戒めてくれるなど、コーチングが身近になるといいのかもしれません。
山本:
技術屋じゃない人がない人が何ができるか?という視点もありますね。
文化系の人のスキルの問題。事業開発などに取り組もうにも、会社員時代の「何が生きる」かがよくわからないとか多いよね。
Q:今後は、当ビジネスノマドジャーナルが取り上げるように、複数社で働くことが当たり前な時代が来るでしょうか?
山本:
そうですね。いまの硬直した労働市場は「正社員神話」が原因なので、そこがどうなるか。
まず、日本は小学校からきっちりしすぎていることが問題かなと(笑)初等教育が変わらないと、正社員神話が変わらない。
読み書き算盤は、明治以降の富国強兵に適していましたが、これからはそれが発想の足かせになるかもね。
小学校の運動会を眺めていて思ったけど、40年前とやっていることが変わらない。音楽が変わっているだけで、写真撮って白黒で見たらいつかわからないよ。つまり「みんなで一緒に」という集団行動を教えて見せる場だからね。
早期に自分の未来を考えるのはいいけど、13歳のハローワークも、職業をみつけないといけない、ということで「what」が議論になっちゃう。「how」、どう働くかも重要だと思う。
いまは「how」が時短、在宅など、テクニカルなことに終始していますが、もう少し働き方のバリエーションを作りたいよね。
Q:Howに関して、働く空間は変わってきましたね。
山本:
コワーキングスペースも増えてきたし、テレワーク(遠隔での勤務)を認める会社も増えてきた。
佐倉にある歴史博物館をみていると、奈良の平城京の時代から、「宮仕え」ってあったみたいで、都市部の一箇所にまとまって事務方が働く、というあり方はなくなりはしないと思うけど(笑)
また、会社で働いていた頃を思い出すと、会議などの「待ち時間」もけっこう長かったなと思います。
会社員って、とにかく忙しそうにはしているけど、忙しいのかヒマなのかわからない人が多いでしょ。
電車に急いでかけこんでゲームしている会社員とか(笑)気だけはあせって、形だけ忙しくしているのではないか。
本当は短くできることを長く時間をかけたり、大勢で一緒に「やった感」を感じたり。
大勢といえば、霞が関の夕活(出勤を1-2時間くりあげ、夕方早く帰る)も、一斉にやらせるより、一人ひとりゆとりの作り方を選べた方がいいんじゃないか。
もう少し働き方がフレキシブルになると仕事観・会社観も変わってくると思います。
取材・記事作成/林智彦
撮影/加藤 静
コンサルタント(マーケティングおよび人材育成)/青山学院大学経営学部マーケティング学科兼任講師
1986年 慶応義塾大学法学部卒業。同年博報堂入社。制作局コピーライター、研 究開発局主席研究員(兼)ブランドコンサルティングコンサルタントを経て人事 局人材開発担当ディレクター。2004年8月独立。
マーケティングスキル、スキル開発を中心とした人材育成コンサルティング/ト レーニング、および商品開発、ブランディング、経営理念開発をおこなう。著書「世代論のワナ」「電通とリクルート」「ネコ型社員の時代」「グッドキャ リア」他多数
WEB:naoto_yamamoto
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