独立して働いていくにあたっては、どのような事を抑えておく必要があるでしょうか?

博報堂ブランドコンサルティングの立上げに関わり、独立後は、マーケティング・人材育成のコンサルタントとして活動。マーケティングの視点からキャリアを考える当時異色のキャリア本 『グッドキャリア キャリアがブランドになる時』(東洋経済新報社、2004年)の著者である山本直人氏にお話を伺いました。

今回は、「独立した後、どうやって生きていくか」も含めた、広い視点の「ビジネスノマドが生き残るための6つの掟」についてお話しいただいています。

ビジネスノマドの掟その1

「生き方の多様性を楽しむ」

山本 直人さん(以下、山本):

今でも僕はホームセンターに行くの好きなんだけど、その理由は何だろうと思った。別に大したものを買うわけでもないし、DIYもやらないんだけどね(笑)※DIYとは、Do It Yourselfの略語で専門業者ではない人が自身で何かを作ったり、修繕したりすること。

それで、なぜ好きなのか最近分かったんですけど、すごく「色んな人」がいるんだよね、会社員だけではなくて。

平日の昼間にもふらっと入ったりするんだけど、それこそ工事現場で働いてる人もいれば年寄りもいる、という風にものすごく多様なわけ。

ああいうのすごく多様な人がいて、ホームセンターっていいなあって思う。変な話だけど、色んな生き方があって、仕事があって。
会社員は会社員の世界しか知らないので、ある意味頭が曇ってしまっていたんだなと。

ー色んな生き方の人がいて、それぞれ尊重されるべきだ、という人生に対しての価値観を感じられるところが、独立することの価値の1つかもしれません。

山本:

美味しくないラーメン屋に行くと勇気づけられるよね。
これでもやっていけるんだ。だったら自分もどうにかなるんじゃないか、ってね。

なんでこんなまずいチャーハン出しててやってけてるんだろう、これだったら僕でもいけそうだな、って(笑)
博報堂辞めようと思って、そういう風に色んな人の人生を考えたりしながら、日々を送っていたのが1年半くらい続いたのかな。

日々そういうシミュレーションをしていたんだよね、生き方というところで。
本当に街に出ると生き方って人それぞれ違うなあと。

ーそれは独立してこそ得られる視座というものでしょうか。

山本:

多様性だよね。ただし、多様性とは「独立しているからエライ」とかそういうことではない。

独立してる人で「会社員は安定して良いよな」とか言ってる人、逆に会社員で「フリーはいいな気楽で」、とか言ってる人、そういう風に「決めつけてる」人は、多様性に対する受容ができていない。大概、仕事はできないよね。

どちらがいい/ダメではなく、それぞれなりの価値を理解していることが、重要な心構えだと思う。

ビジネスノマドの掟その2

「自分のミニマムコストを知る」

山本:

独立するにあたっては、生活する上でのミニマムコストは把握しておいた方がいい。
このくらいあれば、少々贅沢しても生きていける、2人だとこれくらいあればギリギリ大丈夫、とか。

あと独立関連のもう一つのミニマムコストは、仕事をするときのコストをミニマムにすること。
僕が独立した時にラッキーだったのは、インターネットが自由に使えたから、オフィスは自宅で、その代わりウェブサイトはきちんとお金をかけて作った。
今でいう「ノマド」なんだよね。「ノマド」という言葉は後々で出てきたんだけど。

ー独立するにあたっては、最低限いくらあれば生活して、かつ仕事をとってこなしていけるのか、ということを把握することが大事ということですね。

ビジネスノマドの掟その3

「お金はありそうにもなさそうにも見せない」

山本:

僕のブログでも、物欲しげにみえる可能性があるからアフィリエイトとか広告で稼ぐことはしたくなかった。
コンサルタントに頼む時にあんまり貧乏臭い人にお願いしたくないじゃないですか。
かといってあんまり儲け過ぎているように見えるのもよくない。
そこのバランスは大事です。今でもブログや他のSNSには「どこで外食したか」とか、経済面のことを想像されるようなことは出さないようにしています。

ーそれは結構大事ですよね。ありそうにもなさそうにも見せないみたいな。

山本:

それこそ「ノマドのセルフブランディング」的にはその辺り基本中の基本かも。

ビジネスノマドの掟その4

「プッシュは絶対にしない」

山本:

他に気を付けるところとしては、「自分から”売り込み”は絶対しない」。
今でも頂いている仕事のほとんどが、紹介かHPからの問い合わせ。
独立した最初に、「絶対プッシュしてはいけない」と、あるコンサルタントに教わった。
仕事をプッシュする、営業するんじゃなくて、ブログを書く、本を出して発信していく。

ープッシュしてはいけない、というのはどういう理由なんですか?

山本:

一番の理由は、足元を見られやすいから。値引きや、厳しい条件を出されるなど。納期とかね。
また、交渉するときの「精神的優位性」を保てるかも大きい。
よく例えに出すんだけど、チラシ配ってる飲食店ってその時点で配ってる理由が何かあるわけでしょ?配らないと人が来てくれないっていう。
例えばそれと同じ。この人営業しないと仕事がもらえないんだ、困ってるのかな?って。

自分が、博報堂時代発注する側にいたから、すごく沢山の売り込みを受けていたけど、「この人と会ってみたいね」とこっちからアプローチした人には、あんまり無理言えなかったりするじゃない?
また、もちろん、頼まれたらなんでも引き受けるわけではないです。
向こうが求めるクオリティを僕が提供できないな、という時は無理をせずに、他の知り合いを紹介したり、ということも普通にあります。
かえって悪い評判が広まってしまうと困るしね。

ビジネスノマドの掟その5

「仕事のきっかけを覚えておく」

山本:

仕事に結びついたもともとのきっかけが何だったか、全部覚えておくようにしてます。
例えば同じ本を書いても、売れた部数と仕事の問い合わせが来る本はまた別だったりする。
たまたま雑誌に書いた短い記事がその後10年間の付き合いになる仕事になったり。
そういうことがあるんですね。

きっかけを頂いたらそこを長く続けることも重要で、もう10年くらい続いているところが複数あります。
1回でそれっきりの会社は1社しかなくて。あとは全てリピートしています。
リピート以外にも、依頼元の他の部署から声をかけていただく、マーケティングの部署をやってると、人事部の人が僕の話を聞いて、うちも手伝ってくれないですか、とお声掛けいただくこともあります。

ーブランドが複数の結果から形成されていく、というお話ですよね、まさに。

山本:

そうそう。そこが重要で。その由来、この仕事は何をしたから来たのか、何きっかけで頂いたのか、というのはすごく覚えていて、頭のなかに入れておくようにしています。

ー仕事のきっかけを分析されるとどういうところが多いんですか?

山本:

件数でいくと、書いた本や雑誌関連が半分、あとは紹介かな。
紹介も、さっき言った同じ会社での他部署からの紹介もあれば、担当した人の同業他社の人を紹介してもらうこともあったりしますね。同じ業界で同じ業種だと、横のつながりもあるので。

ビジネスノマドの掟その6

「風邪を引かない」

山本:

当たり前ではあるけど、「風邪を引かない」ということはすごく大事だね。特にひとりベースで仕事をする場合は「健康」は死活問題になります。

社会人のときよりも、独立してからはここをすごく意識していて、2000年から高熱が出る風邪は引いていません。
虫歯は全部治す。大人になっても手を洗うのは大事ですよ(笑)

ー会社に帰属しているときよりも、自分の「資本は体である」という意識が強くなるのは、実は独立のメリットかもしれません。体をいたわる、大事にする意識が独立によって強まることによって、逆にずっと健康でいられるように思います。

「ニコニコしながらイライラしている」

ーこれからはもう大きい企業でも安定しない時代です。最後に、そういう時代の中で、どういう心構えが必要だとお考えですか?

山本:

ひとことで言うと「ニコニコしながらイライラしてる」ことが大切かな。
表面上ニコニコしながらやってるんだけど、常に心のなかではこれでいいのか、というところは自問し続けてイライラしている、みたいな。そういうメンタリティが必要。
常にイライラしてるのは人が寄ってこないからね(笑)
でもニコニコしてるだけだと、落とし穴にハマるよ、っていう。

取材・記事作成/林智彦
撮影/加藤 静

【専門家】山本直人氏
コンサルタント(マーケティングおよび人材育成)/青山学院大学経営学部マーケティング学科兼任講師
1986年 慶応義塾大学法学部卒業。同年博報堂入社。制作局コピーライター、研 究開発局主席研究員(兼)ブランドコンサルティングコンサルタントを経て人事 局人材開発担当ディレクター。2004年8月独立。
マーケティングスキル、スキル開発を中心とした人材育成コンサルティング/ト レーニング、および商品開発、ブランディング、経営理念開発をおこなう。著書「世代論のワナ」「電通とリクルート」「ネコ型社員の時代」「グッドキャ リア」他多数
WEB:naoto_yamamoto
blog:from_NY
ノマドジャーナル編集部
専門家と1時間相談できるサービスOpen Researchを介して、企業の課題を手軽に解決します。業界リサーチから経営相談、新規事業のブレストまで幅広い形の事例を情報発信していきます。