数多くの企業経営に関わり、「PRプロフェッショナル」として売上拡大に向けた提案を続けているWin-Win・Partners代表の飯野司さん。10代から経営の現場に触れ、2回の起業に成功している事業家でもある。

変化の激しい時代に勝ち残る企業の条件とは何なのか。ご自身の豊富な経験を踏まえて語っていただいた。中編では、数多くの企業再生や経営に関わってきた飯野さんが考える「商売に必要な3つの力」について伺う。

「マーケティング」という言葉は「自社都合」に走るきっかけとなる

Q:飯野さんは「社外顧問」や「社外取締役」としてのクライアント先への経営参画を貫いています。どのような思いや狙いを持って取り組んでいるのでしょうか?

飯野司(以下、飯野):

「社外顧問」や「社外取締役」という立場を貫いているのは、経営参画する企業との間に「見えない主従関係を作らないようにするため」です。

社内の取締役は当然、自社の運営・決裁にフルコミットしています。それに対して社外取締役は、「他にも自分の軸となる仕事をしながらアドバイザーのような形で関与する」という立場。企業側は「自分たちとは違う軸を持ったプロである」と見てくれるので、さまざまな提案に聞く耳を持ってくれますし、お互いに尊敬の念を持った良い立ち位置でいられるんです。

私は飲食業の世界でお客さまの顔を見て育ちました。ある意味では商売の基本だと思うのですが、それができなくなっている企業が多いんです。お客さまの顔が見えなくなっているのは誰かというと、それは役員だったり社長だったりするわけですね。それを社内から問いただしても聞く耳を持ってくれないかもしれませんが、社外からであれば聞いてくれるんですよ。

だから「社外のパートナー」という立ち位置を貫くのが私の信念です。

Q:その立場は会社を再生したり、新しい事業を動かしたりする際にもプラスに働くのでしょうか?

飯野:

そうですね。会社組織の中に入り込んでしまうとお客さまの顔が見えず、市場を作れなくなると思っています。

「マーケティング」という外来語が頻繁に使われますが、個人によって微妙に解釈がずれてしまうので、私は「顧客洞察力」という言葉に置き換えているんです。全員が同じ概念で理解できる言葉を使うということですね。あとは「商品力」と「宣伝力」。この3つが掛け算にならないと売上は絶対に上がりません。業績が低迷するのは、このうちのどれかが弱っているからなんです。

ベンチャー企業のうちは社長も役員も社員も、一生懸命にお客さまを見ています。しかし規模が大きくなるとお客さまと本部が離れてしまい、客を見ない商売になってしまう。だから大企業には「お客さまをちゃんと見ましょう」と。マーケティングという括りで「KPI」とか「CPI」とか言い始めると、どんどん自社都合の話に変わっていきます。お客さまを見て、市場を作ることこそが大切なのに、結果を出すことを目標にすること自体が本来はおかしいですよね。

「顧客洞察力」×「商品力」×「宣伝力」の公式

Q:飯野さんは「成功する企業の条件」はどのようなものだとお考えでしょうか?

飯野:

皆が市場を、お客さまを見る習慣を持たない限り良いアイデアは出てきません。また、いわゆる「マーケティング」とは時代とともに変わっていくものなので、それを誰よりも早く取り入れて、必要とされているものを商品開発で形にし、ちゃんと宣伝していかなければ売れ続けることはない。「顧客洞察力×商品力×宣伝力」の公式が成り立たない企業は伸びないですね。

Q:数多くの企業再生案件を手掛けるリヴァンプでの仕事も、そういった観点で取り組まれていたのでしょうか?

飯野:

はい。ほとんどの場合、経営が傾いている会社とは「自己都合になっている会社」でしたね。だから徹底的にお客さまを見て、何が必要とされているのかを考えなければいけない。そうすれば商品を絞れるし、余計な事業もやらなくて済むんです。

Q:飯野さんご自身は、どのような方法で顧客洞察力を磨いてきたのですか?

飯野:

モニター調査やグループフォーカスインタビューを活用していますね。また、これは基本中の基本ですが、徹底的に現場に行くこと。現場に行ってお客さまの顔を見れば気付くので。

どんな事業にも、目指す先には必ずエンドユーザーの声がある

Q:一般的にエンドユーザーが見えにくいBtoB領域の場合はどうするべきでしょうか?

飯野:

BtoBって、そのBの先には必ずエンドユーザーがいるんですよ。実際の市場を作っているのはエンドユーザーなので。だから私は「BtoBtoC」なのだと考えています。「BtoBtoB」と言われたりもしますが、そんなものはないと思う。ビジネスが最終的に行き着く先はエンドユーザーであり、人そのものでしょう。だからこそお客さまとの会話を通じて市場を作らなければいけない。しかし企業規模が大きくなったり、代理店商売を展開したりすると、お客さまと会話する機会がなくなるんです。ITしかやっていない人だと、この感覚は分かりづらいのかもしれません。

人間の病気と同じで、会社の病気も「血液が回らない」と治らない。結局、「会社と会社」であろうが「経営者と経営者」であろうが所詮は「人」なので、コミュニケーションやリレーションを大切にする人であれば商売はうまくいきます。そういう人をどれだけ育てられるかが、大手企業にとって大切なことでしょう。

上司を見るのではなく、人を見る。お客さまを喜ばせるためならコストを掛けてでもやる。自分ができないことはできる人に頼む。それを組織としてできないとダメです。どの部署にもどの立ち位置の人にも、それは常にお話していますね。市場には、常に何かが不足していますから。

 

《編集後記》

「お客さまを見て商売をする」。言葉にすれば当たり前に思えることだが、組織が大きくなればなるほどそれができなくなっているケースが多い。それは往々にして、経営者自身の課題でもあるという。「マーケティング」という言葉が飛び交うとき、果たしてその言葉の意味は社内で統一されているだろうか。

インタビュー後編では、「顧客洞察力」×「商品力」×「宣伝力」の公式を踏まえて、PRプロフェッショナルとしての見地から企業経営を成功させるために何が必要なのかを伺う。

 

取材・記事作成:多田 慎介・畠山 和也

専門家:飯野 司

広報プロフェッショナル
学生時代より、父が経営していた飲食業に携わる。
クインタイルズ・トランスナショナル・ジャパンにて営業支援活動に従事した後、美容サービス会社を設立し、全国に21店舗を展開。
その後、REVAMPでの事業再生、新業態開発、チャネル開発、全国認知拡大支援を経て、Win-Win・Partnersを設立。
事業戦略にマッチする企業の紹介、異業種間によるリレーション構築によるチャネル開拓・企業認知拡大・Win-Winモデルの発案、実行支援に取り組んでいる。
現在は、大手やベンチャーなど約20社の顧問や社外取締役、アドバイザーを務める。