数多くの企業経営に関わり、「PRプロフェッショナル」として売上拡大に向けた提案を続けているWin-Win・Partners代表の飯野司さん。10代から経営の現場に触れ、2回の起業に成功している事業家でもある。
変化の激しい時代に勝ち残る企業の条件とは何なのか。ご自身の豊富な経験を踏まえて語っていただいた。インタビュー最終回となる後編では、企業業績を伸ばしていくために欠かせない「PR」の考え方と手法について伺う。
良い商品とニュースがあれば、自然とPR効果が生まれる時代
Q:飯野さんはPRの領域でプロフェッショナルとして手腕を発揮されています。さまざまな企業のPRに関わる中で、どのようなことを感じていらっしゃいますか?
飯野司(以下、飯野):
モノがない時代の広告は、「目新しさ」を常にアピールすることができたから買ってもらえたわけですよね。でも今はモノも情報も溢れていて、皆簡単には買わなくなってきている。これまでの消費者は企業を信頼していましたが、今は企業よりも個人を信頼し、口コミが何よりも重要視される時代です。考えてみれば、昔は身の回りにモノがなかったからこそ、企業が発信する情報を面白がってもらえたのかもしれませんね。
今は、消費者に対して「どんなニュースを作り、発信するか」「どのように共感してもらうか」を考えることが大切だと思います。かつては番組や雑誌に広告を出すことが売るための方法でしたが、今は「消費者に話題にしてもらう」時代。その流れがソーシャルメディアによって加速しやすい状況になってきていますね。
お客さまをちゃんと見て商品を作っていれば、ニュースなんていくらでも作れるはずなんです。皆、それをやらずして「売れない」と言っている。本来、「マーケティングとPR」は一心一体なんですけどね。
従来のやり方ではやはり通用しなくなってきているということでしょうか?
飯野:
今までは広告を通じてでなければ、知ってもらう術がなかっただけなんです。来店するお客さまはもともと商品に興味があるわけですから、広告効果が高いのは当たり前ですね。だけど物を売り続けるには、「興味がない人」にも知ってもらわないといけない。広告予算をさらに投下することは、そのための手段の一つに過ぎません。
もともとプロモーションというのは、「ちゃんとメディアに取り上げてもらえるようにニュースを作ること」です。良い商品を作って、そこにニュースがあれば、自然と取材に来てもらえますからね。これが「宣伝力」です。
どんなヒット作も、未来永劫売り続けることは不可能
Q:「宣伝力」が企業業績を伸ばすための重要なポイントになるということですね。
飯野:
はい。私はPRを考える際に、媒体や番組といった「ハコ」から考えるのではなく、ニュースを作るところから動かしています。ニュースを作れること自体が商売の根源なので。私は、「顧客洞察力・商品力・宣伝力」という3つの柱が一列でつながっていかなければ、長期的な商売は成り立たないと考えています。
「自分たちが作った商品は売れる」と思い込んでしまうと危険ですね。売れる商品かどうかを決めるのはお客さまです。お客さまとの会話もせずに、一時期ヒットしたものを売り続けることは不可能です。競合が現れた瞬間に、お客さまの見る目が変わるわけです。
だから常にお客さまを見る「顧客洞察力」を磨き、自分たちの商品を見つめ直しながら「商品力」を伸ばし続けなければいけません。それが連動して初めて「宣伝力」が発揮され、PRが効くんです。リリースの出し方やメディアとのリレーション作りといった「手段」は、後から学べば良いのだと思っています。
「血の通う経営」を続けていくために必要なこと
Q:飯野さんがあえて「宣伝力」を重視する背景は何でしょうか?
飯野:
なぜPRを中心に話しているかというと、「顧客洞察力」と「商品力」の2つは、起業している会社であればそもそも持ち合わせているんです。会社の売上があるということは、その売上レベルで市場から認められているということです。
だけど、この良さを伝える手段が分からないという場合が多い。「出し続けないとお客さまが来なくなる」といったような広告依存型に陥ってしまうと、ランニングコストがかさんでしまい、売上が上がっても良いものが作れなくなってしまうんです。その結果、商売がきつくなる。「客が来なくなる」という恐怖心から広告費を下げることもできない。そういった「出血状態が続いている」企業が多いんですよ。
Q:コストが高騰し、収益が低下していく悪循環にはまってしまうということですね。
飯野:
はい。「良いものを作って、ニュースを生み出せれば、取材が来る」というPRの流れをつかめば、広告費は下げられます。これをお客さま、商品に還元していくことが大切。そうするとことで初めて、会社に血が通い出すんですよ。「売れている会社」には理由があります。逆に、自分たちの売上ばかりに意識が向かうと、本質的な成功からはどんどん遠ざかっていきます。
PRは顧客を見なければ結果を出せない領域なので、一番会社の弱点が分かりやすいですね。広告はあくまでも「自分たちのことを一方的に伝える手段」であり、お客さまとのコミュニケーションではありません。PRを軸にすれば会社の全体像が客観的に見えて、本当の意味でのマーケティングができるようになっていきます。この観点を、今後も多くの企業で展開していければと考えています。
《編集後記》
「売れる商品かどうかを決めるのはお客さま」―飲食店での経験を礎とし、BtoB領域も含めた幅広い業界の経営に携わり、直に顧客と触れることを何よりも大切にしてきた飯野さんだからこその言葉だろう。
「顧客洞察力」から生まれる「商品力」と、それを最大限に生かす「宣伝力」。この3つの力を、飯野さんは常に企業経営の基本として考えているという。業績不振にあえぐすべての経営現場で、そして今後の飛躍を期すすべての起業家にとって、今一度見直してみるべき観点ではないだろうか。
取材・記事作成:多田 慎介・畠山 和也
専門家:飯野 司
広報プロフェッショナル
学生時代より、父が経営していた飲食業に携わる。
クインタイルズ・トランスナショナル・ジャパンにて営業支援活動に従事した後、美容サービス会社を設立し、全国に21店舗を展開。
その後、REVAMPでの事業再生、新業態開発、チャネル開発、全国認知拡大支援を経て、Win-Win・Partnersを設立。
事業戦略にマッチする企業の紹介、異業種間によるリレーション構築によるチャネル開拓・企業認知拡大・Win-Winモデルの発案、実行支援に取り組んでいる。
現在は、大手やベンチャーなど約20社の顧問や社外取締役、アドバイザーを務める。