不動産の販売、賃貸、流通事業を行う株式会社コスモスイニシア。同社が新規事業としてブランド展開しているのが、「APARTMENT HOTEL MIMARU」です。2016年当時、立ち上げのためのノウハウが社内にはなく、担当者の一人だった宿泊事業部 事業運営部 田中壮作課長(コスモスホテルマネジメント 事業本部長副本部長、以下:田中)はプロ人材の知見を求めていました。そこでアサインされたのが、ホテルの現場から経営まであらゆる知識を持つ朝倉博行さん(以下:朝倉)です。ゼロベースからどのように新機軸のホテル事業を成功に導いたのか、両名に詳しく伺いました。

新たに打ち出した手頃な価格帯の中長期滞在用アパートメントホテル。社内に知見がなく、オペレーション構築が最大の課題だった。

コスモスイニシアは、2005年にリクルートから独立した不動産企業。前身から受け継ぐチャレンジ精神で新規事業の展開も活発

田中:コスモスイニシアはもともとリクルートグループの中で不動産分野を扱うために事業をスタートしており、2005年のリクルートからの独立・2013年の大和ハウスグループ入りを経て、不動産業を45年続けてきた会社です。以前は住宅分譲を中心とした不動産事業を展開していました。売上も住宅関係が大半を占めていましたが、近年は投資用・事業用不動産の開発・仲介・賃貸管理の比率が増加し、また、新規事業を打ち出す動きが大きくなったことで、現在は4割ほどになりました。

創業当初から培われてきた「人を大事にする文化」は、今も根強く残っています。教育や成長に対する意欲が高いですし、チャレンジ精神も旺盛です。取引先からもよく「リクルートっぽい」と評されます。

自信を持って打ち出していた新機軸のホテルコンセプトに対し、どの企業も否定的。パートナー企業を探すのではなく自社でオペレーション会社を立ち上げることを決意。

田中:元々の着眼点は有休不動産の有効活用というアプローチでしたが、昨今はインバウンド市場が活況ということもあり、ホテル業界がトレンドとして盛り上がりを見せていたので、旺盛な需要を汲み取るべく新規ビジネスとして立ち上げようという方向性になりました。2016年頃です。不動産業を手掛ける当社の強みやマーケットニーズに鑑み、中長期滞在に適した広めの客室で、アパートメント型のホテルを展開したいと考えていました。ターゲットは訪日外国人旅行者です。市場に同じような業態のホテルはほとんど無かったので、ビッグチャンスだと感じていましたね。事業立ち上げを決めて1年の時点で用地取得まで済んでいました。

しかし、私も他のメンバーも未経験の素人ばかりだったので、そもそもどうやって運営現場のオペレーションを作るのか、ホテルの経営や経理の仕組みはどうするのか、マーケティングは、集客は…といった課題が山積みでした。

何社かオペレーター企業を開拓しようともしたのですが、どの企業も当社の掲げていたコンセプトに否定的で。「40平米ではなく20平米の部屋にしてはどうか」「うちなら13平米で3室にするのがベストですよ」といった返答ばかりだったため、これはオペレーション会社を作るしかない、という結論に至りました。まずはホテル事業に精通した人材をアサインする必要がありましたが、通常雇用ではなく立ち上げまでの期間限定で我々のプロジェクトに入っていただくのがベストだと考え、辿り着いたのがプロシェアリングという手法であり、朝倉さんです。

ホテルの現場から経営までを知り尽くしていたプロ人材がアパートメント型のホテルに期待をかけてくれたことが決め手

田中:もともと他の新規事業関係でもプロシェアリングのサービス会社様とはお付き合いがあったので、ホテル事業に関しても相談をしていました。すると、ホテル事業をいくつも手掛けてきたプロ人材がいるということだったので、紹介をお願いしました。

朝倉さんは現場の叩き上げで経営を行うまでに至った方。スキル面は申し分なく、私たちを幅広くサポートしてくれそうだと思いました。また、当社の打ち出していたコンセプトにも非常に肯定的な反応をしていただけたのです。年齢的にも経歴的にも重鎮レベルの方なので、素人が変なことを言うと怒られてしまうのではとも思っていたのですが、それどころかいろいろと的確なアドバイスをいただけました。パートナーとして非常に魅力的でしたね。

朝倉:2~3年ほど前から、東京を中心とした大都市に高級アパートメントホテル自体はありましたが、高額でした。手頃な値段で泊まれる業態はほとんどなかったため、コスモスイニシアさんの企画は空白地帯だったんです。私自身がNYに訪れた際に同じようなサービスを利用して使い勝手の良さを実感していたこともあり、いつか登場するサービスだと予見していました。

ただ、これまで私が手掛けてきたホテルとは全く違うジャンルであることは間違いありませんでしたから、支援するにあたっては自分自身の発想を柔軟に変えていこうと配慮していました。「今までのホテルはこういうものだ」と頑なになってしまうと上手くいかないだろうと考えたのです。そこは私なりの覚悟でもありましたね。

ホテルのベルボーイが、管理部門・経営の経験を積み20件近くのホテルの立ち上げに寄与するホテル事業のプロに

朝倉:私は学校卒業後に当時の第一ホテルに就職し、ベルボーイからキャリアをスタートしました。ウェイターやバーテンなども務めましたね。経験を積むうちに管理部門に移り、購買や経理、人事、企画などを手掛けるようになりました。ウェイターをしているだけではホテルの売上や利益、仕入れ値などは全くわかりませんでしたから、ホテルの裏側の仕組みを学べたことは自分の経歴の中でも非常に大きな影響を与えています。

その後は新規ホテル開発部に属し、大小合わせて10件ほどのホテルの立ち上げ・運営に携わりました。縁あって三菱地所が神奈川の厚木でスタートしたホテル事業の立ち上げにも協力させていただいたのですが、それがロイヤルパークホテルズの1号店です。三菱地所が本格的にホテル事業を展開することになり、お声がけいただいて転籍し、その後、横浜、汐留や福岡、京都、名古屋、羽田空港国際線ターミナルなどで8件ほど手掛けたところで還暦を迎えていました。定年してから65歳までは契約役員として新規開発と運営会社の社長をしていたのですが、忙しさはその5年間がピークでしたね。残ってほしいとも言われたのですが、引き際は自分で決めた方が良いだろうと思い、独立しました。

私が強みとしているのは、現場と開発の両方を知っていることです。自分もそうでしたが、現場は難しい理論を振りかざしても耳に入れてくれません。ですから支援にあたっては現場と一緒に考えながら伴走するスタンスにこだわっています。

的確なアドバイスを行うプロ人材と機動力の高いプロジェクトメンバーが息を合わせ、スピーディに事業を推進

仮説や目標に基づいてプロジェクトを進行する傍ら、メンター的立ち位置で朝倉さんに方向性をアドバイスしてもらった

田中:ホテルビジネスを立ち上げるにあたって、当初のメンバーは私を含め2名しかいませんでした。2017年頃にマーケティングチームとしてさらに2名加わったのですが、朝倉さんにジョインいただいたのも同時期ですね。メインのカウンターパートは私ではありましたが、広い意味では全員が指導を受けたような形です。そのまま少数で立ち上げにまで至っています。朝倉さんと密に議論を交わしながらビジネスの骨子を作ることができたので、進行は非常にスムーズでした。

朝倉:支援は月に2回でしたが、田中さんは非常に能力の高い方だったので、私があれこれを言うまでもなく、自分たちだけで進めて素晴らしい資料を作成していました。「自分たちでやるぞ」という気概が強かったのです。ですから私はそれに対して方向性や細かい部分などについてアドバイスするような支援でしたね。質問に答えることが多かった印象です。

田中:私自身、新規事業はずっとやってきた分野ですから、暗中模索には慣れていました。ある程度自分で仮説と目標を持って進め、わからないことがあれば朝倉さんに相談していましたね。自分たちが考えた方向性は客観的に見たらどう判断されるのかを知りたかったので、壁打ちに近い感覚で議論していました。

実務をスピーディに進めるという点においては、朝倉さんの経歴や人柄が重要な役割を果たしてくださいました。私一人が主張するのと、業界に詳しい朝倉さんが客観的に見てどう考えているのかを述べるのとでは、経営層や現場の受け取り方が全く違います。朝倉さんがいることで、プロジェクトにおける説明の納得感を高めることができました。

フロントデスクの内側から事務所、ホテルの基幹システムに至るまで、朝倉さんが経験と人脈を生かしてきめ細かにアドバイス

朝倉:支援の中では例えばフロントデスクの内側はどうなっているのかといった、現場の非常に細かい内容を聞かれることも多々ありました。現在のホテル業界における現場の様子は私でもわからないことがありますから、その点はいくつかの稼働中のホテルに聞いたり、実際に現場を案内することで解決しました。実際に採り入れるかどうかは別にしても、オペレーションは見てもらわないとわかりませんから。

田中:稼働中ホテルの現場見学ができたのは、朝倉さんの人脈あってこそですね。細部に至るまで見せてもらいました。ホテルの現場を明確にイメージができて、非常に勉強になりました。

朝倉:PMS(プロパティ・マネジメント・システム)という、ホテルの売上や顧客管理の基幹システムの選択などについてもアドバイスしました。メーカーが大小20社ほどあるのですが、MIMARUの規模感にマッチしていて、なおかつ十分な機能を果たせるものという観点で何社かに絞り、選んでもらいました。

田中:一般的なホテルがどうなのかという前提を踏まえた上で、「MIMARUならこうすればいいのでは」という柔軟なアドバイスをしてくれました。採用面でも協力してもらっていて、例えばフロントスタッフはどういう人が適しているのか、面接では何を聞くべきなのかという台本も一緒に作成しました。

「モックアップが必要」と言われて即座に対応。開業に向けて間違いのない部屋づくりができた

田中:開業に際して非常に良かった点は、朝倉さんからモックアップを作った方が良いと指摘を受けたことです。自分たちだけでは全く考えつかない発想でした。幸い当社は投資用不動産事業も行なっていますから、すぐにビルのワンフロアを手配して作成しました。

朝倉:非常に動きが速かったですね。必要な先行投資はあるのですが、普通は指摘を受けてもどうしようかと迷いますし、借りる場所にも困ることが多いんです。

田中:作ってみるとやはり変えた方が良い点が出てきましたから、モックアップでリハーサルしないまま稼働していたら悲惨だったと思いますよ。想定外の予算はかかりましたが、それで最終的に間違いのないものを作れたわけですから、大きな意味がありました。

コントロールセンターである子会社主導で事業の横展開を進め、2021年度1500室超の展開を目指していく

MIMARUブランドとして唯一無二の価値を持つホテルを作り上げることができ、出店目標も達成

田中:現在の目標は、2021年度までに1500室出店することです。現時点で総計1521室ほどの計画があり、稼働も順調で、目標値には達しています。今後は売上規模の拡大を狙いたいですね。

MIMARUの成功事例は大和ハウスグループ内でもある程度話題になりましたし、アパートメント型ホテルマーケットの存在を既存プレイヤーの方たちも認知したと思います。実際、競合他社が大きめの客室で展開し始めていますね。ただ、ホテルの価値は客室の広さだけでは決まりません。当社はコンセプトに合わせてゼロから朝倉さんと作り上げていますから、広い客室のホテルが登場したとしても、MIMARUと全く同じものにはならないはずです。

また、現在は子会社として創設したコスモスホテルマネジメントをコントロールセンターとして置き、横展開もスムーズにできるようにしています。組織としては大きな方向性をスピーディーに決定し、各店舗に水平展開してサービスブラッシュアップを行う中で、細かい改良・改善は現場で行えるようにしています。

朝倉:コントロールセンターとして子会社を作るのか、それとも事業部門を立ち上げるのかという議論もしましたね。結果的に子会社ができることになったので、パワーと人材はそちらに集中させることにしました。

過去の経験や価値観に固執しない朝倉さんのスタンスからも学ぶ点が多かった

田中:個人的に朝倉さんから学んだのは、キャリアの積み上げ方です。経験を重ねて年を取るにつれて、一定のものの見方や価値観が出来上がると思います。もちろんそれは正しい部分もあるのでしょうが、そこに固執してはいけないのだと朝倉さんを見ていて強く感じました。

朝倉さんはこれ以上ないほど経験豊富で、本来なら話を聞くのも恐れ多いくらいです。そんな方が、新しい事業に対して既存のものと違うからと頭ごなしに否定せず、「良いと思う」と言ってくれる。その上で、どこをどうするべきかを議論できるのは、関係性としても非常に魅力的ですよね。私も朝倉さんのような在り方を目指したいです。

朝倉:激しく変化を続けている今の世の中では、昔取った杵柄は通用しないことが多いです。自分のキャリアだけにしがみついていたら、そのうち相手にされなくなってしまいます。年を取っても勉強し続けなければならないというのは、常々感じていることです。今回の案件も非常に学ぶところは多かったです。

新しい業態を開拓したパイオニア企業としてビジネスの裾野をさらに広げてほしい

今後も3年後、5年後というスパンでMIMARUを定点観測してもらい、議論を交わしたい

朝倉:コスモスイニシアさん及びコスモスホテルマネジメントさんは、ホテル事業における空画地帯の業態を開拓したパイオニア企業です。今後も、アパートメントホテルといえばMIMARUという立ち位置で活躍してほしいですね。外国人旅行者以外の層にとっても使いやすいホテルだということが伝わるよう、今後はビジネスの裾野が広がっていけば良いなと思います。

田中:ビジネスは常に変化していかなければなりませんから、朝倉さんとは引き続き良い関係でいたいと思っています。まだ開業後のホテルはじっくり見てもらっていないので一度現場に来てほしいですし、3年後、5年後など節目のタイミングでも、方向性の是非について議論したいです。

誰もが唸るようなキャリアや経験を持っていても、常に学び続ける姿勢を忘れずに柔軟に新しい業態にも挑戦する。そんな朝倉さんの姿勢が、チャレンジ精神を持って新規事業に立ち向かうコスモスイニシアさんの気風とマッチしたように思います。

本日はお忙しい中、ありがとうございました!

企画編集:新井 みゆ

写真撮影:旭 里奈

取材企業:株式会社コスモスイニシア