今回の会計講座は、機会損失についてです。
ノマドやフリーランスとして独立して働いていくにあたっては、自分の稼働時間の振り分け方が重要になります。すなわち、働く時間や場所以外にも、どういった仕事を受けるか、もしくは断るかといった判断が重要になってきます。
受けるべきではない仕事に追われたり、来るべき仕事に備えて準備をしておかないと、重要な仕事を受ける機会を逸します。フリーランスが自身のスキルをどういった機会で活かすかの意思決定においても、機会損失の考え方は役に立ちます。
よく混同される「機会費用」という概念としっかり区別をして、覚えておきますしょう。
機会損失とは、利益を得る機会を逃すことで生じる損失
Q:機会損失とはどんな意味でしょうか?
A:機会損失とは得られる機会(利益)を失った損失のことです。
会計用語は、難解なイメージがありますが、この機会損失もその一つといえます。ビジネスにおいてはよく使われる用語なので、ぜひマスターしましょう。
まず、この「機会損失」ですが、漢字をよく見てください。これは本来ならば得られるはずの機会(利益)を得られなかったことによる損失を意味します。
例えば、お弁当屋さんがお昼前に弁当を売り切ったとします。そうすると稼ぎ時であるお昼に販売すべき弁当がなく営業することができません。もし多めにお弁当を用意しておけば得られたはずの機会(利益)が得られなかったため、機会の損失=機会損失と呼ばれるのです。
また、ラーメン屋さんが早い時間にスープや具材の品切れにより閉店をすることも機会損失が生まれた事例です。
すなわち、この機会損失とは、実際の取引によって発生した損失ではなく、より多くの利益を得る機会を逃すことで生じる損失のことを示します。事例としては上記にあげた通り、商品の在庫切れや調達不足による商品の販売中止などがあげられます。
過剰在庫のリスクと機会損失のリスクを合わせて考慮して意思決定をする
Q:機会損失を考えて、多めに商品を仕入れることは、リスクにはなりませんか?
A ビジネスにおいては商品を余らせる=過剰在庫=廃棄損が出る、ということで完売はいいことではないか、という見方ももちろんあります。
しかし、お客様の立場に立ってみると、お店にいったのに買いたい商品が無い、食事に入ったのに売り切れメニューばかりで注文できるものがない、という事態ですと、お客様は二度とお店に来てくれなくなるでしょう。
大量の廃棄損がでることは大問題ですが、機会損失がでることは将来のお客様の来店可能性も失ってしまうことからより一層の問題であると意識して下さい。
ビジネスでは新規のお客様を獲得するよりも既存のお客様に何度も来てもらう方が容易です。もし既存のお客様一人を失えば、その方から周りの友人などにあなたのお店の評判が伝わり影響は測り知れません。また失ったお客様に変わる新規のお客様の獲得にかける時間やコストを考えると機会損失を発生させて既存のお客様を失うことが大きなリスクであることが実感していただけるのではないでしょうか。
ぜひ自社のビジネスにおいて機会損失が出ないよう、需要を見極めてビジネスを展開していきましょう。
ベストな選択をするには。機会費用について考えてみる
Q:機会費用という言葉もよく聞きますが、違いを教えてください。
A:機会損失と機会費用、言葉は似ていますが、異なる概念です。
例えば、店を1ヶ月間休業して、1000万円かけてリニューアルする場合。工事に必要な1000万円という直接的な費用が発生するだけでなく、同時に、営業していれば得られたであろう利益も失います。これを「機会費用」といいます。
一つのことをすると、もう一つのことするチャンスは失われます、機会費用とはその失われるチャンスについて算出したものです。つまり、「あることをすることで、失われる他のこと」を算出したものです。
どのような選択をしても必ず発生する費用なので、機会損失のように少なければ少ないほどいい、ということではなく、選択の結果としてられる収益と費用を比較してみないことには、その良し悪しの判断はつきません。
今回は、機会損失と機会費用について解説しました。ビジネスを行っていくうえでは、実際に計上された損失、費用だけではなく、利益を得られる機会を逃したことで生じる損失や、ある選択肢をとったために失った利益についても考えておくことが重要です。
専門家:江黒 崇史
大学卒業後、公認会計士として大手監査法人において製造業、小売業、IT企業を中心に多くの会計監査に従事。
2005年にハードウェアベンチャー企業の最高財務責任者(CFO)として、資本政策、株式公開業務、決算業務、人事業務に従事するとともに、株式上場業務を担当。
2005年より中堅監査法人に参画し、情報・通信企業、不動産業、製造業、サービス業の会計監査に従事。またM&Aにおける買収調査や企業価値評価業務、TOBやMBOの助言業務も多く担当。
2014年7月より独立し江黒公認会計士事務所を設立。
会計コンサル、経営コンサル、IPOコンサル、M&Aアドバイザリー業務の遂行に努める。