前回までは会計とファイナンスの違いについて、解説をしました。これと同様に混同してしまいやすいのが、税務会計と財務会計の違いです。

 

これから起業を考えている方や、まだスタートアップの段階という場合には、まずは、税金対策ができる税務会計を覚えておきましょう。もちろん、今後会社を大きくしていくにあたって財務会計も必要となりますので、双方の目的や処理の違いについては、しっかりと確認しておきましょう。

税務会計と財務会計。会計では「利益と費用」が、税務では「所得と損金」に

Q:「税務と会計は処理が異なる」と聞くことがありますが、税務と会計で何が違うのでしょうか。

A:税務会計は税務処理を意識した会計処理を選択することをいいます。
当然、税務会計でも会計処理をしますが、公平な課税の目的から会計基準と異なる定めがあるのです。

 

一方、上場企業や会社法上の大会社(資本金5億円以上又は負債200億円以上)では株主をはじめとした利害関係者に広く会計を報告する説明責任があり、これを「財務会計」と言います。
なお、実務では税務会計を「税務」、財務会計を「会計」と省略し、「税務と会計は処理が異なる」と表現します。

 

【会計と税務の簡易イメージ】

会計 税務
目的 投資家のための情報提供 公平な課税の実施

 

会計と税務で混乱する原因としては会計では利益と費用という概念が、税務では所得と損金となるところでしょう。そして利益≒所得、費用≒損金なのです。両者は似ているものの一部異なっており、会計では費用でも税務では損金に入らない処理があるのです。

会計と税務の処理の違い。税務では不確定な状況では損金にできない

Q:会計と税務で項目や処理の仕方が違うのは、なぜですか。

A:上述したように、会計が適正な経営成績の報告を目的としているのに対して税務では公平な課税所得の計算を目的としているためです。
公平な課税を徴収するために税務では損金処理できる要件を厳格に定めているのです。

 

例えば、売掛金について会計上は相手先からの回収に懸念が生じた際に保守的に回収可能性を評価します。一方、税務では、売掛金の回収可能性について、回収不能額として評価するのは会社更生法が適用された場合や相手先の債務超過の状態が相当期間継続し、事業の好転の見通しがつかない場合など、会計に比較してその回収不能見込み額の評価を厳しく定めています。

 

具体的には、会計では売掛金について会社内で回収予定日から3ヶ月経過したら貸倒引当金を計上するというルールを設けて実際に計上することができます。一方、税務ではそのような会社の自主的ルールで損金(税務上の費用)に計上することはできないのです。

 

会計と税務は、その目的からそれぞれ処理が違うということをご理解ください。特に税務では不公平な課税にならないよう不確定な状況では損金にできない≒税金がかかる、というイメージを持っていただければと思います。

専門家:江黒 崇史

大学卒業後、公認会計士として大手監査法人において製造業、小売業、IT企業を中心に多くの会計監査に従事。
2005年にハードウェアベンチャー企業の最高財務責任者(CFO)として、資本政策、株式公開業務、決算業務、人事業務に従事するとともに、株式上場業務を担当。
2005年より中堅監査法人に参画し、情報・通信企業、不動産業、製造業、サービス業の会計監査に従事。またM&Aにおける買収調査や企業価値評価業務、TOBやMBOの助言業務も多く担当。
2014年7月より独立し江黒公認会計士事務所を設立。
会計コンサル、経営コンサル、IPOコンサル、M&Aアドバイザリー業務の遂行に努める。