前回の会計講座で学んだ機会損失と機会費用と同じくらい重要な概念が、埋没費用(または埋没原価)です。埋没費用とは、サンクコストともいいますが、過去において支出された費用(原価)のことです。埋没費用(サンクコスト)とは、事業や行為に既に支払ってしまっているコスト(資金や労力)で、取り返すことができないコストであるにもかかわらず、しばしば意思決定に影響を与えるものになります。

 

多額の費用をかけたが赤字になりそうなプロジェクトの場合、経営者としてどんな判断をするべきでしょうか?将来にわたり無駄な支出や損を出さないように、埋没費用の考え方を、しっかりと身につけておきましょう。

赤字が濃厚なプロジェクト、続行それとも中断?埋没費用とは

Q:埋没費用とはどんな意味でしょうか?

A:前回のコラムで機会損失についてお話をしました。この機会損失と並んでよく質問を受ける用語が「埋没費用」という言葉です。

 

埋没費用は「埋没」という言葉が示すように過去に支出・費消されたが今後の経営判断・意思決定に影響を与えないものや、新規プロジェクト開始の際に新規プロジェクトの有無にかかわらず発生する人件費や地代家賃のような固定費を指します。

 

大事なポイントは、今後の意思決定に影響を与えない過去の支出のみを対象とし、取り返しのつかない費用や意思決定の有無にかかわらず発生する費用(機会費用)は今後の経営判断に含めてはいけないということです。

 

例えば、大型のダム工事や高速道路のような、大きなプロジェクトがスタートした場面を思い浮かべてください。このプロジェクトの継続にあたり、途中でそのプロジェクトの採算性がどう見込んでも赤字になってしまったり、追加のコストが想定以上に発生すると分かったときに、あなたはどう考えますか?

 

「これまで○○億円投資したのだから、このプロジェクトを何が何でも完成させなければもったいない」
と思われたでしょうか。

 

でも過去に○○億円投資をした、ということに引っ張られて赤字プロジェクトを推進することが本当に正しいでしょうか。

埋没費用にとらわれない意思決定を

Q:感情的な判断をしないためには、どうしたらいいでしょうか。

A:こうした過去の支出=埋没費用にとらわれずに意思決定することが経営判断として求められます。

なぜなら過去において支出した費用はもう取り戻せないものです。今後も赤字となるプロジェクトに対する経営判断において、取り戻せない過去の埋没費用にとらわれてはいけません。
未来に向けた経営判断として今後得られる効果と今後の費用を比較考慮して意思決定すべきなのです。

 

途中で採算が悪いと分かった建築中の道路やビルを「もったいないから」とその後も費用を重ねて完成させても、成果が得られないのであれば、完成させるだけ無駄なことがわかっていただけると思います。

 

この埋没費用が発生するのは何も大型の開発に限りません。例え新規のアプリ開発や出版プロジェクトなどでも、仮にそのプロジェクトが完成しても、成果が得られないのであれば、過去に支出した費用は埋没費用です。

もったいない、という感情もわかりますが、ぜひ埋没費用という言葉を覚えて、過去に支出した原価に惑わされないようにしましょう。そのような経営判断をすることで、将来にわたり無駄な支出や損が出るプロジェクトを止めることができるのです。

専門家:江黒 崇史

大学卒業後、公認会計士として大手監査法人において製造業、小売業、IT企業を中心に多くの会計監査に従事。
2005年にハードウェアベンチャー企業の最高財務責任者(CFO)として、資本政策、株式公開業務、決算業務、人事業務に従事するとともに、株式上場業務を担当。
2005年より中堅監査法人に参画し、情報・通信企業、不動産業、製造業、サービス業の会計監査に従事。またM&Aにおける買収調査や企業価値評価業務、TOBやMBOの助言業務も多く担当。
2014年7月より独立し江黒公認会計士事務所を設立。
会計コンサル、経営コンサル、IPOコンサル、M&Aアドバイザリー業務の遂行に努める。