前回お話しした、税務会計と財務会計の役割を、ここでもう一度確認してみましょう。公平な課税をするための会計が「税務会計」、投資家に向けて会社の成長を示すのが「財務会計」でした。
そして今回の「管理会計」は、企業内部で自社事業を客観的に見極めるため、社内に向けた報告のためのものとなります。

 

対外的なものではないのでルールはありませんが、誰が報告を見るのか、どのような目的で使用するのかによって、データの出し方ひとつにも工夫が必要など、社内では、税務会計、財務会計よりも重要視されるものです。

 

自分には必要ない、と考えている方も、覚えておくことで、今後必ず役に立つ知識です。ぜひ基本の概念だけでも理解しておいてください。

管理会計とは、経営の意思決定や業績向上のために必要な会計のこと

Q:管理会計とは、何のための会計なのでしょうか。

A:管理会計とは社内の経営のために用いる会計であり、例えば予算実績の分析や部門別・商品別分析を実施するためのものです。
会社経営において、事業計画を立てて経営を実践していくに当たっては、常に自社の状況を把握しておく必要があります。このように、自社内向けに経営に資する会計情報を算定することを管理会計と呼びます。

 

一方、有価証券報告書や決算短信のように外部に向けて報告する際に用いる会計を財務会計と呼びます。

 

【財務会計と管理会計の簡易イメージ】

財務会計 管理会計
目的 外部の利害関係者へ報告するための会計 経営者のための経営に役立つ資料提供のための会計
基準 一般に公正妥当と認められた会計基準 自社内でルールを設けて良い

 

管理会計の範囲としては、予算立案、予算実績比較、原価計算、事業部別損益計算、商品別損益計算、CVP分析等となります。
この管理会計が重要となってくるのは会社の経営に役立つ情報を提供できるためです。会社の経営においては自社の状況について、即時に情報を得る必要があります。月次決算や事業部別損益、商品別損益の資料がなければ、自社の経営が上手くいっているのか把握することができません。

社内向けであっても、数字はきっちり一致させる

Q:管理会計を作成する際のルールを教えて下さい。

A:経営に資する必要な会計情報を提供するための会計が管理会計です。
色々な視点で分析をするものなので、各社で同一の管理会計資料を作らなくてはならないといったルールはありません(ただし、原価計算については原価計算基準があります)。しかし自社にとっては、経営状態を管理するために必要なものなので、重要な意味を持っています。

 

管理会計を作成する際に重要なポイントとしては、①財務会計との連動を意識すること、②経営者や部門長の視点に立つこと、が挙げられます。

 

まず財務会計との連動ですが、管理会計が自社のルールで情報を集約したとしても、その売上高や粗利益、営業利益が異なってしまうようでは資料として不十分です。日々の会社の状況を集約して経営に資する資料ですから、最終的な外部報告の財務会計数値と異なっていては、経営判断の資料として役に立ちません。管理会計があって財務報告があるという流れであり、原因と結果の関係と考えてください。

 

例えば部門別売上高の資料を作ったとします。第一営業部、第二営業部、第三営業部と部門別損益資料を作った際に、売上高の合計が損益計算書の売上高と差異が生じてしまっては、おかしいですよね。各部門の売上高が積み上がり(原因)、会社の売上高となる(結果)になるはずです。

自社の成長に合わせて、管理会計の作成方法も変更を

Q:経営者や部門長の視点に立つとは、どういうことでしょうか。

A:もう一つ考えるべきなのが、管理会計は経営判断に役立つための資料ですから、社長や部門長の視点に立ち会社を観るという点です。社長であれば、「どの製品の利益率が高いのだろうか」という視点で製品別の売上・利益情報が欲しいでしょうし、部門長であれば「うちの部門は他の部門と比べて利益がでているのだろうか」という情報が欲しいでしょう。そのような視点から自社の管理会計制度を構築していってください。

 

例えば、営業部門別の損益計算書を作成して見ましょう(本来は費用の按分について難しい計算が必要ですが本コラムでは簡素化して説明させていただきます)。

 

   第一営業部    第二営業部
売上高 8,000 12,000
売上原価 4,400 6,960
粗利益 3,600 5,040
粗利益率 45% 42%
販売費及び一般管理費 2,400 4,000
営業利益 1,200 1,040
営業利益率 15% 9%

 

売上高だけを見れば、第二営業部の方が大きいですが、部門別の営業利益や営業利益率は第一営業部の方が高いです。どの数字に焦点を当てるのかは、管理会計を必要としている人の立場に立って考えてみることが必要です。
このように部門別損益計算書を作成することで各部署の状況が分かり改善への行動を取ることができます。

 

また管理会計は一度確立したら、それでお終いという訳ではありません。自社の成長と共に常に見直して、より経営に資する情報提供ができるようにしてください。

専門家:江黒 崇史

大学卒業後、公認会計士として大手監査法人において製造業、小売業、IT企業を中心に多くの会計監査に従事。
2005年にハードウェアベンチャー企業の最高財務責任者(CFO)として、資本政策、株式公開業務、決算業務、人事業務に従事するとともに、株式上場業務を担当。
2005年より中堅監査法人に参画し、情報・通信企業、不動産業、製造業、サービス業の会計監査に従事。またM&Aにおける買収調査や企業価値評価業務、TOBやMBOの助言業務も多く担当。
2014年7月より独立し江黒公認会計士事務所を設立。
会計コンサル、経営コンサル、IPOコンサル、M&Aアドバイザリー業務の遂行に努める。