複数の事業を行っていたり、子会社・グループ会社がある場合、財務諸表から事業ごとの収益性を判断するのは、非常に困難です。
そこで有効なのが、セグメント情報です。事業部門や地域ごとに区分されたデータを作成することで、事業単位の収益性をわかりやすくすることができます。

このセグメント情報を使って自社や他社を分析することで、どの事業が成長しているのか、逆に、どの事業を強化すべきなのかを把握し、効果的な経営戦略を立案しましょう。

強い事業、弱い事業を見極める

Q:セグメント情報とは、どういった情報なのでしょうか

A:セグメント情報とは会社の事業や地域別に分類して報告された会計数値の情報です。

複数の事業を展開している企業においては、合計の売上や損益の情報だけでは事業の実態の把握が困難です。そこで、それぞれの事業での売上や損益といった会計数値を報告する会計がセグメント会計です。非上場会社の決算書ではセグメント情報は開示されていませんが、上場会社であれば年度の有価証券報告書で開示がなされており、会社の戦略を把握する上では非常に重要な情報となります。

このセグメント情報をみることで、企業のどの分野が強く、どの分野が弱いのか、また経営戦略の方針も把握することができます。
セグメント情報としては、報告セグメントとして企業の主要事業を報告します。そして、関連情報として(1)製品及びサービスごとの情報、(2)地域ごとの情報、(3)主要な顧客ごとの情報、を開示していきます。

時系列でデータを見ることで、注力している事業がわかる。オプトの場合

Q:セグメント情報では、データはどのように見ればいいのでしょうか。

A:まずは、企業がどんな事業に力を入れているのかを読み取ることができます。
例として、インターネット広告代理店の大手オプト社をみてみましょう。オプト社は平成25年12月期から新規で「投資育成事業」を新たにセグメント情報として加えました。これは同社が新たな事業の柱としてベンチャー企業の成長・育成事業に力を入れることの表れであります。
以下が同社の報告セグメントです。

【オプト社の報告セグメント】

事業区分 事業内容
広告・ソリューション事業  広告代理、制作、SEO、オムニチャネル開発・販売等
データベース事業  データベース、インターネット広告効果測定システム等
ソーシャル&コンシューマ事業  モバイルコンテンツ・ソーシャルアプリの企画開発、IT人材の育成・派遣等
海外事業  韓国・台湾における広告代理事業、米国における情報収集等
投資育成事業  インターネット関連ベンチャー企業への投資等

さらに、有価証券報告書に記載のある情報をみると、以下の報告セグメントで平成24年12月期と平成25年12月期を比べると、広告・ソリューション事業が前年比較で苦しんだものの、海外事業は売上を伸ばし、また新設した投資育成事業が売上でも利益でも貢献したことがわかります。

【オプト社報告セグメント 簡易版 平成24年12月期】

報告セグメント 調整額 連結財務諸表計上額
広告・ソリューション事業 データベース事業 ソーシャル&コンシューマ事業 海外事業
売上高
外部への売上高 71,701,260 2,452,358 2,129.351 2,626,319 78,909,290 78,909,290
セグメント間の内部売上高または振替高 39,683 256,187 36,353 332,224 △332,224 0
71,740,943 2,708,545 2,165,704 2,626,319 79,241,525 △332,224 78,909,290
セグメント利益または損失(△) 1,985,841 288,526 △590,003 △162,227 1,552,136 △15,741 1,506,394

【オプト社報告セグメント 簡易版 平成25年12月期】

報告セグメント 調整額 連結財務諸表計上額
広告・ソリューション事業 データベース事業 ソーシャル&コンシューマ事業 海外事業 投資育成事業
売上高
外部への売上高 58,412,322 2,802,329 2,323,715 3,486,740 599,182 67,624,291 67,624,291
セグメント間の内部売上高または振替高 1,945 330,038 41,604 2,098 375,687 △375,687 0
58,414,268 3,132,368 2,365,320 3,488,838 599,182 67,999,979 △375,687 67,624,291
セグメント利益または損失(△) 706,203 453,104 29,380 △165,144 273,043 1,296,586 3,733 1,300,319

このようにセグメント会計をみることで会社がどの分野に力を入れているのか、どの分野が苦戦しているのかわかります。

地域別の売上高から、経営戦略を読み取る。富士重工の場合

Q:地域ごとのセグメント情報からは、どんなことがわかるのでしょうか。

A:セグメント情報の内、地域ごとの情報を見ることで会社の戦略が分かります。
例えばスバルで有名な富士重工の地域ごとの売上高情報を見ると、地域ごとの戦略や伸びがわかります。

【富士重工社 地域ごとの売上高情報 平成25年3月期】

日本 北米 欧州 アジア その他 合計
内、米国
671,819 895,986 815,801 127,188 113,235 104,740 1,912,968

【富士重工社 地域ごとの売上高情報 平成26年3月期】

日本 北米 欧州 アジア その他 合計
内、米国
672,060 1,322,760 1,220,961 134,680 154,392 124,273 2,408,129

このセグメント情報を見ると、同社の北米、とくに米国への販売戦略が読み取れます。当時は円安でもあり、米国の景気回復に伴い、米国への売上が伸びていることが同社の好業績に結びついていると思います。
しかし、もしもまたリーマン・ショックの様な金融危機や大幅な円高となった際には、米国への依存度が高いこの戦略は大きなリスクを伴っているとも読み取れます。

このようにセグメント情報は会社の戦略を読み取れる非常に重要な情報です。ぜひ企業分析等の際にはセグメント情報を活かしてください。

専門家:江黒崇史
大学卒業後、公認会計士として大手監査法人において製造業、小売業、IT企業を中心に多くの会計監査に従事。
2005年にハードウェアベンチャー企業の最高財務責任者(CFO)として、資本政策、株式公開業務、決算業務、人事業務に従事するとともに、株式上場業務を担当。
2005年より中堅監査法人に参画し、情報・通信企業、不動産業、製造業、サービス業の会計監査に従事。またM&Aにおける買収調査や企業価値評価業務、TOBやMBOの助言業務も多く担当。
2014年7月より独立し江黒公認会計士事務所を設立。
会計コンサル、経営コンサル、IPOコンサル、M&Aアドバイザリー業務の遂行に努める。

ノマドジャーナル編集部
専門家と1時間相談できるサービスOpen Researchを介して、企業の課題を手軽に解決します。業界リサーチから経営相談、新規事業のブレストまで幅広い形の事例を情報発信していきます。