会社の使命は、利益を出すことです。そのため、利益を扱う会計を理解することは経営者にとっては必須であるといえます。
ですが、利益だけを追い求めていたのでは成長は望めません。利益を出すことと同じくらい重要なのが、「将来獲得するキャッシュ・フロー」を増やすことです。
そこで必要なのが、新規事業を立ち上げたり、大きな設備投資や事業投資をしたりといった、未来に向けた視点を持つことです。
ぜひファイナンスの知識を身に付け、将来の計画づくりに役立ててください。
過去の利益を扱うのが会計、将来の現金を扱うのがファイナンス
Q:実務ではファイナンスという言葉をよく耳にします。会計とファイナンスは同じなのでしょうか、異なるのでしょうか。
A:会計とファイナンスはまったく異なる概念です。
実務では会計とファイナンスという言葉を良く耳にされると思います。両者は似ているようなイメージをお持ちの方もいるかと思いますが、実は全く異なる概念です。
会計は、企業の経営成績や財政状態を株主や投資家に対して公表するためのものです。その対象は過去の情報となります。たとえば3月決算をしている企業の決算書の場合、損益計算書は4月1日~3月31日の期間報告であり、決算日は3月31日一時点の報告となっているのです。
一方、ファイナンスは新規事業の参入や海外への進出の際に用いられる考え方です。時間軸を未来において、企業価値の最大化のために、将来キャッシュ・フローを分析し資金調達や投資の意思決定をしていきます。日本語ではファイナンス=財務と訳されるため、会社によっては、ファイナンス=銀行対応、という印象があるかもしれませんが、資金の調達と投資、運用を考える活動なのです。
また会計では資産の評価や利益を重要視します。一方ファイナンスではキャッシュを重要視します。このように会計とファイナンスでは、その目的や時間軸、重要視する指標などが異なります。
会計 | ファイナンス | |
目的 | 適正な財政状態、経営成績の開示 | 企業価値の最大化 |
重要概念 | 資産、利益 | キャッシュ |
時間軸 | 決算日、会計期間 | 将来 |
会社を成長させるには、ファイナンスの視点が大事
Q:会計とファイナンスについて異なる概念ということがわかりました。この2つの具体的な役割分担を教えてください。
A:例えば、製造業で工場の原価計算を実施するのは会計の視点です。一方、新規に工場を作るのか、外注するのか、その資金調達はどのような手段で行うのか、というのはファイナンスの視点となります。
会社にとって利益を出すことは当たり前のこと。さらに事業を成長させていくには、現金を使って投資をして、リターンを生み出していくことが必要です。この時にファイナンスを用います。
またファイナンスに関わる用語は、儲けをリターン、資金の流れをキャッシュ・フロー、将来の不確実性をリスクなど、カタカナであることが多いのも特徴と言えます。これは私見ですが、ファイナンスの考え方は欧米から導入された概念が多く、英語のままカタカナで使う方が当事者としてはイメージがしやすいからだと感じています。
混同しがちな概念ですが、両者の特徴についてイメージを意識して言葉を使ってみてください。
専門家:江黒 崇史
大学卒業後、公認会計士として大手監査法人において製造業、小売業、IT企業を中心に多くの会計監査に従事。
2005年にハードウェアベンチャー企業の最高財務責任者(CFO)として、資本政策、株式公開業務、決算業務、人事業務に従事するとともに、株式上場業務を担当。
2005年より中堅監査法人に参画し、情報・通信企業、不動産業、製造業、サービス業の会計監査に従事。またM&Aにおける買収調査や企業価値評価業務、TOBやMBOの助言業務も多く担当。
2014年7月より独立し江黒公認会計士事務所を設立。
会計コンサル、経営コンサル、IPOコンサル、M&Aアドバイザリー業務の遂行に努める。