会社分割とは、簡単にいうと事業を切り離すことです。以前に解説をした事業譲渡と同じ結果が得られますが本質的な目的が違います。
※事業譲渡については、以前の解説記事も合わせてご覧ください(https://nomad-journal.jp/archives/1346

事業譲渡が、単に事業を売買するという売買契約であるのに対して、会社分割は会社法に規定された組織再編手法であり、事業の売買を行うだけでなく、会社の一つの部門をほかの会社に承継させることを意味しています。

会社分割におけるメリットだけでなく、事業譲渡との違いも理解することで、状況に応じた選択ができるようにしておきましょう。

組織再編に、会社分割が有効な理由

Q:会社分割とはどういった手法なのでしょうか。会社分割を用いたM&Aではどういったメリットがあるでしょうか。

A:会社分割とは会社を複数の会社に分割する手法です。
会社を経営すると複数の事業が生まれることが多いと思います。一つの会社で複数の事業を運営することは悪いことではないのですが、その事業を複数の会社に分割する手法として会社分割という手法があります。

M&Aにおいては対象会社の事業を切り離して取得できることがメリットです。対象会社の全てを取得する合併とは異なり、事業だけを切り離せることから、事業を取得する側にとっては欲しい事業だけを取得できます。また、自社内に不振事業や切り離したい事業がある場合は、当該事業だけを切り離すことができ、売る側、買う側の双方にとってメリットがあります。

会社分割の主たる手法:吸収分割と新設分割

なお、会社分割の主たる手法としては、①吸収分割と②新設分割があります。
まず吸収分割ですが、下記のイメージとなります。


吸収分割は、A社が保有している複数の事業のうち、1つ(場合によっては全部)を他の会社(上記ではB社)へ承継させる手法です。最近ではオーディオ事業のオンキョー社が組織内再編で吸収分割を採択しています。

次に新設分割ですが、下記のイメージとなります。


新設分割では新たに会社を設立して、その会社に事業を承継してもらいます。
最近では、インターネット広告業のオプト社が持株会社への移行に際して、新設合併により組織変更をしております。

会社分割と事業譲渡。手続きのしやすさでは、会社分割に軍配

Q:会社分割と事業譲渡の違いについて教えてください。

A:事業を切り離すという結果を得るという意味では、会社分割も事業譲渡も同様です。

しかし、事業譲渡は現金で必要な事業を取得するのに対し、会社分割は対価が基本株式のため、現金を用いずに必要な事業を取得できます。
また事業譲渡では、債権債務や従業員の引き継ぎについて個別で調整が必要となりますが、会社分割であれば、包括承継のため個別の調整は不要です。

こういった違いから、コンパクトに実行したい場合には事業譲渡が選択されることが多く、債権者が多く同意をもらうことが困難だったり、対価が大きくなる場合などは、会社分割のほうが優れているとされています。

なお事業譲渡の場合には、債権者や従業員の扱いで手続きが煩雑になったり、債権者や従業員の同意を得られないというリスクも考慮に入れておく必要があります。

会社分割と事業譲渡を簡単に比べると、以下のようになります。

           会社分割 事業譲渡
  資金負担   原則不要   必要
  債権債務の移転   包括承継   個別に調整
  許認可の承継   原則承継   承継されない
  従業員の承継   原則承継   個別に調整

大きな違いは、やはり取得に対して資金を用いるか否かです。
事業の取得ないし分離を考える際には、個別の手続きの煩雑さや資金力などを勘案して、会社分割か事業譲渡を選択するよう留意してください。

専門家:江黒崇史
大学卒業後、公認会計士として大手監査法人において製造業、小売業、IT企業を中心に多くの会計監査に従事。
2005年にハードウェアベンチャー企業の最高財務責任者(CFO)として、資本政策、株式公開業務、決算業務、人事業務に従事するとともに、株式上場業務を担当。
2005年より中堅監査法人に参画し、情報・通信企業、不動産業、製造業、サービス業の会計監査に従事。またM&Aにおける買収調査や企業価値評価業務、TOBやMBOの助言業務も多く担当。
2014年7月より独立し江黒公認会計士事務所を設立。
会計コンサル、経営コンサル、IPOコンサル、M&Aアドバイザリー業務の遂行に努める。
ノマドジャーナル編集部
専門家と1時間相談できるサービスOpen Researchを介して、企業の課題を手軽に解決します。業界リサーチから経営相談、新規事業のブレストまで幅広い形の事例を情報発信していきます。