今回からは、M&Aの具体的な手法について解説していきます。
今回は「株式譲渡」についてです。
株式を保有することで会社を支配する方法で、手続きも簡単なため、中小企業でもよく行われています。独立して会社を設立した際は、資本政策の検討や将来のM&Aでのイクジットの可能性含めて知っておいたほうがよいでしょう。
なお、株式譲渡では、会社名や取引先との契約関係などもすべて引き継がれるので、対外的には大きな変化はありません。
例えば、親から子へ事業継承をする場合にも必要な手続きになりますので、ぜひ覚えておいてください。
株式を一番多く持つ人が、経営権を持てる
Q:株式を譲渡する、取得するということはどういうことなのでしょうか。
A:株式は会社の所有権を意味します。そのため、株式を譲渡することは経営権を譲ること、取得するということは会社の経営権を買う、ということになります。
会社というのは目に見えない存在です。そこで、株式という形を取ることで、保有者は株主として会社の経営に関与する権利を持つことができます。
一般的に、会社を買う(買収する)ということは、その会社の株式を買うことを意味しますが、中にはその会社そのものではなく一事業部門だけ買うこともあります。
その場合は、株式譲渡と区別して事業譲渡と呼びます。
何を買う | 手法 | |
会社を買う | 会社そのものを買う | 株式譲渡 |
会社の一事業だけを買う | 事業譲渡 |
株式を保有すれば、その会社の所有権を支配することになります。結果として、会社の重要事項を決める株主総会の意思決定をコントロールできることとなります。
最近ですと、高級家具の販売で有名な大塚家具が、今後の会社運営方針について会長と社長が対立し、取締役の選任を巡って株主総会の議決権の委任状争奪戦が生じたことが記憶に新しいと思います。
経営権を維持するには、株式を50%以上保有することが目安
Q:株式譲渡の際に、注意するべきことはありますか。
A:非上場企業であれば、通常、株式を譲渡するのに取締役会の承認を得るという制限をかけるので、経営陣の知らないうちに株式が誰かの手に渡り、会社を買収されてしまうということは、起こりえません。
一方、上場企業であれば、株式が市場に流通しているため誰でも株式を購入することができます。そのため、会社を上場させるときのデメリットとして、企業買収の脅威にさらされたり、敵対的買収のリスクが高まるといわれています。
このように、株式の譲渡及び取得は会社の経営方針の決定に影響を与えたり、M&Aの脅威にさらされるといった、大きな問題につながりますので、自社の株式をしっかりと把握・管理しておくことが必要です。さらに、株式の譲渡や新株式の発行の際にも誰にどれくらいの議決権を渡すのか意識して決めることが大切です。
なお、非上場企業や上場していても若いベンチャー企業であれば、経営陣で50%以上を保有しておくことで、経営の意思決定の迅速さや経営権の安定を守ることができます。
一方、株式を取得する側に立った場合には、どれくらいの議決権をどれくらい保有できるのか、その効果はどれほどなのか意識して取得の検討をしてください。例えば、50%超取得すれば子会社として売上や利益を連結決算で取り入れることができます。そのため、多くの会社が過半数の取得を目指してM&Aを検討するのです。
株式会社にとって株式というのは、一番の大事な権利であることを強く意識して経営に臨んでください。
大学卒業後、公認会計士として大手監査法人において製造業、小売業、IT企業を中心に多くの会計監査に従事。
2005年にハードウェアベンチャー企業の最高財務責任者(CFO)として、資本政策、株式公開業務、決算業務、人事業務に従事するとともに、株式上場業務を担当。
2005年より中堅監査法人に参画し、情報・通信企業、不動産業、製造業、サービス業の会計監査に従事。またM&Aにおける買収調査や企業価値評価業務、TOBやMBOの助言業務も多く担当。
2014年7月より独立し江黒公認会計士事務所を設立。
会計コンサル、経営コンサル、IPOコンサル、M&Aアドバイザリー業務の遂行に努める。
専門家と1時間相談できるサービスOpen Researchを介して、企業の課題を手軽に解決します。業界リサーチから経営相談、新規事業のブレストまで幅広い形の事例を情報発信していきます。