会社を大きくするために他企業を買収したいけど、資金力がない。こんな時に有効なのが、株式交換と株式移転というM&Aの手法です。

企業買収というと資金力が必要なイメージがあるかと思いますが、この2つの方法であれば、現金の支出を伴うことなく、完全子会社を取得できます。そのため、株式譲渡で会社を取得することが難しいものの市場での評価は高く株価が高い会社が好んで用いています。

買収や組織再編など、目的や自社の状況に合わせて株式交換・株式移転をすることで、経営や会社の成長に活かしていきましょう。

株式を取得する資金力がない場合に会社を取得する方法

Q:株式交換などを用いれば、現金がなくてもM&Aができるのでしょうか。

A:株式交換や株式移転という方法で、M&Aを行うことができます。両者とも取得対象会社を100%子会社とする点では同じですが、株式交換ではすでに存在する会社を完全子会社にするのに対し、株式移転では新設会社を設ける点が異なります。

企業を買収するには、当該企業の意思決定権を取得する必要がありますが現金で株式を取得するためには相応の資金力が必要です。
そこで現金を使わずに、会社を取得する手法として株式交換・株式移転という方法があるのです。

すでにある会社をグループ会社にしたい場合は、株式交換が有効

Q:株式交換について、詳しく教えてください。

A:ある会社が、その発行済みの株式を別の会社の株式と交換して完全親子会社関係を作る手法です。


上の図をご覧ください。株式交換ではB社の株式を保有するB社の株主に対し、A社がA社株式をB社株式と交換します。その結果、B社株主がA社株式を保有し、B社株式をA社が保有することになり、A社とB社は親子会社関係となります。
特徴としては、現金を伴わずに完全子会社を設けることができるので、株価が高い会社が好んで用いる手法です。

近年の例では、ソフトバンク社が同業のイー・アクセス社の取得において、株式交換を用い、完全子会社化しています。

株式移転で、組織の再編・効率化を目指す

Q:株式移転をすることで、どんなメリットがあるのでしょうか。

A:株式移転では、ある会社がその発行済み株式の全部を株式移転により設立する完全親会社に移転し、その代わりに親会社が完全子会社となる株主に、完全親会社の株式を交付します。


株式交換と同じように、図を使って説明していきます。
株式移転の場合は、新しく会社(上記でいえばB社)を設立します。そして、A社の株主は新設したB社の株式を取得する代わりに、旧A社の株式をB社に移転させます。

実務では、子会社が増えて管理が大変となった場合に、親会社としてホールディングカンパニー(持株会社)を設立する際に用いられることが多いです。

最近ですと、ネット上で情報管理をしているパイプドビッツ社が、①経営効率の向上、②組織再編の柔軟性・機動性の確保、③グループ全体の最適化とガバナンス機能の強化を目的として株式移転により持株会社制に移行しました。

現金を支出することなく完全子会社に。株式交換・株式移転のメリット

株式交換・株式移転は、現金を支出することなく完全子会社を取得することができるのが、M&Aの手法としてのメリットです。
特に、上場会社が他の会社を買収する際には、自社の株式に市場の株価が存在することから、実施例も多くなっています。その一方で、株主総会の特別決議による承認(簡易な場合を除く)や一定の場合は債権者保護が必要となるなど、手続きが煩雑となります。

企業買収と言うと資金力が必要なイメージがあるかと思いますが、株式交換・株式移転という手法もあるということを、ぜひ覚えておいてください。

専門家:江黒崇史
大学卒業後、公認会計士として大手監査法人において製造業、小売業、IT企業を中心に多くの会計監査に従事。
2005年にハードウェアベンチャー企業の最高財務責任者(CFO)として、資本政策、株式公開業務、決算業務、人事業務に従事するとともに、株式上場業務を担当。
2005年より中堅監査法人に参画し、情報・通信企業、不動産業、製造業、サービス業の会計監査に従事。またM&Aにおける買収調査や企業価値評価業務、TOBやMBOの助言業務も多く担当。
2014年7月より独立し江黒公認会計士事務所を設立。
会計コンサル、経営コンサル、IPOコンサル、M&Aアドバイザリー業務の遂行に努める。
ノマドジャーナル編集部
専門家と1時間相談できるサービスOpen Researchを介して、企業の課題を手軽に解決します。業界リサーチから経営相談、新規事業のブレストまで幅広い形の事例を情報発信していきます。