A.T.カーニー日本法人会長として多数の企業の経営を支える梅澤高明さんは、「新しい働き方」を軸にした社会の変革を提唱し続けています。レギュラーコメンテーターとして出演するテレビ東京「ワールドビジネスサテライト」では、「これからの働き方は人生三毛作となり、二足のわらじが必要となる」と発言し、話題となりました。

 

定年まで1社に勤め上げるのではなく、同時並行でさまざまな仕事に挑戦し、まったく異なる領域へキャリアチェンジしていく。本インタビューでは、そんな「人生三毛作・二足のわらじ」についての梅澤さんの考えをじっくりと伺います。

 

後編では、新しい働き方が企業・組織にどのような変化をもたらすのか、真に求められるのはどんな人材かを考察します。梅澤さんの今後の展望についても語っていただきました。

「完璧主義のやり過ぎ」が、会社をガラパゴス化させていく

Q:梅澤さんはアメリカで活動されていた期間も長いと思いますが、アメリカと日本では働き方に対する考え方にどのような違いがあると感じますか?

梅澤高明さん(以下、梅澤):

年収の高い人材層で言うと、アメリカのほうが効率主義ですね。同じ職種で比べても、労働時間は総じて短い。細かいことには余りこだわらず、「本質の部分ができていればOK」と、ポンと渡すという感じです。

 

日本は、プロフェッショナルも含めて完璧主義者が多いですね。自分で最後まで抱え込み、95パーセントの完成度に達しているものを限りなく100パーセントに近付けようと追い込んで、多大な時間とエネルギーを費やしている。日本の労働生産性が低いと言われているのも、ここが最大の要因ではないでしょうか。「やり過ぎ」なんですよ。

 

日本の場合は、社内の文書さえも完璧に作り込もうとしますよね。これは明らかに無駄だと思う。資料を作成しなくても済むことなら話して済ませるべきだし、紙が必要な場合でも、完璧な書類でなくても大体のことは伝わるじゃないですか。

Q:クライアントの大企業に入り込んでいくことも多いと思いますが、やはりそうした現状を感じますか?

梅澤:

感じますね。特に大企業は、社内文書にかけている時間とエネルギーがすごい。バージョン1と2と3と4、比べてもほとんど違いが分からないところに、「ああでもない、こうでもない」とずっと悩んでいるのは何なんだろう、とよく思います。

 

複雑な意思決定プロセスと根回し文化、そしてスタッフ部門の完璧主義があいまって起きている問題だと思いますが……。このようなプロセスと行動様式を変えないと意思決定のスピードが上がらないし、ホワイトカラーの生産性向上も実現しません。

Q:その前提で動いていると、外部との連携も進まないですよね。中の人は社内最適化してしまって外では働けず、外のスタンダードを受け入れるのも難しくなるように思います。

梅澤:

社内のスタンダードで固まってしまうと、外部とのコラボレーションも上手く進まないですよね。会社も閉じてしまうと、ガラパゴス化していきがちです。なるべくオープンにして、社外のいろいろな立場の人たちと常時コラボレーションしている状態を作る。あるいは二つの組織で仕事をしている人を増やす。そんな変化をもたらすことが必要だと思います。

 

二足のわらじを履く人が大勢いれば、「その常識変だよね」とお互いに言い合える状況を作れますからね。

常識に染まらない「弾けた人材」が組織を発展させる

Q:中途採用を増やすことによって新しい風を入れるという方法もありますが、優秀な人材をタイムリーに確保することはますます難しくなってきていますし、外部から期待されているスピード感に応えていくことは難しいのかもしれませんね。

梅澤:

そうですね。中途採用で入社した人も、「郷に入りては郷に従え」で社内の常識に適応してしまう人が多い。それでは結局は同じことなんですよ。その会社で信じられている常識に適応しない、弾けている人材が常に一定数いる状態をキープしたほうが良いと思います。二足のわらじを履いている人は独立志向の強い人たちでもあるので、より頼りになるという現実もあります。

Q:「その会社に完全に依存しなくてもやっていけるという人たち」ということでしょうか?

梅澤:

はい、そういう人たちが持つ異なる視点や、外部とのネットワークは、うまく活用できれば企業にとって貴重な資産になります。個人としても、無駄に囲い込まれたくはないですよね。振り返ると、「自分自身はよく20年も一つの会社にいるな」と思います。いまの私の本拠であるA.T.カーニーのことですが(笑)。

 

私自身の過去を振り返っても、会社の中で本当にやりたい放題やってきたからこそ、これだけ続いているんだと思います。会社に「あれをやれ、これをやれ」といちいちディレクションされ続けていたら、20年は続かなかったでしょうね。そんな風に感じるタイプの人たちが居心地良く仕事できる場を作らなければ、なかなか組織は進化していかないんです。

Q:A.T.カーニーは、もともとそういう価値観を持っている会社なんですね。

梅澤:

「プロフェッショナルファームでは、個々人の志やパッションがとても大切だよね」という認識を皆で共有しています。「これをやりたいんです」と積極的に手が挙がることも多いんですよ。先日も東京の全パートナーが集まって、「これからやりたいことをお互いに語り合う」という青臭いミーティングをしました。聞いていると皆、好き勝手なことを言っているんです(笑)。「私はこの業界でこんな再編をやりたい」とかね。私自身は「コンサルティングの仕事自体を書き換えようと思っていろいろと実験している」と話しました。それぞれがアジェンダを持っていて、お互いにコラボできるところは一緒にやる。そんなスタイルです。

 

少なくとも、プロフェッショナルファームはそんな姿が健全だと思っています。イノベーションを起こしていく類の仕事には、同じことが当てはまるでしょう。さまざまなクライアントがいて、 それぞれ異なる状況とニーズがある。提供するソリューションは一様ではないし、そもそもソリューションを組み立てる前の、課題を定義するステップが重要です。大きなイノベーションにつながる仕事をしようと思えば、課題を新しい切り口から再定義しないといけない。

 

そのためには、いろいろな人がいろいろな方向にアンテナを立てている状態が大切だし、たくさんの実験をファームとしてやり続けていることが重要なんです。個々人の創意工夫にもかなり依存しています。彼らの創意工夫をどれだけ極大化できるかが、その会社のパワーを決める。悩ましいのはいわゆる一般の大企業、それもビジネスモデルが確立されている大企業ですね。完成されたモデルを効率よく回すことが優先されると、個人の創意工夫を極大化しようと思っても、「効率が悪いことをするな」と言われてしまう。

 

でも、そのビジネスモデルだって、遅かれ早かれ陳腐化するんですよ。陳腐化したときの次の一手は、市場での新たな実験の中から生み出さなければいけない。「効率の追求」と「イノベーションの活性化」は、常に二律背反です。どこも頭を抱えているのではないでしょうか。A.T.カーニーの場合、そういう意味では効率の追求を捨てているとも言えますね(笑)。

オープン・イノベーションの熱量を高める「ハブ」作りへ

Q:最後にぜひ、今後の活動・展望についても伺えればと思います。梅澤さんは「クールジャパン」戦略策定の実務面で政府を支援したり、世界で最も魅力的な都市を目指す「NeXTOKYOプロジェクト」を立ち上げたりと、多彩な活動を展開されていますね。

梅澤:

結果的に何足ものわらじを履く形となっていますね。

 

クールジャパンは、「巨大なオープン・イノベーションプロジェクト」なんです。官民連携という形で始まったんですが、より重視されてきているのは「民民連携」のオープン・イノベーションの部分。業種横断でさまざまなアイデアを実現していきましょうと言っているので、必然的にオープン・イノベーション型にならざるを得ません。そこに大企業も、中小企業や個人のプロデューサーやクリエイターなども、さまざまな形で集まってきてくれています。

 

「NeXTOKYO」は現在11人のコアチームで進めていますが、メンバーそれぞれが自分の企業を経営したり、研究室をリードしたりと、異なる視点を持つ人たちの集まりです。でもパッションは同じ方向を向いている。そのチームが核になって、デベロッパー各社やICT系、コンテンツ系の会社と協業したり、政府機関に提案したりという活動を続けています。メンバーが取り組むさまざまな活動が有機的につながり、その輪を拡大していくことで、TOKYOという巨大な都市の進化に大きく貢献できる。「チームがTOKYOのオープン・イノベーションのハブになる」という感覚で動いています。

Q:今後もこうした取り組みは増やしていくお考えですか?

梅澤:

新しい形のハブを作りたいという狙いもあって、東京に「アジア最大級のスタートアップ集積拠点を創る」というプロジェクトを動かしているところです。Cambridge Innovation Center(ケンブリッジ・イノベーション・センター)という、世界最大のスタートアップ集積のオペレーター企業があります。彼らが東京進出を考えており、都内の優良な場所に、スタートアップが集まる巨大なイノベーションラボを作ろうという計画です。

 

そこに、大企業の先端的な研究所や事業開発拠点の人たちにも集まってもらいたいと考えています。自社の研究所にスタートアップ企業を集めて囲い込むのではなく、スタートアップの集積拠点に大企業の事業開発ラボを誘致し、全体で強力なイノベーション集積に育てよう、という発想です。2018年にローンチ予定で、準備を加速しているところです。東京におけるオープン・イノベーションの活動を、大きく後押しできる存在を目指して取り組んでいます。

 

既成概念にとらわれず、新たなフィールドを作り、これまでにないやり方を試していく。そんな変化を、今後も最前線で楽しんでいきたいですね。

 

取材・記事作成/多田 慎介

専門家:梅澤 高明

東京大学法学部卒業、マサチューセッツ工科大学経営学修士課程修了。
日産自動車を経て、A.T.カーニーニューヨークオフィス)に入社。
2007年に日本代表、2012年に本社取締役に就任。
著書に『最強のシナリオプランニング』(東洋経済新報社)、『グローバルエリートの仕事作法』(プレジデント社)など。