様々なものがインターネットに繋がるいま、ハッキングやウイルスによる危険は増大している。鵜飼氏が率いる株式会社FFRIは、研究開発をベースにした世界トップレベルのセキュリティ・リサーチ・チームを有することで知られている。国境が存在しないインターネットの世界で、グローバルなセキュリティ脅威に対抗するために、独自の視点で分析、日本国内で研究開発を行い、得られた知見やノウハウを、製品やサービスとして提供している。

プログラミングに熱中していた中学時代

1973年、徳島県で産まれた鵜飼氏。PCとの出会いは小学5年生のときに両親に買ってもらったMSXだった。元々欲しかったのはファミコン。「なんか違うけど、ゲームが作れるらしい」と聞き、プログラミング雑誌に掲載されたソースコードを入力し、ゲームを実行して遊び始めた。電気店を営んでいた両親の影響で、壊れた家電の修理などで小さい頃から電子工作に馴染んでいた鵜飼氏は、小学生でプログラミングの世界にデビューした。

当時、コンピュータの専門誌に自分が作ったゲームのプログラムが掲載されると賞金1万円がもらえた。中学校時代の鵜飼氏は、何度も掲載されお小遣いを稼いでは最新のPC購入の資金とし、日々プログラミングに励んでいたという。「もっと高度なプログラミングにチャレンジしたい」と考えた鵜飼氏は、情報工学科がある香川県の高専(情報工学科)に進学。そこでプログラミングが得意な仲間たちと出会い、これまで1人でこつこつと組んでいたプログラムを互いに評価しあう環境で過ごした。

大学では研究の傍ら、仕事に没頭

18才のときに所属していた高専の研究室では、民間企業出身の指導者に師事した。そこで携わったB to Bのソフトウェア開発を通じて、研究から生み出された新しい技術を民間のビジネスにつなげる面白さを感じたという。その後、徳島大に編入。研究に打ち込む傍らで、当時成長し始めたインターネットビジネスの波に乗り、ネットワークや企業webサイト構築などのシステムインテグレーション業務を請け負っていた。

「学生だったので父の電気屋の屋号を借り営業活動をしていました。普通のアルバイトより儲かりましたし、なにより自分の興味のある分野で経験を積むことができとても面白みを感じました。仕事の基本はここで学ぶことができたと思います」

大学ではCTなどの医療画像を自動的に解析、診断する技術を研究した。卒業後も研究開発できる職に就くことを希望し、Kodak研究開発センターに就職。デジカメなどのデジタルイメージングデバイス開発に携わった。

「Kodakには2000~2003年までいました。ちょうど当時は様々なデバイスがインターネットにつながり始め、サイバーセキュリティの需要をひしひしと感じ始めていました」

オファーを受け、米国企業eEyeへ転職を決意

Kodak退職後、鵜飼氏が転職することになる米国のサイバーセキュリティ企業eEye Digital Security社との出会いは大学時代だった。実は大学院時代に、鵜飼氏は研究に使っていたワークステーションがハッキングされた経験をもつ。それがきっかけとなりサイバーセキュリティに興味を持ち、海外の研究者とサイバーセキュリティについての情報交換をする中で、eEye Digital Securityとの接点をもった。社会人になっても続いていた技術者同士のやりとりを通じて、eEye Digital Securityから転職のオファーをもらい続けていた。かなり悩んだ鵜飼氏だったが、サイバーセキュリティの研究開発をしたいという思いも依然強く、思い切って転職を決意した。

「英語が話せないのに、よく決断したなと自分でも思います(笑)サイバーセキュリティ問題が注目を集め始めた2003年当時、北米を中心にいくつもの企業ができ始めていました。ちょうどそのタイミングでeEye Digital Securityに移ったんです」

鵜飼氏は当時を振り返る。eEye Digital Securityでは研究部門を兼任しながら、ネットワークの欠陥を洗い出して修正するセキュリティスキャナ開発に従事した。

「3人しかいないエンジン開発のコアメンバーの1人でした。このうち1人は、いま当社のCTOを務める金居です」

解決できない課題を解決する。そこに大きなビジネスインパクトが生まれる

eEye Digital Securityを経て、鵜飼氏は2007年にFFRIを設立した。当時、国内でセキュリティの研究開発をする企業はまだなく、海外から見ると一営業拠点にすぎない日本が独自のサイバー脅威にさらされた場合には対策が後回しにされてしまう状況が続いていた。自国で問題解決するには、国内での研究開発が必要と感じたことが、起業のきっかけになった。

FFRIのセキュリティは、従来のパターンマッチングでは防ぎきれない脅威に、振る舞い検知の手法を活用したヒューリスティック技術で対抗する特徴をもつ。警察庁の発表によると2014年国内だけで、オンラインバンキングの不正送金によりおよそ30億円が盗まれたという。被害にあったPCがウイルス対策をしていなかったわけではない。最近の攻撃では、日々生成されるウイルスの数やスピードに従来のパターンマッチング技術を使った対策ソフトでは間に合わなくなっているためだ。

現在、FFRIの顧客には中央省庁や官公庁などが多いが、今後は中小企業や一般消費者にもこうしたサイバーセキュリティについての新しい脅威や対策技術の認知・正しい理解を広めたいという。

「多くのデバイスがネットに繋がる時代を迎えた今、安全な社会を支えるサイバーセキュリティ技術の研究開発はますます求められています。これまで解決できなかった課題を解決することは、世の中に大きなビジネスインパクトを生み出します。私たちは日本で生まれた独自の技術で、コンピュータ社会の健全な運営を目指していきます」と鵜飼氏は締めくくった。

株式会社FFRI 代表取締役社長 鵜飼裕司
1973年 徳島県生まれ。博士(工学)。
Kodak研究開発センターにてデジタルイメージングデバイスの研究開発に従事した後、2003年に渡米。カリフォルニア州 eEye Digital Security社に入社。
セキュリティ脆弱性診断技術、組み込みシステムのセキュリティ脅威分析等に関する研究開発に従事。
2007年7月、セキュリティコア技術に関する研究、コンサルティングサービス、セキュリティ関連プロダクトの開発・販売を主事業とする株式会社FFRIを設立。
また、独立行政法人情報処理推進機構の研究員を兼務(非常勤)し、コンピューターセキュリティをとりまく脅威の分析・対策立案のための活動に取り組む。
文部科学省「情報セキュリティ人材育成に向けた有識者ヒアリング」、内閣官房情報セキュリティセンター「高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部 情報セキュリティ政策会議普及啓発・人材育成専門委員会」、
内閣サイバーセキュリティセンター「サイバーセキュリティ戦略本部 普及啓発・人材育成専門調査会」など、多数の政府関連プロジェクトの委員、オブザーバーを歴任。
BlackHat Conferense-Content Review Board Member

取材:株式会社ToBe 代表取締役 四分一 武 / 文:ぱうだー

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