株式会社サーキュレーション主催、株式会社エヌ・エヌ・エー(共同通信グループ)協賛にて、「海外事業力育成セミナー 次世代経営幹部を育てる」が9月9日に開催されました。本セミナーでは、自社主導による本格的な海外進出を始める製造企業向けに、事業戦略のポイントと人材育成の要諦が解説されました。
講師は、株式会社パンアジアアドバイザーズ代表として日本企業の海外進出支援を中心としたコンサルティングを提供している椿高明氏。当日のセミナー内容をレポートします。
後編では、「マーケットがない」「黒字が見込めない」といった海外進出についての誤解を解いていきます。また、より実践的な内容として進出する際にやるべきことについても、詳しく解説いただきました。
■一番のネックは経営者の思い込み
会社が成長するには海外市場へ打って出なければならないとわかっているのに、なかなか一歩が踏み出せない。その最大の理由が、経営者の思い込みにあります。ここでは、海外進出に出遅れてしまう経営者の口癖と、こうした思い込みや誤解を解くためのデータや事実を紹介していきましょう。
(1)〇〇は嫌い、いい話聞かない
特に、中国についてこういった発言をする経営者が多い傾向にあります。たしかに攻略が難しいマーケットのひとつですが、今後10年間で、世界で最も伸びると言われているのが中国で、所得帯別人口を見てもすでに無視できない巨大市場であることなのは明らかです。嫌いといった感情で捨ててしまうのは、果たして妥当な経営判断と言えるでしょうか。
(2)すぐコピーされる
知財権が万全にプロテクトされるのは本当に成熟した先進国だけです。それ以外の国では、「コピーされる」ことを大前提として、どの企業も戦っています。コピーされるのが嫌だからといって海外にでなければ、会社の成長はありません。コピーされない商品をつくる、使えば違いがわかる商品をつくる、といった戦略に注力すべきです。
(3)以前、酷いめにあった、〇〇人とは付き合えない
新興国でビジネスをする上で欠かせないのが水先案内人。その人選を間違えてしまった、特定の現地企業への勧誘目的の「口利きさん」と関わってしまった経験があるのが、このケースです。進出する日系企業側の利益を代表し、プラスマイナスを公平に評価できるのが、本当の水先案内人を選ぶことがポイントなのです。
(4)マーケットがない、早すぎる
こう感じたら、むしろチャンスなのです。例えば、中国でインバーターエアコンのマーケット調査をしたとき、2008年の時点では浸透率は10%にも満たなかった。それが3年後の2011年には40%に急成長しました。ひとたび火が付けば早いのが新興国市場の特徴。また、先行者利益を仕込むチャンスもあるのです。
(5)黒字が見込めない
黒字が見込めないと稟議が通らないというケースがよくあります。ですが、新興国で黒字化するには時間がかかるのが当たり前です。ほぼ知見がない状態からスタートし、貴重な情報が積み上がることで知見の精度が高まり、それに付随する形で一気に大きなリターンを得ることができるのです。
知見の精度がMAXの状態である日本のような成熟した市場であれば、単年度や2年以内といった短期での黒字を条件とすることは妥当ですが、成長途上にある市場とは、分けて考える必要があります。
(6)代理店の気分を損ねる
成熟市場の場合は下手に売上を追求すると利益が減ってしまう可能性があるため、流通のロイヤリティ(=忠誠)が大事になってきます。逆に、成長市場である新興国では、売上拡大を追求しないと利益が増えない。この点を考えて、これまで取引してきた代理店が使えるか使えないかを判断することが必要です。
(7)わが社には海外に廻せる人材がほとんどいない
人材配置のグローバルシフトを行うことが有効ですが、これには経営者が決断をするしかありません。プロジェクトの立ち上げ、市場を切り拓いていく”山賊”人材の派遣、既存人材への研修、グローバル人材の採用といった施策を行うだけでなく、本社のバックアップ体制を構築します。未知のリスクに対して中・長期的に対応できるようにする必要があります。
■進出期に注力すべき戦略課題
実際に企業がグローバル化する際に検討すべき戦略論点は何でしょうか。
6つの論点について、ひとつずつ答えを出していく必要があります。
すなわち、
「(1)この国か
(2)この市場か
(3)この入り口か
(4)どう戦うとチャンスが開けるか
(5)どんな市場地位を長期的に築きたいか
(6)そのために当面めざすべき目標は何か
中でも(3)と(4)を進出期の重要なミッションとなり、この部分に埒をあけるために、最大限の経営資源を割く必要があります。
これら6つの論点に応えを出してゆくために、大きな効果をもたらす基本動作があります。とくに推奨したいのは、「まずは視野を広げること」です。
「この国では、どんな企業がどのように事業を伸ばしているのか。我が業界の競合は、他国ではどんな方法で成功をおさめているか。日本の常識だけでは戦えない新興国では、興味のアンテナを高くし、示唆を求めるのが効果的です。
そのためには、毎日関連のニュースをチェックすることが大切です。その上で、どうやったら売れるのかを徹底的に考えることが大事です。また、意外と役立つのが、1970年代、80年代の日本での我が社のパターン。その時代に活躍したベテラン社員が『このパターンは以前日本でやっていたことと同じだ』とひらめき、突破口となることもあります。
最後にもう一度、スズキでの事例を振り返ってみましょう。同社は、インドに、自社をもう一つ作り出すほどの覚悟を持って取り組んだからこそ成功したのです。また、海外進出の鍵となる「優秀な人材の確保」についても、人材はかならずどこかにいます、決してあきらめないで社内外に人材を探していきましょう。
*本セミナーの聴講者によるコラムも掲載中。ぜひ、合わせてご覧ください
前編:https://nomad-journal.jp/archives/1432
後編:https://nomad-journal.jp/archives/1456
株式会社パンアジアアドバイザーズ代表取締役。
経営戦略の助言を専門とするボストンコンサルティンググループ
およびドリームインキュベータの実力派メンバー中心に2008年にパンアジアアドバイザーズを設立。
日本企業の海外進出支援を専門とするコンサルティングを提供。
中国、東南アジア、インドはもとより、トルコ、西欧・東欧、アフリカを含む主要各市場で、
力量の高い現地パートナーと緊密に連携しながら、過去8年で120超のプロジェクトを支援してきた。
近年では、新たに進出するプロジェクトばかりではなく、進出して10年を超える現地組織のてこ入れ、
ローカル顧客開拓や顧客満足度向上、現地経営人材の採用育成など最先端の経営課題に、
この分野のパイオニアとして、現地社長・本社役員と一体になって取り組んできている。