日本企業が海外進出するにあたっては実際のところ何か重要でしょうか。本記事では、海外進出のスペシャリストの知見と、実際に日本企業の海外進出支援を海外で行ったノマドワーカーの経験から、海外展開に必要な要素をみてみることとします。
かつて海外進出を支援するノマドワーカー経験のある筆者が2016年9月に開かれた「海外事業力育成セミナー 次世代経営幹部を育てる」に参加して感じたことを、自分自身の経験に照らし合わせながら、まとめてみました。
後編では、今後の海外ビジネスについてセミナーを通して考えたことを中心に、お話いたします。
*「海外事業力育成セミナー 次世代経営幹部を育てる」については、以下の記事もあわせてご覧ください
前編:https://nomad-journal.jp/archives/1400
中編:https://nomad-journal.jp/archives/1408
後編:https://nomad-journal.jp/archives/1412
■外国人から見た日本人は鎖国時代と同じ。海外で戦える人材とは
他の事例では、現地で私のような業務委託のノマドワーカーがインターンなどと一緒に新規事業の立ち上げを行うプロジェクトもありました。国内事業に手いっぱいでそこまでリソースを海外進出にさくことができない中小企業の支援ということで、3人の若手メンバーのうち、まだ比較的経験が豊富な方であった私が中心となり、パートナー開拓・中期経営計画策定・資金調達を行っていました。
そうした海外でのビジネス立ち上げを行っている中で、今でも忘れられないのが、あるパートナーのコロンビア人ヘルター(仮名)に言われたひと言です。
コロンビア人ヘルター:
「Hey Toshi, Japan has been seclusion. 日本は、未だに鎖国してるよね」
話を聞いてみると、現地のパートナーとしても日本は技術もあるし、働くことに真面目なのにも関わらず、なんで進出が他国よりも遅いのだろうという疑問を以前から持っていたとのこと。さらにヘルター自身の経験としても、実際に会った多くの日本人が海外進出に消極的な印象で、海外に飛び出していく人材が少ないから、とのことでした。
この話を思い出したのは、セミナーで「海外で戦える人材=次世代の経営者」が不足しているという事実を聞いたときです。その当時、海外でビジネスをしている日本人は「語学は出来るけど、それ以外に取り柄がない人材」が多い印象でした。ですが、椿氏がお話されていた通り、本当に海外で活躍できる日本人は、たとえ英語は上手くなくても、パッションがあり創意工夫が出来て、突破力に富んでいる人なんだと思います。
(椿氏)「語学はできるけど事業開拓を進める山賊的な能力は足りない、という人材を新興市場に送り込んでも仕方がありません。語学必修を前提に、語学力不問でエース中のエースを投入することが成功の決め手となるのです。」
やはり、海外で活躍するためには、小さく縮こまっていてはダメで、それこそ現地の人と毎日お酒を飲んで、その国の特性をいち早く掴む、というくらいの積極性が必要なのだと思います。
■中国をはじめとする新興国は明確に重要なマーケットとなりつつある
現在は大企業のみならずとも、国内企業は海外進出については真剣に検討を進めていく必要があります。なぜなら、今後の日本国内のマーケットは、人口・所得共に今後見通しは決して明るくなく、人口と一人当たりのGDPに伸びがある国に進出することが日本企業には必要だということは明らかだからです。セミナーでは海外進出コンサルタントの椿氏が中国やインドの人口増加を例に挙げて同じことを仰っており、これらのことを実際にデータとして裏付けられています。
皆が「海外進出は必要だ」と、漠然と感じていると思います。ただ、それらを裏付ける情報を改めてデータとしてみると、ここまで海外の市場が拡大し、今後も成長していき、かつ所得層の分布でも思っている以上に購買力が拡大してきていることに愕然とします。そうして、海外進出は漠然と考えていた未来から、向き合うべき現実となります。想像以上に海外マーケットはできてきており、必要だという議論よりも、むしろ進出を前提としてどこまで具体的に向き合っていくかが今まさに問われているように思います。
(椿氏)「しかし、2011年になると状況が変わっていることが分かります。中国でも中所得者層がぐんと増え、今後はインドや他のアジア諸国でも同じことが起こると予測されます。つまり、日本企業にとって、中国をはじめとする途上国は明確に重要なマーケットとなりつつあるわけです。」
中国をはじめとする途上国の所得層の変化によって市場ができてきた
■海外におけるベンチャーの戦い方
これらは大企業だけではなく、ベンチャー企業の戦い方でもグローバルな視点は必要になってきます。特に最近の海外のメガベンチャーをみていると、市場が大きいからこそ、プロダクトを集中させることができるというメリットがあることがわかります。
日米の両方で展開しているテクノロジー関連の企業サービスを考えてみると、Uber, Airbnb, Twitter, Facebook, Dropbox, Evernote,が挙げられます。挙げた企業の特徴としては、1つのプロダクトにフォーカスしていること。逆に日本企業は、国内だけの展開だとすぐに頭打ちになってしまい横展開を行う傾向があり、リソースが分散しているように見えます。早期にグローバル展開することによって、国内の消費者にプロダクトを最適化していくよりも、市場を大きくとれるように1つのプロダクトにフォーカスすれば、同時に経営資源も集中することが出来ます。そうして、ノウハウの蓄積スピードを加速させることができ、プロダクトの最適化が進む事で、自ずとプロダクトのクオリティを高いものにできます。
グローバル市場でみれば、優秀な人材の獲得も容易になるかもしれません。ここでいう優秀な人材とは、単に「英語ができる」のではなく、新しい土地を開拓する突破力があるようなパッションを持った方です。お国柄としても、日本にはこういった人材が少ないので、世界視点で人材の採用ができることはメリットがあります。
海外市場、特にアジアの新興国へ進出するには、もちろんリスクもあります。ですが、それ以上に大きなリターンを得られる可能性がある「宝の山」なのかもしれない。コンサルタントの一人として、海外進出の必要性を広めていくことの大切さを、改めて感じました。
記事作成:永井 利樹