これから海外に打って出ようとする企業は、まず何に取り組むべきなのか。また、すでに海外拠点を築きつつも伸び悩んでいる企業は、何を改善するべきなのか。そんな課題を解決するため、株式会社サーキュレーション主催、株式会社エヌ・エヌ・エー(共同通信グループ)共催による「海外事業力育成セミナー」が11月2日に開催されました。

講師は、株式会社パンアジアアドバイザーズの椿高明氏。9月9日に開催された前回セミナー「進出編」を振り返りながら、海外各国へ進出する日本企業を支援してきた椿氏のリアルな知見に基づく「成長編」として、実践的な海外事業戦略を語っていただきました。

前編では、海外進出期に注力すべき戦略課題について見ていきます。

海外事業が日本企業の命運を分ける

前回は、海外事業力育成の入門編に当たる「進出編」についてお話ししました(前回セミナーの記事リンク)。まずはおさらいの意味も込めて、その内容を振り返っていきましょう。

前提として理解していただきたいのは、これからは「海外事業が日本企業の命運を分ける」ということ。世界人口は急増し続け、2011年には70億人を突破しました。2050年には93億人を突破すると予測されています。

ほんの30年前まで、お金持ちは欧米に集中し、中国やインドなどのアジア圏人口は貧しい人々が中心でした。それが2013年時点では、この地域でも先進国並みに消費力がある層が急増しています。新興国がどんどん先進国並みの水準になっていき、それが加速度的に増えている。従来の価値観でとらえていると、この変化に気付けません。これまで我々がビジネスの相手にできないと思っていた地域の人々が、所得増によって一気に市場へ参入しようとしているのです。これがどれだけ重大なことかを考えるべきです。

2040年にフォーカスすると、ほとんど成長が見込めない日本に比べて、中国や南アジア諸国は巨大な伸びしろを持っています。この事実を知った上で、将来はどこに事業を展開していきたいと考えるでしょうか。あるいはすでに海外拠点がある場合、どこを伸ばしていくべきなのでしょうか。

株式市場でも、こうした取り組みは冷静に観察されています。ここ10年の間に海外事業を成長させてきた企業は、時価総額においても大きく伸ばしてきました。海外事業展開の正しいやり方が見えれば、特定の国だけでなく、さまざまな地域へ広げていくことができます。

本日は「成長編」として、その方法論を解説していきます。

「100億円の壁」を超えて伸びていく海外売上比率

「海外に進出したのはいいものの、うまく海外事業を伸ばせていない」。私はそんな課題を抱える企業をたくさん見てきました。その傾向から導き出した課題と解決のヒントをお話します。

最初のテーマは、「成長期に注力すべき戦略課題について」。事業のグローバル化にはいくつかのステージがあります。まず第零段階として、国内で事業を伸ばし機会輸出につなげること。次の第一段階では海外生産販売を始動し、基礎的経験を積む。第二段階では自社が優位性を発揮できる国を見極め、順次拡大を進める。そして第三段階では、主要市場で浸透性を高め優位性を更新し続けていく。

参考例として、ゴム製品の上場企業群のグローバル化状況を見てみましょう。グラフは、各企業の海外売上高と国内売上高の比率をまとめたものです。このグラフをみると、一つの基準として売上が100億円を超えていくと、海外事業に人が回せるようになっていく印象があります。

この中では、売上100億円未満の企業は海外事業比率も低い傾向にあります。日本企業の場合、海外事業比率が3割、4割を超えた段階で海外事業の基盤ができたと言えるでしょう。ブリヂストンでは海外事業比率が8割を超えており、確固たるグローバル企業としての地位を築いていることがわかります。

勝ち抜きパターンを見つけ、現地の経営基盤を築く

それでは、海外進出期に検証すべき戦略論点を見ていきます。

■So far……現状はうまくいっているか どこまで行けるか
■30年後にどこまで行けるか……今の新入社員が幹部になる頃、どんな状態になっていたいか

この2つは、成長期に注力すべき検証活動と言えます。予実対比と真因分析、市場成長と競合成長の予測、顕在的な競争優位性の分析、そして潜在的な競争優位性の分析と長期的成長シナリオを描くことで、「自社は本当に海外で勝つべきなのか」というところから戦略診断と長期戦略の見直しを進めていきます。

■市場の求める製品投入……海外売上比率が10パーセントを超えない会社は、日本で作ったものを無理に売り込もうとしていないか
■持続的優位性の基盤構築……30年後にも勝てるような優位性をどこに置くか 営業パーソンのお尻を叩くだけで乗り越えられるのか

この2つは、「勝ち抜きパターン」を確立するために必要です。自社と競合の総合的な顧客満足度の診断を行い、開発と品質保証の現地化、持続的優位性の分析と戦略作りを進めていきます。

ちなみに、事業の優位性には以下のような類型が見られます。

成長力だけがある状態では、黒字倒産の恐れもあります。成長力と利益力があっても、持続力がなければその事業は将来的にしぼんでいくでしょう。大切なのは、日本国内で勝ち進んできたパターンを振り返ることです。その累積経験がモノを言います。

■現地人材による幹部育成ができているか
■現地のガバナンスとマネジメントを確立できているか

この2つは、「自律的経営基盤」を整備していくための重要な観点です。現地人材の棚卸しと育成プラン、組織活性度の評価と真因分析、戦略的ヘッドハンティングとコーチング、そして採用・育成・管理・報酬・褒賞の体系を徹底的に現地化していく必要があります。

こちらは前回の「進出編」でもお伝えしましたが、海外事業で活躍する人材には「山賊人材」と「正規軍人材」の二類型があります。

進出期に大活躍した山賊人材は、成長期に入っても欠かせませんが、事業が安定していくに連れて正規軍的なマネジメントが効果を発揮し始めます。業務の効率化や進捗管理、マニュアル作りや基礎教育、体系的な報酬体系の設計などには、正規軍人材が力を発揮するでしょう。海外事業では、「ツートップ体制」が最も理想的だと言えるかもしれません。例えば現地トップが山賊人材なら、副官にはCFO的な動きができる正規軍人材を置く。そんな適材適所の采配も、海外事業を成功させるための秘訣です。

(中編へ続く)

*前回セミナー「海外事業力育成セミナー 次世代経営幹部を育てる」については、以下の記事をご覧ください
前編:https://nomad-journal.jp/archives/1400
中編:https://nomad-journal.jp/archives/1408
後編:https://nomad-journal.jp/archives/1412