第1回・第2回では、子育てと仕事の両立の難しさについて見ていきました。今回は、子育てと同様に女性とって大きなライフイベントとなる介護と仕事の両立について、考えていきたいと思います。
子育て世代の私にとって、介護はまだまだ未知数な部分が多い領域。調べてみて、驚くことがたくさんありました。

介護を担っているのは、ほとんどが女性

介護をしている方の構成を見ると、50代と60代で50%を超えます。(厚生労働省 平成22年国民生活基礎調査)。多くの人が65歳の定年をまだ迎えていませんが、就業状況はどうなっているのでしょうか。総務省統計局の平成24年就業構造基本調査によれば、過去5年間に介護・看護のため前職を離職した人は48万7000人。このうち、女性が約80%を占めるそうです。
そもそも、この世代の女性には、結婚や出産を機に離職した人が多くいます。子育て後に仕事復帰した人でも、正社員は少なく、平成27年度の国勢調査によれば、50代女性の正社員比率は35%前後しかありません。一方、パート・アルバイトは、50%近くあります。
つまり、現在介護をしている人たちの多くは、無職・あるいは非正規社員の女性であり、フルタイム正社員で働きながら両立している人は少ない、ということになります。

 

今回記事を作成するに当たっても、何人かの方にインタビューを試みましたが、”フルタイムで介護をしている女性”にお会いすることはできませんでした。「周りに該当する方がいらっしゃれば、ご紹介いただけませんか」というお願いもしてみましたが、「パート勤務の人なら・・・」「そもそも私たちの世代で、結婚や出産をしても仕事続けてる人って少ないのよ」というご回答がほとんどでした。

 

インタビュー中、特に衝撃的だったのが、「社会との繋がりが欲しくて、働きに出たいと言ったら、夫と離婚寸前の大ゲンカ。結局、『お前のワガママで働きに出るのだから、家事も育児も一切手を抜くな』という条件で許してもらったの。だから、意地でやり通したわ!」というお話。
働きに出るのに、夫の許可が必要なの?!可処分所得が増えるというのに、なぜ責められるの?仕事を持つことになったら、家事も育児も分担すればいいじゃん!という思いが胸を駆け巡りました。
ですが同時に、当時はそういう時代だったのだろうな、と思いました。今私たちが、一社会人として、妻として、母として、女性として、いくつもの顔を諦めたくない!と奮闘するようになったのも、先輩たちの積み重ねの上に成り立っているんだなぁと感じました。ということなんですね。

 

このように、介護の現場は、働くことを抑えている女性たち、あるいは引退した世代が担うことで、どうにか成り立っている状態です。今後は、ますます女性や高齢者層が労働力として期待され、キャリアを中断せずに働き続ける人が増えていくでしょう。

 

一方で、国は、医療費(特に終末医療にかかる費用)の削減、人手や病院・施設の空きの無さから、在宅介護・医療を増やす方向に進んでいます。
子育てがひと段落し、さぁ仕事!と邁進していたら、今度は在宅介護、なんてことがザラに起こり得るわけです。「やっと仕事に集中できると思ったら、違う課題が振ってくるのか・・・。女性が思いっきり仕事をできるのは、独身時代だけなの?」と思ってしまいました。しかも、自分が介護世代になった時は、確実に今より体力が衰えているはずです。子育ては体力勝負で乗り切れているけど(それでも限界を感じることはしばしば・・・)、50代・60代になった時、果たして両立できるのか。まったく自信がありません。介護離職を防ぐには、パラダイムシフトが早急に必要だと感じました。同時に、離職せずに済むよう、柔軟性のある働き方を周囲や社会が許容できるすることが大切ですね。

介護離職のリスク 復職の難しさと金銭問題

年間10万人弱で推移している介護離職。そこには、どんなリスクが伴うのでしょうか。
50代以上ともなれば、会社内でも重要なポジション・役割を任されている人も多いでしょう。もちろん、介護休業法により休業や休暇の取得が認められ、残業を制限することなどの措置は可能です。しかし、部下や一緒に働く人たちのことを思うと、二の足を踏んでしまう人も少なくないようです。

 

2012年に三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社によって行われた、仕事と介護の両立に関する労働者アンケート調査によれば、「仕事と介護の両立の不安」の具体的な内容として最も多かったのは、「自分の仕事を代わってくれる人がいないこと」でした。任されているポジションが重要だからこそ、仕事を委ねる・判断を誰かに任せることが難しい、という背景が見てとれます。

 

一方で、何かあった時には、リストラの対象になりやすい世代でもあると言えます。退職に追い込まれる不安から、介護休業を取りづらいと感じている人もいるでしょう。同調査によれば、「人事評価に悪影響が出る可能性がある」ことに不安を感じている人も、少なからずいます。
さらに難しいのは、いったん離職したら、再就職がとても難しい年代になっている、ということです。定年まで10年を切っているので、採用の対象にはなりづらいですよね。同調査によると、再就職した人のうち、正社員は49.8%と半数を切っています。定年までの残り年数を鑑みて、働き方を見直している人もいるかもしれません。金銭的に余裕があれば良いですが、離職により自身の老後に向けた蓄えが減り、さらに再就職もままならないとなれば、大きなリスクですよね。

専門家:天田有美

慶應義塾大学文学部人間科学科卒業後、株式会社リクルート(現リクルートキャリア)へ入社。一貫してHR事業に携わる。2012年、フリーランスへ転身。
キャリアコンサルタントとしてカウンセリングを行うほか、研修講師・面接官などを務める。ライター、チアダンスインストラクターとしても活動中。