このコラムでは、子育てや介護などのライフイベントと、仕事との両立の現状について見てきました。その中で、ライフイベントの担い手は未だ女性に偏っており、両立にはまだまだ難しさが伴うことが窺えました。

 

しかし、ワーク・ライフ・バランスを考え、女性活用の実現に向けて取り組んでいる企業も、今は多くあります。今後どのような取り組みや在り方が求められるのか、具体的な事例を交えながら見ていきましょう。

そもそも、ワーク・ライフ・バランスって?ダイバーシティって?

“ワーク・ライフ・バランス”や”ダイバーシティ”という言葉がよく使われるようになったのは、いつ頃のことなのでしょうか。
いずれも、1980年代のアメリカで生まれた概念と言われています。

“ワーク・ライフ・バランス”は、仕事と生活のバランスを取り、充実した豊かな人生を送りましょう、という考え方。家庭はもちろん、学びの時間、地域生活なども重視されます。

 

“ダイバーシティ”は、多様性を意味する英語です。日本では女性の活用として語られることが多いですが、本来は人種・性別・宗教などのマイノリティが差別を受けることなく、平等に仕事をする機会や処遇を与えられるよう、広がった概念のことを指します。

 

日本においては、1985年に男女雇用機会均等法が制定され、1997年には一部改正が行われました。当時の日本ではまだまだ遅れていた男女平等について、法律制定とともに注目を浴びるようになり、”ワーク・ライフ・バランス”や”ダイバーシティ”といった概念と結びつけて語られることが多くなりました。2007年には「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」が策定され、官民一体となって様々な取り組みが進められています。

女性活用には、3つの段階がある

一口に”女性活用”といっても、様々な段階があると私は考えています。
第一段階は、女性が結婚・出産などのライフイベントを経ても、仕事を続けられるようにしよう、という段階。
第二段階は、管理職登用数や給料を男性と同じ水準に持っていくために、積極的に女性を引き立てよう、という段階。
第三段階は、男女平等を大前提として、各々がワーク・ライフ・バランスを取りながらキャリアを発展させていく段階です。

 

女性を積極的に活用しよう、という動きが出始めてから、およそ30年。結婚や出産を機に離職せざるを得ない女性はまだ多いものの、かつてと比べればだいぶ状況は改善されてきました。

 

今の日本は、国全体としては第二段階にあると言えるでしょう。2020年までに指導的な地位に占める女性の割合を30%にしよう、という数値目標を内閣府が設定しており、企業ではそれに向けた取り組みがなされています。

 

しかし、先進的な企業は、早くも第三段階に入っていると感じています。
長時間労働を是正しよう、という世の中の流れの中、性別関係なく、生産性の高い働き方を求められるようになりました。グローバル化が進み、国際レベルで見ると圧倒的に生産性の低い日本は、このままだと生き残れない、という危機感が発端だと思います。

 

また、制度上は男女平等が広がりました。(制度の取得率や取得しやすい雰囲気かどうか、などの課題については、いったんさておき)一時はよく耳にした”ポジティブ・アクション”という言葉も、最近はあまり聞かなくなりました。ポジティブ・アクションとは、過去の固定的な性別観に基づいた役割分担を変えよう、という運動です。例えば「営業職に女性がいない」「業界全体的に女性が少ない」といった場合、積極的に女性を採用したり、登用したりすることで、差を解消しよう、というものです。

 

しかし、女性活用を意識するあまり、数値目標達成や企業の対外アピールのために、女性ばかりが管理職登用される、という現象が一部で起きてしまい、違和感を覚える人が増えてきました。

 

女性だから、という理由で登用されるのは何か違いますし、子どもがいる、という理由ならば、お父さんである男性も同じことです。同じお給料をもらっているのに、独身者だけがしわ寄せを食う、なんていうのもおかしな話ですよね。
もちろん、幼い子どもを抱えて仕事をするには、配慮を要する場合が多くあります。働く仲間同士思いやりを持って接してほしいとは思いますが、もはや思いやりだけで乗り越えられる問題ではなくなっています。きちんと制度を整備し、根底から働き方を変える時期に来ているのだと思います。

専門家:天田有美

慶應義塾大学文学部人間科学科卒業後、株式会社リクルート(現リクルートキャリア)へ入社。一貫してHR事業に携わる。2012年、フリーランスへ転身。
キャリアコンサルタントとしてカウンセリングを行うほか、研修講師・面接官などを務める。ライター、チアダンスインストラクターとしても活動中。