多くの人にとって、管理職への昇進や他部門への異動はキャリアの分岐点となると思います。それに加え、女性にはさまざまなライフイベントがあり、どの道を選ぶのが「正解」なのか、自分でもわからなくなってしまうことも。キャリアや人生について、いつも悩んでいる方も珍しくありません。

では、どのような考え方を持てばいいのでしょうか?私自身の経験が中心となりますが、少し立ち止まって考えるヒントになればと思います。

管理職か、専門職か。女性は出世を望んでいない?

日本企業では、一定の年数・キャリアを積んだ後は、管理職にシフトしていくのが一般的です。プロジェクトチームのリーダーといった小さな規模から、だんだん事業部など大きな組織を任せられるようになる。いわゆる”出世”と呼ばれるものですね。

 

では女性は、キャリアに対してどのような考えを持っているのでしょうか。2016年にソニー生命保険株式会社が行った「女性の活躍に関する調査」によれば、「今後(も)バリバリとキャリアを積んでいきたい」と答えた人が33.7%と3人に1人を占めたものの、「管理職への打診があれば、受けてみたい」と答えた人は18.7%と、2割にも満たない結果でした。少なくとも男性ほどには、出世の意欲がないようにも見えます。

 

ところで、”ガラスの天井(グラス・シーリング)”という言葉を聞いたことがある方もいるでしょう。昇進する能力があるにも関わらず、性別や人種などを理由に、不当にキャリアアップを阻まれてしまうことを、”見えない天井”になぞらえたものです。先のアメリカ大統領選挙において、トランプ大統領と接戦を繰り広げたヒラリー・クリントン氏の敗北宣言でも使われた言葉です。

管理職を希望する女性が2割に満たない、という結果は、このガラスの天井に起因するものもあるでしょう。「女性は管理職に向かない」「子育てしながら管理職は無理だ」といった思い込みによって、周囲が可能性を阻んでしまったり、女性自身が諦めてしまっているケースですね。

 

でも、本当は挑戦したい!と思っている人もいるはずです。ダイバーシティへの取り組みが進む中、「女性管理職を増やしたい」「性別に関わらない管理職登用を」といった機運は高まっていますから、希望している人はぜひ挑戦してほしいと思います。管理職経験のある女性はまだ少なく、転職市場でも重宝がられますので、自分の市場価値を高めるためにもお勧めです。

やってみたいことをやればいい。あらゆる経験が自分の糧となる

一方で、”本当に”管理職を望んでいない人も多いのかもしれません。今の仕事が自分に合っている、この仕事をずっと続けたい、など自分の志向にあった仕事で専門性を高めたいと思っている人たちも多いと思います。

しかし、日本ではジョブローテーション(人材育成計画にもとづいて定期的に職場の異動や職務の変更を行うこと)が多く、スぺシャリストよりゼネラリストを育成したがる傾向にあります。そのため、一定のキャリアを積んだ後に管理職を選ばなかった場合、どんなキャリアパスが待っているのか?見通せず、不安に思っている人も少なくないはずです。

 

最近では、どの分野でもフリーランスが活躍しています。自分の得意分野が定まり、スペシャリストとしてこの領域でやっていきたいと思うものがあれば、異動や転勤など組織の事情の絡まないフリーランスとして、一歩を踏み出してみるのもありかもしれません。

 

ちなみに私の場合は、27歳の時に会社員を辞めてフリーランスになろうと思い、上司にその旨伝えたところ、「あと少し残って、リーダーをやってみないか。」と打診されました。辞める意志はある程度固まっていたので、戸惑って父に相談したところ、「役割を与えていただけるなら、挑戦しなさい。やってみてから辞めるのも遅くないだろう。」とアドバイスされました。

また、社内の恩師のような存在の方からは、「リーダーになって初めて見えるものがある。視座が一段上がることは、お前のキャリアにとってプラスになるはずだよ。」と背中を押されました。それならばやってみようと思い、退職を延ばしてリーダー職を務めることに決めました。

 

結果的に、挑戦してみてとても良かったと思っています。その理由は二つあります。

まず一つめは、恩師のアドバイス通り、視座が上がったことです。「事業とは、こういう風に成り立っているんだ!」と肌で感じることができました。自分のチームで働く人を採用し、教育し、チームの運営方針を決め、目標達成までの道筋を示し、メンバーの”将来なりたい自分”に照らし合わせて足りないものを、今の業務の中でどう学び、身に付けてもらうか。先輩や上司の力を借りながら、日々試行錯誤しながら実践したことは、かけがえのない経験です。

 

二つめは、「やはり、マネジメントより現場が好き」と実感できたことです。私はもともとカウンセラー志向が強く、組織として大きな目標を達成することよりも、目の前の人がどうしたら一歩踏み出せるか、ということに興味を持つタイプでした。マネジメントは、メンバーの背中を押す仕事という意味では、カウンセラーに近しいものがあったと思いますが、組織の人間である以上、最優先すべきは組織の利益です。その枠を外して発言・行動できた方が、自分の性に合っていると感じることができたのです。

 

私の場合、リーダー職といっても決裁権や人事権を持たない職位でしたので、管理職ではありませんでした。それでも、日々の業務の中で気づかされることは非常に多くあったと感じています。もしかして、あのまま会社に残って、管理職に挑戦する位階機会をもらっていたら。また違う人生があっただろうな、と思います。

 

いかがでしたでしょうか。

 

人口減少の中、私たちの子ども世代には、重い税金が課せられることが目に見えています。女性が労働力の担い手となることは、自分自身がやりたいことの実現、家計の援助、次世代への負担軽減など、大きな意味を持ちます。どのような仕事・働き方であっても、無理なく、楽しく働き続けられる世の中を実現したいですよね。

専門家:天田有美

慶應義塾大学文学部人間科学科卒業後、株式会社リクルート(現リクルートキャリア)へ入社。一貫してHR事業に携わる。2012年、フリーランスへ転身。
キャリアコンサルタントとしてカウンセリングを行うほか、研修講師・面接官などを務める。ライター、チアダンスインストラクターとしても活動中。