子育てや介護などのライフイベントと仕事の両立は、今の日本ではなかなか大変なもの。また、ライフイベントの主な担い手は、未だに女性が多くを占めています。実態はどうなっているのか。現状を打破するためには、どういった取り組みや工夫が必要なのか。
自身がワーキングマザーである筆者の経験や実際の声を交えながら、考えていきたいと思います。

 

第1回では、出産を機に働き方についての決断を迫られるワーキングマザーの実態について取り上げます。

子育て世代の女性の過半数が、仕事をしていない

男女共同参画白書平成28年版によれば、総人口のうち、育児を行っている割合は、女性10.3%、男性7.6%。そのうち仕事を持っている人は、女性52.3%、男性98.5%です。子育て中の女性の過半数が、育児期間中に仕事をしていないんですね。
育児参画の男女差を見ていくと、妻の就業状態に関わらず、共働き世帯の約70%の男性が育児をしていないそうです。つまり、ほとんどの負担が女性に寄っている、ということ。

 

この数字を、どう見るでしょうか。もちろん、望んで家事・子育てに専念している方もいらっしゃるでしょう。国は、配偶者控除を廃止することで、専業主婦層を減らしたい意向のようですが、私個人は「そう望む人がいてもいいじゃない」と思います。それよりも、多様な働き方を広げて、復職のハードルを下げた方が良いのではないか。問題とすべきは、「働きたいのに、働けない」人たちなのだと思います。

 

私は、自分の周りにワーキングマザーが多いため、「今のご時世、子育てを機に離職する人は少ない」と、勝手に思い込んでいました。「産休育休の制度が整っている企業も増えているし、せっかく手に入れたポジションを手放すなんてもったいない」と。しかし、出産後、自治体が主催するイベントで知り合ったママ友たちに「保育園どうする?」と何気なく尋ねたところ、「私、出産を機に退職したの」「私も専業主婦だよ」という答えが想像以上にたくさん返ってきて、正直驚きました。やめた理由を聞くと、「あんなに忙しい働き方で、子育てなんてとても無理」「夫の仕事がとても忙しく、海外出張も多いので、私がやめざるをえなかった」という声が多く聞かれました。

やめざるを得なかった理由の一つめは、”働き方への不安”

独身だったサラリーマン時代は、とても忙しい職場でした。周りにワーキングマザーがたくさんいたのですが、皆さん一様に、責任感が強く、周りに迷惑をかけないよう気遣い、常に時間と戦っている。そんな印象でした。
出産後も働く女性たちの中には、時短制度を使っても、業務量を鑑みて、残業せざるをえなかったり、持ち帰って子供が寝た後に仕事をしたりしている人も、たくさんいました。また、あるワーキングマザーからは、早朝4時くらいにメールの返信があり、どうしたのかと聞くと、「子供の寝かしつけで21時くらいには一緒に寝ちゃうの。その分朝4時に起きて仕事してるよ」とのこと。当時は子育てをしながら働くということがどんなにたいへんかわからず、とても驚きました。

 

時短制度を使うと、その分お給料も減ります。でも業務量はあまり変わらないし、結果的に時間もかかっている。それならば、と早々にフルタイムに切り替える人も、少なからずいました。

 

うまく両立をしているようにみえるワーキングマザーをみると、そのような女性は出産前は、成果にこだわり、必要とあれば残業・休日出社も厭わず、ハードワークをしてきた方だったりします。部下や後輩を指導するために時間を割き、自分の仕事を進められるのは、早朝か残業の時。そんな風に働き、実績を残してきたからこそ、復職後も一生懸命取り組む。そんな頑張る先輩たちから受ける印象は、とてもスマートでした。ランチ中に「毎日大変だよー」なんて笑いながら話していても、髪振り乱して必死に両立している印象は、あまり受けませんでした。

 

こんな完璧なワーキングマザーの姿を見て、「子供がいて、この働き方を続けるのは無理だな。私にはそんな器用なことできない。」と弱気になる気持ちは、とてもよくわかります。実は、私がサラリーマンからフリーランスへの転身を決めた理由の一つも、「この会社でワーキングマザーになるのは、私には無理」と感じたからでした。

 

ただ、このように両立をうまくこなしているワーキングマザーは、実はまだごく一部に過ぎません。多くの女性は、やはり出産を機に仕事を辞める決断を下しているのです。私の場合、運よく身近にフリーランスで活躍している人がおり、働き方を変えるという選択肢を早いうちから持っていました。でも、もしフリーランスという選択肢を知らなかったら、出産を機に仕事をやめていたかもしれません。

 

出産を機に辞めなくても良い社会を作るには、フリーランスを含めた多様な働き方が広がり、無理なく両立できるようにすることが、子育てをしている女性や家庭にとって、非常に重要だと思います。

専門家:天田有美

慶應義塾大学文学部人間科学科卒業後、株式会社リクルート(現リクルートキャリア)へ入社。一貫してHR事業に携わる。2012年、フリーランスへ転身。
キャリアコンサルタントとしてカウンセリングを行うほか、研修講師・面接官などを務める。ライター、チアダンスインストラクターとしても活動中。