あなたは、フリーランスという働き方を検討したことがありますか?
これまで、子育てや介護と仕事の両立についてお話をしてきた本シリーズ。フリーランスとして活躍している女性にも、何人かお話を伺ってきました。

 

今回インタビューさせていただいたのは、植物と石けんを暮らしに生かす手立てを学ぶアトリエ、faire ma vie(フェールマヴィ)を主宰している、末吉真由美さん。
会社員を経て一度専業主婦になり、その後ご自身でサロンを立ち上げ、起業されました。専業主婦から、起業家へ。その経緯や思いを伺ってきました。

仕事と家庭・子育てを両立したいという意欲だけが空回りしてしまった、新米ママ時代

Q:サロン立ち上げ前のご経歴を教えてください。

末吉さん(以下、末吉):

学生時代は、理工学部でした。実験よりも、論理的に物事を組み立て、オリジナルの発想を取り入れながら仮説を構築していくのが楽しかったですね。
卒業後は外資系化粧品会社の品質管理部に就職し、8年働いていました。輸入化粧品の受け入れ検査をしたり、日本向け製品や新しい成分があれば登録したり、それらの書類管理をしたりするのが仕事でした。
結婚し、出産・育休を経て両立を目指していましたが、うまくいかず、断念して退職したんです。

 

Q:17年前ということは、今よりもっと仕事と子育ての両立は難しかったのでしょうね。

末吉:

そうですね、大変でした。認可保育園に入るために、生後5ヵ月で認可外に預け、点数を溜めました。その後、認可保育園に移ることができ、夫も協力的だったのですが・・・。子どもが病気になることがしょっちゅうでした。きっと、誰もがぶつかる壁ですよね。でも当時は、働く女性がまだそれほど多くない中で、病院に連れていくと「生活に必要なわけでもないのに、子どもを病気にしてまで、何であなたは働くの?」「子どもは3歳くらいまではお母さんにべったりしているのが一番なのに、かわいそう」と言われたりしました。ただでさえ「病気にしてしまった」と自分を責めていた中で、そうした言葉は堪えましたね。

 

致し方ないことだと聞き流していましたが、ある時子どもが肺炎にかかってしまって、長期で会社を休まなくてはならなくなりました。その時じっくり考えた結果、やはり退職しようと思ったんです。
両親に手助けしてもらったり、体裁を整えたりすることもせず、不器用なまま復職してしまった自分の未熟さだと思います。

Q:そんなことを言われるなんて・・・想像以上に厳しい状況だったのですね・・・。

末吉:

今ではびっくりするような対応ですけれど、当時はまだまだ多かったんです。
でも、会社の先輩たちはうまく両立していました。働き続けるのが当たり前で、”結婚や出産を理由に会社を辞める”という選択の雰囲気のない職場環境だったんです。加えて家庭でも、”これからの女性は、家庭もありつつ、社会に出ていくものだ”と教育されて育ったものですから、自分も子どもを持っても働くものだと思っていました。ですが、気持ちと状況の歯車がうまく噛みあわなかったんですね。ほどなくして夫が福岡に転勤になったので、家族みんなで一緒に付いていきました。

少しずつでも諦めないで前へ進む。新天地・福岡で、幸せのサイクルができた

Q:福岡にいた時に、サロンを開かれたんですよね。新しい土地・環境で新しいチャレンジをされるのはすごいなと思いました。原動力は何だったのでしょうか?

末吉:

とても時間があるように感じたんです。新しい土地で、人とのお付き合いもあまりなく、子どもが幼稚園に行き始めたこともあって。これを機に、独学でかじっていたアロマテラピーを本格的に勉強したい、と思ったのがきっかけです。3ヵ月ほどスクールに通って資格を取りました。

Q:趣味だったアロマテラピーがお仕事になったのは、どういう経緯なのでしょうか?

末吉:

それまで本の見よう見まねだったのが、体系的に学び、理由や裏付けを知ることで、自分の暮らしに合った形でアロマテラピーを取り入れることができるようになったんです。それらを書き留める日記のつもりで、ブログを始めました。初めは福岡のことを全然知らなかったので、病院やレストラン、イベントについてなど、自分が足を運んだものについて感想を書くようにしていました。

 

そのうち、同じような転勤者の方が、検索で偶然私のブログを見つけて読み始めてくれ、「あなたのアロマテラピーの真似をしたら、いい時間を過ごせるようになった」とコメントをくれるようになりました。反応があるとうれしくて、1年ほどそんな生活を続けました。そのうち、「教室やってください」というご依頼を複数いただき、それならば、とサロンを立ち上げたんです。意気込んで、全6回の講座を最初から作り込みました。

 

しかし、いざサロンを始めてみたら、いただいた複数の声に反し、お客さんは1人だけでした。少し落ち込みはしましたが、せっかく「やってほしい」と声を寄せてもらって、機会を作ってもらい、自分でもやる気になって講座まで作ったのだから、ちゃんと形にしていきたいと考えたんです。諦めなかったのは、「この情報を知れて良かった」「他の誰かに教えてあげたい」と思ってくれる人が増えたら、もっと輪が広がっていくと思ったからです。

Q:全6回の講座をいきなり作ったところや、簡単には諦めなかったところに、末吉さんのガッツと地道な努力を感じます。

末吉:

かつての私は、”母たるものこうあるべき””○○しなければならない”という枠を作って、一生懸命収まろうとしていました。誰が決めたわけでもないのに、自分の意思よりその枠を優先して、うまくいかなくて、勝手に落ち込んだりしていました。

 

ですが退職した後に、自分らしく、知りたいこと・やりたいことをやり、アロマテラピーという形で家族に還元していったら、喜んでくれたんです。自己満足に終わらず周囲に還元でき、一緒にやっている感じが、とても幸せでした。
植物に興味を持ち、学んで、育てて、育てたハーブを生活に取り入れてみて、心地良いなと感じられ、それを大切な人と分かち合える。ひとつひとつ小さな工夫と前進を続けているうちに、トータル2年くらいかけて、幸せなサイクルに繋がっていきました。
お教室を通じて、かつての私のように枠に縛られがちな人が、自分らしく、生活が豊かになっていくのを応援したいと考えています。

プロフィール:暮らしハーバルアドバイザー・末吉 真由美さん

外資系化粧品会社の品質管理部にて製造業責任技術者として従事。育児と夫の転勤により退職。
8年のブランク後、興味があって勉強を始めたアロマで資格を取得し、
転居先の福岡でアロマテラピー&ハーブ講師活動を始める。
アトリエfaire ma vie(フェールマヴィ)を主宰、
薬用植物の美容・健康成分をいかしたライフスタイルを広めている。
HP:http://fairemavie.com
ブログ:http://kurashi-aroma.com

専門家:天田有美

慶應義塾大学文学部人間科学科卒業後、株式会社リクルート(現リクルートキャリア)へ入社。一貫してHR事業に携わる。2012年、フリーランスへ転身。
キャリアコンサルタントとしてカウンセリングを行うほか、研修講師・面接官などを務める。ライター、チアダンスインストラクターとしても活動中。