“くらしの表現家”として活動を行う吉田麻理子さん。楽しく生活をするためにはどうしたらいいのか、ということを日々考え、作品制作やワークショップを通してたくさんの人に伝えています。

 

インタビュー前編では、フリーランスとして活動を始めるまでの経緯や、「楽しくくらす」ために吉田さんご自身が実践していることをお聞きしました。後編では、働き方や今後についてなど、さらに突っ込んだテーマについてもお伺いしています。

タスクや目標を手放すことで、身も心もフリーに

Q:会社員時代と比べて、働き方はどんな風に変わりましたか?

吉田さん(以下、吉田):

時間と場所の使い方が変わりました。会社員時代は10:00~16:30にオフィス勤務、などと仕事する時間と場所が固定されていました。でも今は、まったく捉われることがありません。自分が好きなように時間と場所が使えるのは、とても良いですね。

 

今の一日の流れは、朝起きて、ごはんを作って食べて、9時に子供たちを保育園に連れていきます。それまでは自転車で急いで送っていましたが、今はゆっくり歩いています。途中で虫を捕ったりする余裕も生まれました。午前中はワークショップを入れていることが多いですね。お昼を食べて、午後は図書館やカフェで作業したり、自宅のアトリエで制作をしたり。晩ごはんを軽く作って、17:00にお迎えに行く、という感じです。

 

Q:では、お子さんとの関わり方は変わりましたか?

吉田:

大きく変わったと思います。会社員時代は、帰宅後も常に仕事のことで頭がいっぱいでした。任されていたタスクが重く、かつ時短だったので、仕事が終わらないんです。「終わっていない分、どうやって回そう…」とか、「また上司に怒られちゃうな…人間関係どうしよう…」とか考えていて、”子どもと楽しく過ごす”というところまで頭が回りませんでした。今は仕事の采配はすべて自分次第なので、子どもといる時間は、「どう過ごしたら楽しいだろう?」と思いを巡らすことができています。

ニコニコ・ママメガネ

 

例えば会社員時代は、ご飯食べてお風呂入って、さぁ寝るよ!と慌ただしかったのですが、今はご飯終わったあとに「何して遊ぼうか?」という感じです。先日は、下の子がお気に入りの絵本のパロディを一緒に作りました。作る過程も楽しいですし、できあがって読んでいたら書き間違いがあって、上の子はそれに大笑いしたりして。子どもと一緒にいる時間が楽しく過ごせるようになりましたね。

 

Q:お子さんと一緒にゆったり過ごせていて、理想的ですね。ご自身が”楽しいくらし”を実践されることが、原点なんですね。でも、その状態を保つのって、難しい時もありませんか?

吉田:

「フリーなのに辛い…」という時期がありました。活躍しなくては!ワークショップは満員でなくては!もっと露出しなきゃ!と思い込んでいたんです。誰かに設定されたわけでもないのに、自分で勝手に高い目標を設定して、到達しない苦しみを味わっている、という不思議な状況になってしまって(笑)。でも、いわゆる時短的な働き方をしているので、やり切れないんですよ。そうすると、子どもたちが帰ってきた後も、「問い合わせに返信しなきゃいけないのに…」などと思ってしまって。
いや、これはおかしいぞ、と思い、「活躍せねば」という思いを手放したり、SNSを見ないようにしたりして、「楽しく過ごしたいと思ってフリーになった」という原点に帰るようにしています。

ワークショップ:3日間の旅

やりたいことが変わってもいい。「好き」を追求し続けることで新しい道を見つけるのが楽しい

Q:今後については、どのようにお考えですか?

吉田:

自分自身がずっと幸せで楽しい、というのを追求したいんです。だから、今のやり方やサービスをいったんすべて手放してみる、というのもありかもしれません。軸はぶらさないですが、自分でもどこに行くかわからないですね。

 

Q:「どこに行くかわからない」って不安もありませんか?でも吉田さんはとても楽しそうですよね。

吉田:

どこに行くかわからないんですけど、できることとやることは、たくさんあると思うんです。来年海の近くに引っ越す予定なんですけど、例えば、新しい家の一部を外国人旅行者に貸し出してみたり、リトリート(※注)というか、自然の中でワークショップをしてみたりしても楽しそうですよね。
やりたいことは人生のフェーズで変わるので、自分でもまだ気づいていないやりたいことが、この先出てくると思います。

 

一つのことをずっとやるのが良い、という考え方もありますが、好きな服が中学生のころと今では違うように、やりたいことが変わってもいいじゃないか、と私は考えています。生きている時間が長くなれば提供できることも変わるし、好きなことも変わる。だから、仕事内容も変えていった方が、世の中に価値が提供できるのかな、と思うんですよね。

マザーズサードハンド

 

やり方はどうであれ、”好き”を追求していけば、結果に繋がる、という実感もあります。実は来年、行政からの依頼で、「女性の新しい働き方」というテーマで講演することになったんです。工作だけをやっていたら、この依頼は来なかったはず。
“好き”を追求する中でも、もちろん挫折する時もありますが、逆に新しいことをやれるチャンスだと考えています。挫折したり、うまくいかずに苦しんだりした時でも、何が好きで、どんな状態が幸せなのかを自分で把握しておけば、上がってくることができると思います。

 

企業にもう一度戻ることも、楽しい組織なら、面白いことをやっているところなら全然ありです。一回フリーになったからこそ、考え方が柔軟になって、「楽しいくらし」が実現できるならどこでも、と思いますね。

 

※注 リトリートとは、仕事や家庭生活などの日常から離れ、自分だけの時間や人間関係に浸ることを指す。

プロフィール:「くらしの表現家」吉田 麻理子さん

1985年横浜生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。東京都小金井市在住。
株式会社リクルートライフスタイル在籍時の2012 年より工作家として活動を開始。
2015年、同社を退職しフリーランスに。
日々の暮らしの中で思ったこと・感じたことを、写真・文章・工作などを通し、
ブログや育児メディアで表現している。
「楽しく生きる」ことをテーマとした、ワークショップ・カウンセリングも人気。
活動家でありアーティスト。2児の母。
ブログ「ポッチリ村」http://pottiri12.tumblr.com

専門家:天田有美

慶應義塾大学文学部人間科学科卒業後、株式会社リクルート(現リクルートキャリア)へ入社。一貫してHR事業に携わる。2012年、フリーランスへ転身。
キャリアコンサルタントとしてカウンセリングを行うほか、研修講師・面接官などを務める。ライター、チアダンスインストラクターとしても活動中。