あなたは、フリーランスという働き方を検討したことがありますか?
これまで、子育てや介護と仕事の両立についてお話してきた本シリーズ。フリーランスとして活躍している女性にも、何人かお話を伺ってきました。
今回のインタビューは、フリーのキャリアカウンセラーとして活動する島谷美奈子さん。島谷さんがフリーランスになった時は、まだそのような働き方をする人は少なかったと思います。どういう経緯でフリーランスになり、現在どのように活躍していらっしゃるのか、お話を伺いました。
正社員や契約社員として働くことだけが正解ではない。フリーなら無理せず、自分らしく働ける
Q:これまでの職歴と、フリーランスになったきっかけを教えてください。
島谷さん(以下、島谷):
私の場合は、ごく自然な流れでフリーランスになりました。
大学卒業後、百貨店の販売企画を4年ほど勤めたのですが、当時は、女性で大卒で総合職というと職場が限られていたんです。女性が活躍している職場ということで、流通業界に入りました。
仕事をする中で、「もっと人と深く関わる仕事がしたい」と思うようになり、次は成長業界で女性も活躍している人材業界に、未経験で飛び込んだんです。そこで、研修運営、派遣のコーディネーター・営業を経験しました。少人数の営業所では、日中は一人で事務所を切り盛りしていたこともあります。
30歳となり、今後のキャリアを考える中で、専門職か、管理職かを考えた時、「自分は管理職じゃないな」と思いました。当時は、熱中すると周りが見えなくなるタイプだったので、自分にも他人にも厳しく、全然気が抜けなかったんです。これで管理職になったら、自分も部下も大変だろう、と。今思えば、思い込みだったんですけどね。
ただ、その時は専門職を極めようと思って、環境を変えるためにいったん仕事を辞め、キャリアカウンセラーの資格を取りました。資格を生かして働くことが軌道に乗るまで、平日は研修会社で働き、土日は修行のためにキャリアカウンセラーとして活動していました。
その後結婚することが決まり、正社員を辞めて、単発のキャリアカウンセラーだけをやっていました。仕事は大好きでしたが、結婚が遅めだったこともあり早く子どもが欲しかったので、いったん辞めることを選びました。これまでに、働き過ぎで体を壊して不妊治療や婦人科疾患に悩む女性に多く出会っていたこともあり、自分もそうなってしまいそうだと考え、意識的にセーブしたんです。幸いすぐに子どもを授かり、1歳になったら復帰する、という約束で子育てに専念しました。
仕事復帰後はまず、社内スタッフとして契約社員で入りました。正社員登用を目指して頑張っていたのですが、リーマンショックが起き、非正規社員は契約終了となってしまいました。
次はどうしようかと思って、相談した人に「もともとキャリアカウンセラーとしてやっていこうと思っていたのでは?」と言われて。そこで、「そうだった!」と思い当たり、定時で帰れる公的機関でのキャリアカウンセラーの仕事に就くことにしました。契約が終わりそうになったらまた次を見つける、というサイクルを繰り返し、子どもの保育園時代は過ごしました。
そんな中である時、取引先が変わって、業務委託契約を結ぶことになりました。そこで「業務委託なら他の仕事もできるんだ」と思い至ったのが、フリーランスになったきっかけです。
他の方のように、「フリーランスになるぞ!」「起業するぞ!」といった意気込みはなく、どうしたら仕事を続けられるか?を考えた結果、たまたまフリーランスというスタイルに行き当たった感じですね。
ビジネスブログを立ち上げたり、交流会に参加したり、以前お世話になった会社から声をかけてもらったり、自分でも求人を見つけて問い合わせたりしながら、少しずつ仕事を増やしていきました。
みんながハッピーになる秘訣は、やりたいことを我慢しないこと
Q:流れとはいえ、フリーランスとして順調な滑り出しだったのですね。新しい仕事を得る秘訣は何ですか?
島谷:
発信と行動だと思います。気になる人がいれば会いに行き、やりたい仕事があれば問い合わせます。
2011年に立ち上げたビジネスブログは今でも続けており、個人向けキャリアカウンセリングやコラム執筆のオファーのきっかけになりました。
あとは例えば、地元の花屋カフェのオーナーに、ワーキングマザー向けの講座ができないかと相談したことで、ビジネスで成功している女性を招いての勉強会を開いたり、イベントをコーディネートしたりする機会もできました。事あるごとに「こういうことがしたい」と提案していたら、逆に「あなたなら、こういうこともできそう。やってみない?」と声をかけられて・・・というようなことが増えて、仕事の幅が広がっていきましたね。
また、女性と仕事を繋げる支援をしたいと発信していたところ、企業とワーキングマザーを業務委託という新しい形で結ぶ株式会社Waris(ワリス)の経営メンバーと出会い、2014年からジョインしています。
Q:多様なお仕事を抱えておられる島谷さんですが、お仕事を選ぶ基準は何ですか?
島谷:
30〜40代の働き続けたい女性の支援に関われるかどうか、です。
派遣会社時代、優秀な女性とたくさん出会いました。ですが、一生懸命お仕事をしすぎて、体を壊してしまったり、不妊治療中だったり、という人も多かったんです。その前に、なんとかしてあげたいと思いました。会社って、新人の頃は手厚くフォローしてもらえますよね。なのに、結婚や出産といったライフイベントに直面して悩みやすい30〜40代は、放っておかれることも多く、突発的に辞めてしまう人をたくさん見てきました。信頼できる人に相談しておけば、もっと前向きな道を歩めたかもしれないのに。私自身も、相談相手が欲しいと思っていました。
また、仕事を辞めて家にいる方の中にも「本当は続けたかった」という方や、エネルギーが余っている方が多くいます。エネルギーの行き先が子どもに集中してしまい、親子ともに窮屈な思いをしている人も、たくさん見てきました。その情熱が仕事に向かえば、親も子もハッピーになれると思ったんです。
だいぶ制度も整って風潮も変わってきた昨今、20代の方はこれから少しやりやすくなると思います。ですが、今の30代後半から40代の女性は、制度の行使にも苦労したパイオニアでした。当時は育休取得率が50%未満と低く、仕事を断念した人も多かったはずです。
でも、今からでも少し勇気を出せば、自宅で仕事を始めたり、自治体のセミナーに参加したり、ママインターンを通じたりして、社会復帰することも可能です。
一歩踏み出せずに迷っている人の背中を押してあげたいし、仕事を続けているけど辛くて辞める寸前、というような人を救いたいんです。
Q:東京でこの状況ですから、地方はまた事情が違うかもしれないですね。
島谷:
環境的に外に出づらい人も、地方にはまだいるかもしれないですね。私は福岡出身なのですが、とても保守的な家の育ちで、「女性が働けることはありがたいこと」という思いが人一倍強いんです。
先日、ダイバーシティ推進をしているNPO法人GEWEL(ジュエル)の活動の一環で、福岡で講座を行ってきました。ブランクのある主婦向けの、ベンチャー企業の管理部門としての再就職を目指すための自己分析講座です。福岡市は、自治体がスタートアップ企業を応援していることもあって、ベンチャー企業が多く集まっています。人手不足のベンチャーと、子育て経験があってマルチタスクが得意な主婦は、相性が良いんです。こうした動きも、各地方で活発化していくといいなと思っています。
専門家:天田有美
慶應義塾大学文学部人間科学科卒業後、株式会社リクルート(現リクルートキャリア)へ入社。一貫してHR事業に携わる。2012年、フリーランスへ転身。
キャリアコンサルタントとしてカウンセリングを行うほか、研修講師・面接官などを務める。ライター、チアダンスインストラクターとしても活動中。