2017年2月22日に、離職中の専業主婦をターゲットとした「『もう一度はたらく』を始めよう!」というイベントが開催されました。明治大学を中心に、日本女子大学、関西学院大学の3大学が合同で開いたイベントです。
「どうして、大学が専業主婦向けイベントをやるの?」と思われた方も多いでしょう。意外かもしれませんが、実はこれらの大学では、学内の社会人向けプログラムの中で、女性に特化したプログラムを持っているのです。明治大学「スマートキャリアプログラム」、日本女子大学「リカレント教育課程」、関西学院大学「ハッピーキャリアプログラム」という名前で展開されており、文部科学大臣認定「職業実践力育成プログラム」にも採択されています。
こうしたプログラムでは、
「ブランクを経て復職を考えているが、自信がない」
「子育て中は派遣社員として働いてきたが、そろそろ正社員に挑戦したい」
といった女性たちが、再び学校に通って、学び直すことができるのです。大学が社会人向けプログラムをいろいろ展開していることは、知っていたけれど、一度離職したものの復職を目指している女性への支援プログラムがこんなに充実しているとは知らず、驚きました。
イベント内では、2つのパネルディスカッションが行われました。前半は、少子化ジャーナリストの白河桃子さん、経済産業省の藤澤秀昭さん、サイボウズ株式会社の松川隆さん、明治大学商学部教授の小川智由さんなど、この分野に詳しい専門家が登壇。後半は、実際にブランクを経て再就職を果たした女性たちによる体験談が披露されました。
また、イベントの趣旨に賛同した企業が22社も集まり、会社説明を行うブースも設けられていました。子連れの方も多く、熱心に企業の方とのお話に耳を傾けていらっしゃいました。中には、面接に進んだ方もいたそうです。
私がこのイベントに参加して感じた“ブランクのある女性が復職するカギ”は、
1.支援プログラムの活用
2.ママインターンの活用
3.何のために働くかを考えること
4.家族の理解を得ること
の4つです。
それでは、イベントのご紹介と共に、ブランクのある専業主婦の方々がどうすれば仕事に復帰しやすいか、見ていきたいと思います。
1.支援プログラムの活用
前述したような、大学が行っているプログラムは、数か月から1年間かけて、通学しながらじっくり学んでいくものです。プレゼンテーション、マネジメント、キャリア、英語、ITリテラシー、会計知識など、様々な科目が用意されています。時間や費用を割ける人、学ぶことが好きな人、これを機にもう一度学び直したい人には、ぴったりだと思います。
一方、もう少し短期間での支援を希望している人には、行政や人材会社が主として行っている再就職支援講座をオススメします。職務経歴書や履歴書の書き方、面接対策など、実践的な内容が多いです。ご自身がお住まいの自治体や人材会社に、ぜひ問い合わせてみてくださいね。
2.ママインターンの活用
私が特に良いなと感じた取り組みは、これです。ブランクがある女性が再就職する前に、インターンとして働いてみる、というものです。
仕事に戻りたいという気持ちはあっても、
「手が離れたとはいえ、子育てが終わったわけではない。家事・育児とバランスは取れるだろうか。」
「長いブランクがあるが、ちゃんと社会人として通用するのか。」
など、不安を抱えている女性はやはり多いようです。
めでたく就職したものの、「やっぱり両立できませんでした。退職します。」というわけにはいかないですよね。そうなる前に、お試しとして働いてみることができるのです。
自分の生活ペースはどのようになるのか、子どもや夫の反応は?、仕事はどんなもので、自分の持っているスキルや知識はどの程度通用するのか。実際に経験してみれば、今の自分に足りないものが見えてくることでしょう。やはり復職はまだ先だと思ったら、就職しないという選択もできます。
ですが、意外にも「やったらできちゃった!」という経験者の声が多かったことが驚きでした。「子どもへの影響を一番心配していましたが、なんて事もなく、親が心配しすぎていたんだなと思いました。インターンが終わったあと、『あー疲れた』と思っていたのに、2〜3日もしたら、もう懐かしくて。」と、ママインターン経験者の方は語っておられました。
なお当日は、インターンをしたい女性と受け入れ先企業のマッチングをしているNPO法人Arrow Arrowや、株式会社Warisなどの団体も参加しており、インターンという手法の有効性を感じました。
3.何のために働くかを考えること
子育て中の専業主婦は、経験のない人からは想像がつかないくらい、忙しいものですよね。朝起きて、自分と子どもの身支度をし、朝ごはんを食べさせ、夫を送り出す。朝ごはんの洗い物、掃除、洗濯を済ませ、子どもを公園に連れていき、帰ってきたらお昼ごはんを作って食べさせる。お昼寝している間にアイロンをかけたり、部屋を片付けたりして、ホッと一息ついたのも束の間。子どもが起きたら再び遊びの相手をし、夜ごはんを作り、お風呂に入れて、寝かしつけて・・・と、やることは山積み。
「もう一度働きたい」という気持ちはあっても、じっくりその気持ちと向き合う時間が取れない、行動するきっかけがつかめない、という人も多いことと思います。
ですが、思い切って、時間を作ってみてください。ご主人にお子さんを預け、カフェで思考を整理するもよし、イベントや講座に参加してみるもよし、です。一歩動き始めたら、自分に問いかけてみてください。「何のために働くのか?」と。
もともと子どもが小学生になったら復職することを決めていた人、予想以上に教育費がかかるので補填したいという人、自己実現のために仕事を持ちたい人など、復職にかける思いは様々です。動機をきちんと考えることで、仕事に何を求めるかが明確になります。さらに、その思いを実現できそうな企業はどこか、というのも見えてきます。
パネルディスカッションの中で印象的だったのが、「”キャリアを継続すること”を最優先とし、派遣という雇用形態を選びました。」というお話です。ご自身が何のために働くかが明確になっていて、柔軟な選択をされたんだな、ということが伝わってきました。社会としばらく離れていると、つい企業に求める要件も増えてしまいがちです。給料、雇用形態、仕事内容、働きやすさなど、求める要件の優先順位付けも行っておくと良いと思います。
4.家族の理解を得ること
専業主婦だった母・妻が働きに出る、というのは、家族にとっては大きなインパクトです。これまでスムーズだった家事・育児はどうなるのか、と不安に感じる人も多いでしょう。
家庭内で家事・育児の担い手が自分一人だった、という人は、これを機に夫にも分担してもらえるよう、話し合うことをオススメします。具体的に、何の作業を、どのくらいの頻度でお願いしたいのか、を明確にしておくと、頼まれる側も受け入れやすいかもしれませんね。お子さんが大きい場合は、戦力として巻き込んでしまうのもありだと思います。
家族の理解を得るために必要なのは、実は項目3でお話した「何のために働くか」を明確にしておくこと、なのです。「ママ、何で働くの?」とご主人やお子さんに聞かれた時に、何と答えますか?真剣な思いで、いろいろ考えた結果、一歩踏み出そうとしている、ということが伝われば、家族もきっと応援してくれるはずです。
こうした段取り力、周囲の巻き込み力は、仕事でも必ず活きてきます。復帰の準備の一環というつもりで、取り組んでみてくださいね。
イベントの取材を通じ、企業側もブランクがある専業主婦の採用に積極的になりつつあることを強く感じました。IT企業やベビーシッターサービスを提供している会社など、比較的親和性の高そうな企業だけでなく、大手老舗ガラスメーカーなども名を連ねていたことには驚きました。
少子高齢化が進み、労働人口が慢性的に不足していること、売り手市場で人手を必要としている企業が多いこと、ダイバーシティが進んだこと、ビジネスの特性上女性の視点が重要、など、理由は様々です。ですが、再就職をしたい女性にとって追い風が吹いていることは間違いありません。こうした動きを受けて、一歩前に進める人が増えることを願っています。
専門家:天田有美
慶應義塾大学文学部人間科学科卒業後、株式会社リクルート(現リクルートキャリア)へ入社。一貫してHR事業に携わる。2012年、フリーランスへ転身。
キャリアコンサルタントとしてカウンセリングを行うほか、研修講師・面接官などを務める。ライター、チアダンスインストラクターとしても活動中。