学生時代からハンドボール選手として活躍し、全日本の主将も務めた経験がある東俊介さん。選手を引退後、ハンドボールをメジャーにするためにビジネスの世界に飛び込んだものの、しばらくは何もできない状態が続いたそうです。

後編では、スポーツが持つ可能性と、東さんご自身のこれからのキャリアについて、お話していただきました。

「教育・育成」と「興行」、2つの柱でスポーツをもっと身近に

Q:「スポーツ」の「価値」とはどういったものなのでしょうか

実はスポーツ庁ですら、しっかりと価値を定義できていないんです。「国民の健康増進に寄与する」そんな事は別にスポーツでなくとも何だってできるんですよ。野球でもサッカーでもなくていいわけです。

僕はスポーツは「問題解決力の向上」や「コミュニケーション能力の向上」といった「教育」の分野に大きな価値があると思っています。問題点を見つけて仲間と解決する。こういった力の向上にスポーツほどマッチしたものはありません。

スポーツをする事で勉強する子供になります。こうも言えてしまうと思います。 今は、みんなスマートフォンに釘付けですが、スマホで何をしているかといえば人と繋がっているわけです。ただ、面と向かって肌に触れてできる。「対人スキルの向上」これは AI にはできない事です。
しっかりとコミュニケーションがとれる人材、問題解決ができる人材、そして目標を達成するだけの体力がある人材、それをスポーツは育てる事ができる。これは「スポーツ」の大きな価値ですね。そして、これから僕がビジネス領域で結果を残していけば、その証明になると思います。

Q:アスリートは失敗耐性が強いイメージがありますよね

元選手だと失敗への耐性は強いですし、チームスポーツだと組織に入った時のマネジメントもよくわかります。ビジネスの組織も、スポーツのチームと同じで、様々な役割のスペシャリストがいたり、複数のポジションができる人間がいたりしますね。

そういった「選手」をどう活かすかという「指導者」の役割が重要です。教育の話に戻りますが、スポーツって人材育成には凄く良いんです。といっても旧来の縦社会な体育会系、先輩には絶対服従、といった感じではなく、なぜそうするのかを理論立てて育成していくことに意味があると思います。ちゃんとした指導者であれば、ちゃんとしたマネジメントができれば、スポーツってとても価値の高いものだと思います。

Q:教育・育成の分野でスポーツを活かすために、課題はありますか。

指導者の役割を担える人が必要ですね。今よくいる指導者のように、引退後に趣味でやっていたり、いわゆる体育会系で「がんばれ!」というのでもなく、なぜそうするのかを理論立てて説明することができる。こうした育成やマネジメントができれば、スポーツの価値を最大限に発揮できると思います。

Q: いわゆる興行ではなく、教育としての価値を重視していくという事でしょうか。

もちろん興行という柱は大事で、「教育・育成」と「興行」の二つの柱で進めるべきだと思います。そういった面ではアイドルのようなショービジネスに学ぶ部分が多いのですが、スポーツがショービジネスと大きく違うのはシナリオが無い点です。
ショービジネスが失敗なくヒットを積み重ねられるものだとしたら、スポーツには特大ホームランがあります。とんでもない逆転劇や予想もしないような大記録、ありきたりかもしれませんが、そういった部分が「興行」としての価値です。

ちなみに、先ほど「強いチームを作る事」に価値を見出していないと言いましたが、「興行」の側面では、戦力均衡を図る事の方が大事だと思っているからという点もあります。拮抗した試合やリーグの方が絶対に面白いですよね。そういった面ではアメリカンスポーツのドラフトやサラリーキャップ(選手の契約年俸の総額を、毎年一定の上限を設けて規定する制度)などの手法に学ぶ部分は多いと思います。

Q:ハンドボールでの「興行」という側面においては、どのような点が重要でしょうか。

ここで逆に質問です。世界で一番人を引きつけるスポーツってなんだと思います?メジャーリーグでもNBLでも無いんです。答えは「自分の子供の運動会」です。スポーツを見ていて面白いのはその人やそのチーム、そのスポーツが好きだから、イチロー選手だって本田圭佑選手だって、知らなかったら誰も応援しません。

裏側のドラマを知っているから好きになるし、勝っても負けても応援する。生まれた時から知っている子供なら、夢中になるのは当たり前ですよね。だからマイナースポーツにとってはまずは、「知ってもらう事」が最初の目標になるんです。

Q:ハンドボールは体育の授業や部活で取り入れている学校なども、あまりないと思います。知ってもらう事は難しいのではないでしょうか。

もちろん簡単ではないですが、それって工夫が足りないからだと思うんです。ハンドボールってこんなに楽しいんですよ、僕たちこんなに頑張っているんですよ、ってアピールするだけじゃダメなんですよね。

例えば最近では、イベント的に楽しんでもらう「ゆるスポーツ」として、手にハンドソープをつけてボールを持てない状態で行う「ハンドソープボール」というイベントをしたところ、メディアでも大々的に取り上げてもらえました。これが、ただのハンドボール教室だと、知り合いの伝手くらいでしか集まらないんです。こんな風に打ち出し方を変えて、マーケティングもしっかり考えて、コンテンツをつくることができれば決して難しい事ではないと思っています。

オールキャリアと考えることで、やりたいことが見えてくる

Q:最近では整体やストレッチのサービスを提供する会社が元アスリートを積極採用をしていたり、元アスリートが肉体やキャラクターを生かしてメディアに登場する場面も見かけます。こうしたセカンドキャリアを選んでいることに対してはどう思われますか?

良い事だと思います。 ただし、それがやりたくてアスリートになったわけじゃない人もいると思います。他に選択できる道がなくてストレッチ技術を活かす”しかなかった”のでは残念ですし、ブランドを壊して知名度を活かすしかなかったのでは良く無いと思うんです。

僕は、今がセカンドキャリアだとは考えていません。アスリートをファーストキャリアとして終わったものとするのではなく、自分のやりたい事、成し遂げたい事に向かって、すべてが繋がっていく「オールキャリア」なんです。だから引退前に大学院にも行きましたし、常に次の事を考えています。

Q:ひとつのキャリアが終わるのではなく、次のためのステップと捉えるんですね。

人って、何かを目指す時に、まず最初に「なれるかどうか」を考えてしまうと思うんです。バスケット選手になりたいけど身長が低いとか、建築家になりたいけど勉強ができないとか、自分で「できない理由」を探してしまうことも多いのではないでしょうか。
でも僕は、小学生向けの教室をする時に、「身長が低いNBA選手も、小学生の時勉強ができなかった建築家もいるよ」そう言って夢を持つことを教えています。大事なのはできるかどうかではないんです。できるようになるための方法は、後から考えれば良いんですから。

僕の今の夢は、ハンドボールをメジャースポーツにすることです。現役時代の「全日本代表になって世界一になりたい」という夢とは違いますが、とてもやりがいのあるチャレンジだと思っています。そのためには、まだまだ自分を磨かなければいけないし、努力も必要で、これは小学生だって、大人になったって同じなんじゃないかな、と。

スライムを倒せるようになったら、いつまでも最初の村にはいない。人生でもずっとレベル上げをしていきたい

Q:自分を磨くためにどんな事を心がけていますか。

まず、「同じ村」にいちゃだめだと思うんです。ハンドボールの村にいたら元キャプテンなんて沢山いるんですよ。自分の価値が尖らない。でも一歩外に出たら「元日本代表です」と言うと「凄いね!」ってなるわけです。そして外に出る事で自分のレベルも上がっていく。

実は僕、ドラゴンクエストが凄く好きなんですけど(笑)、余裕でスライムを倒せるようになったのにいつまでも最初の村にはいないですよね。レベルを上げて武器を揃えたらどんどん次の村へ進んでいかないと。目標は魔王を倒す事ですから。自分の人生でも、何かができるようになったら次に行きたい。「こなす」ようになってしまうのは嫌なんです。

インタビューを終えて

もっと肉体派な方をイメージしていたのですが、ゲーム好きであったり、AI の話も出たりと意外な一面も垣間見えたインタビューでした。一方でフィジカルな体験・コミュニケーションをとても大事にされていて、ハンドボールのみならずスポーツと社会の在り方を真剣に考えておられました。
スポーツビジネスだけでなく、教育・子育て、マネジメント、多くの面で参考になるインタビューになりました。

取材/松本 遼

撮影/宮本 雪

東俊介
石川県出身。中学1年からハンドボールを始め、高校、大学、U-20などで活躍。
卒業後は大崎オーソルにてプレイを続け、チームを優勝に導く。
また、日本代表のキャプテンも務める。
2009年3月に現役引退後は、早稲田大学大学院にてスポーツマネジメントを学ぶ。
日本ハンドボール協会などを経て、2016年にサーキュレーションに入社。

【ライター】松本 遼
京都造形芸術大学卒業後、広告制作会社を経て、2010年よりフリーランス(http://idvl.info)。
デザイナー・アートディレクターとして
雑誌広告・広報ツール・webサイトなどの制作を請け負う。
「uniqlo creative award 2007 佐藤可士和賞」、「読売広告大賞 2010 協賛賞」ほか、多数の賞を受賞。
フリーランスとして多くの企業、個人と関わった経験を生かしライターとしても活動中。

ノマドジャーナル編集部
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