SI業界をもっとおもしろくするために、さまざまな挑戦を続ける株式会社エーピーコミュニケーションズ・代表取締役社長の内田さん。インタビューの後編では、海外に目を向けるべき理由とマルチエンジニアを育成する必要性についてお話をお聞きしました。
世界がフラット化し、日本のエンジニアが海外で活躍できるチャンスが広がった
Q:今後、海外進出などは考えているのでしょうか。
内田武志氏(以下、内田):
よく、グローバル化みたいなことをみなさん言っていますが、私自身は世界が”フラット”になってきているというイメージを持っています。
日本もアメリカも南極も、関係ない。今はもう、スマホひとつあれば、どこでも仕事ができる時代です。海外に拠点がなくても、インターネットを介して世界中の優秀なエンジニアと繋がることができる。一度も会ったことのないメンバーを集めてプロジェクトを進めることだって可能なんです。海外をマーケットにするのに、海外に行く必要はなくなった、ということですね。
こういったことは、すでに身近で起きているんですよ。たとえば、GoogleやAmazonがどこの国の企業かなんて、誰も気にしないですよね。いい仕事は世界中どこだって、いい仕事なんです。
Q:ITというと、欧米のほうが技術力が高いイメージもありますが。
内田:
実は、ちゃんと調べに行ったんです。5、6年前のことですが、バルセロナで開催された大規模な技術カンファレンスがあって、自分たちが海外で戦えるのかを知るために見に行きました。そこで、技術的にはまったく問題ないことがわかりました。「APCは世界で勝負できる」という決断を十分に下せる内容でした。
その後、インテルが1億ドル以上出資したミランティスから、一緒にやらないかと声を掛けていただき、今年10月にジョイントベンチャーを設立するまでに至っています。
技術力を高めることが、優秀な人材の採用にも繋がる
Q:日本は人件費が高いと言われていますが、海外の人材と一緒にプロジェクトをやるときなどに、デメリットになることはありますか。
内田:
私は日本人が「割高」だとは思いません。日本人って、真面目で、細かいことに気を配れて、改良が上手、というイメージがありますよね?実はこれ、SIにはぴったりの人材なんです。ヨーロッパの会社と仕事をしたときも、現地で人材を確保しようかと提案すると「日本人で確保してくれ!」と言われたこともあります。
コストの話でいうと、製造業などが人件費の安い新興国に工場をつくるのと同じような感覚で、コストを下げるためにアジアなどへアウトソーシングしているのではないか、と考える人が多いのではないでしょうか。
ですが、私たちはコスト削減のために、海外に目を向けているわけではありません。国内にも優秀なエンジニアはたくさんいますが、世界中で探せば単純にパイが大きくなり、よりたくさんの人材と出会えます。グローバル化というのではなく、世界がフラットになったことで、マーケットも人材を探すフィールドも広がったという感じですね。チャンスがあれば、ヨーロッパでもアメリカでもすぐに出向きますよ。
Q:マーケットを広げたり、優秀な人材と出会う機会を増やすために海外に目を向けるという話は、SI業界に限った事象ではないように思えます。
内田:
現時点で行動を起こしているかどうかはともかく、そう考えた方が良いでしょうね。APCも「国内だけでやっていけるじゃないか」と周りから言われていましたし、確かにやっていけたとは思います。
でも、何年か先に海外に出なければならない確率が高い以上、早めに行った方がいいんです。チャンスを掴むんだという目的を持って行く場合と、どうしようもなくなって何かを探しに行くのでは、成功できる可能性が全く違うんです。
これはシリコンバレーで聞いた話なのですが、現地の日本語通訳の方がとても忙しいそうです。どういうことかというと、大手の会社だけが来ているわけではなくて、中小・ベンチャーの企業が大挙して来ているからなんですね。出ざるを得ないといった状況ではなく、国内で稼げている間に数年後を見据えて世界に出て行く。世界で仕事をするために将来に投資をする。私はそう考えていますし、他にもそういう会社は確実にあるということなんです。
多様性を持ったエンジニアが集まれば、すごいことができる
Q:日本、海外に関係なく優秀な人材を集めることが必要なんですね。では、人材を獲得するためには、会社として何をしたらいいのでしょうか。
内田:
エンジニア不足と言われていて、経営者でもよく「仕事はあるんだけど、人材がいなくて」と言う方がいますが、それは私に言わせれば”経営者の怠慢”ですね。たとえば、天才と呼ばれるエンジニアは世の中に一握りしかいませんが、新しいものを生み出していくには欠かせない人材です。そういう人にAPCの仲間になってもらったり、プロジェクトに参加してもらうには、会社が魅力的でなければならない。
だからといって、むやみな宣伝や迎合をするかというとそうではなくて、会社としての”生き様”を見せることが大事だと思うんです。APCが目指すのは「すごいエンジニアがワクワクできるSI業界を作ること」なので、優秀なエンジニアがワクワクできる環境や、常に新しい技術に挑戦したり、海外の有力な企業と一緒に新しいことにチャレンジするなど、そういったことに投資していくことがAPCという会社の生き様であり、経営者の仕事なんです。
Q:というと、天才だけを採用するということなのでしょうか。
内田:
さっきも言ったとおり、天才エンジニアは数が少ないのでそれは難しいです。ただ、優秀なエンジニアはけっこういるんです。だから、優秀なエンジニアを育てることで、マルチエンジニアを増やしていきたいと考えています。
もう少し具体的に説明させていただくと、天才というのは1つの尖った能力を持っている人のことで、その能力に関しては、たぶん100点なんです。でも大多数はそうではない。複数の能力やスキルを平均的に持っていたり、いくつかが得意だったり苦手だったりしますよね。それは一人ひとり違うものなので、全員を同じに揃える必要はないんです。天才のように1個で100点でもいいし、10個を集めて100点でもいい。みんなの能力がバラバラであることで組織に多様性が生まれますし、それぞれの能力を掛け合わせることで化学反応のようにいろんな変化が起こるのもおもしろいですよね。
ただ、そうはいっても個々の能力を伸ばしていく必要はあります。そこで「APアカデミー」という社内大学を設置しました。現在は、年間116講座・450コマのカリキュラムがあり、技術系の講座はもちろんのこと、ロジカルシンキングや経営戦略、リンスタートアップと言ったビジネススキル系の講座も充実しており、自分の能力や目標に合わせて選べるようになっています。
エンジニアはプロジェクトチームのあるクライアント先で仕事をすることが多いため、考え方や思考、文化が違ってきてしまうことが往々にしてあります。目線を合わせるという意味でも、社内大学は今後も続けていきたいと思っています。
―不思議なほど世界というものが身近に感じるインタビューでした。フラットになった世界で戦うために必要なのは技術ではなくコミュニケーション。コミュニケーションが取れれば日本人は世界でも十分に戦っていける。業界に関係なくそんな熱い思いを感じました。
取材・記事作成/松本 遼
株式会社エーピーコミュニケーションズ 代表取締役社長兼CEO
1992年に早稲田大学を卒業後、富士銀行(現:みずほ銀行)へ入行。
投資先企業のシステム部門でいくつものプロジェクトを手がける中で、
システムインテグレーター(SI)業界の可能性を感じる。
2006年に銀行を退職後、エーピーコミュニケーションズの株式を取得し、代表取締役に就任。
エンジニアがワクワクする新しいSI業界「NeoSIer」をつくるための挑戦を続けている。
京都造形芸術大学卒業後、広告制作会社を経て、2010年よりフリーランス(http://idvl.info)。
デザイナー・アートディレクターとして
雑誌広告・広報ツール・webサイトなどの制作を請け負う。
「uniqlo creative award 2007 佐藤可士和賞」、「読売広告大賞 2010 協賛賞」ほか、多数の賞を受賞。
フリーランスとして多くの企業、個人と関わった経験を生かしライターとしても活動中。
専門家と1時間相談できるサービスOpen Researchを介して、企業の課題を手軽に解決します。業界リサーチから経営相談、新規事業のブレストまで幅広い形の事例を情報発信していきます。