昨今、メディアというとまず連想されるのは、WEBメディアになっているかもしれません。新聞雑誌は活字離れが叫ばれ続け、その影響力は小さくなっていると言われています。テレビも報道メディアとしても、広告媒体としても、その地位をWEBメディアに奪われているという認識が主流ではないでしょうか。

 

そして、そのWEBメディアでさえ、玉石混交の感は免れず、昨年末のDeNAのキュレーションメディアの事件では、「WEBメディアは信用できない」という印象を広く与えてしまったかもしれません。しかし、そのメディアの力を信じ、メディアの力でビジネスを活性化しようと考えている人がいます。それが、株式会社メディアインキュベート代表取締役社長、浜崎正己氏です。

同世代の人たちがどんどん起業していく姿に触発された。
そして、自分の武器は”メディア”だと感じた。

Q:メディアインキュベートでは、メディアの制作や運用支援に止まらず、メディアを活用した事業支援、マーケティング支援なども行われているそうですが、そもそもメディアに興味を持ったきっかけを聞かせてください。

浜崎正己氏(以下、浜崎)

もともとは本が好きで小説家になりたかったんです。もう一つ、スポーツが好きでスポーツ選手にもなりたかった。でもそちらは夢が叶わなかったというときに、「スポーツ×文章を書く」で、スポーツ記者になりたいと考えて、大学ではメディアを学びました。実は、大学時代は学生記者をやっていたんです。

Q:しかし、経歴を拝見すると、大学卒業後は、全く違う業界に就職されていますね。

浜崎

家庭の事情もあって大学院に進学しようとしていましたが、就職する必要があったんです。大手企業で家族を安心させたい、という選び方でした。でもやはりメディアにかかわる仕事がしたくて、転職。その転職先がある夕刊紙のWEBメディアの運営を請けていて「もともと新聞記者になりたかったのならばやってみる?」とお声がけをいただき、担当することになりました。当時は、いろんな紙メディアがWEBにも力を入れなければ駄目だと気が付きはじめたころでした。

 

ご一緒にやっていて、非常に楽しく取り組めており、とても大きな成果も残すことができたのですが、あくまでWEBメディアの運営や開発受託なので、どんな記事を掲載しよう、どんな改善をしていこうという判断、決定権は自分たちにはない。やはり、仕事をしていくからには、自分がやっているサービスだと感じたい。そこでGMOグループに転職して、自社サービスのためのサイト、メディアの運営に携わるようになりました。

Q:そこから、起業されたのには大きな理由があったのでしょうか?

浜崎

GMOで仕事をしていると、同世代の起業家達がどんどん起業して、上場したりする姿を目にすることが多かったんです。それに触発された部分が大きいですね。そこで、GMOを退職して、まずはスタートアップの企業に転職をして経験を積むという手順を踏みました。その段階では、起業がしたかった。メディアに関係ない仕事も候補に挙がっていました。でも考えれば考えるほど、自分の経験を活かしていけるのは、メディアの仕事だと気付かされたんです。

コンテンツの粗製乱造のイメージもある、現在のコンテンツマーケティング。
本来メディアは、「そのジャンルが好きな人」が携わるべきだ。

Q:いま、昨年末のDeNAの事件もあって、WEBメディアの存在意義が問われている時期ではないかと思います。特に、近年のコンテンツマーケティングのブームで多くの企業がオウンドメディアを持つようになり、大量のコンテンツが粗製乱造されているのではないかという懸念もあります。

浜崎

実際、コンテンツマーケティングを展開したいので手伝って欲しいという話はたくさん来ます。でも断ることも多いんです。いままではコンテンツマーケティングバブルみたいなところがあって、コンテンツマーケティングをやればなんでもうまくいく、モノが売れまくると思われていた嫌いがある。でも、本当はそんなものじゃないし、実際、いまは「思ったほどの効果がない」と思われ始めている。それで、メディアってダメだよねと、メディアの価値が下がるのはうれしくない。今のような形でのコンテンツマーケティングは続かないと思いますよ。

Q:そのコンテンツマーケティングバブルは、きっと企業にとっても、消費者にとっても、メディアにとっても、現状はあまり良い環境ではないということでしょうか。では、なぜそんなことになったのか。また、本来メディアとはどうあるべきかをお聞かせください。

浜崎

DeNAの事件で、いろんな事情が複雑に絡み合ってあんなことになったのだろうと思うのですが、一番ポイントになるのは「メディアをやりたい人、健康に関するメディアをやりたい人」がやっていなかったんだろうな、ということなんです。メディアへの思い入れがない。

 

例えば、かつて雑誌を作ろうというと、そのジャンルが好きで好きでしょうがないという人が集まっていたんです。いまでも「moguraVR」というVRに特化したWEBメディアがあります。始めた頃は資金も潤沢ではなくて苦労されていたと聞いたのですが、本当にVRという技術、ジャンルが好きで、ほとんど執念でメディア運営を続けてこられて、いまやVRについて何か知りたかったら、まずはmoguraVRだといわれるくらいになっています。またアスキーという出版社なんかでも、コンピュータやプログラム、IT、ゲームなんかが本当に好きな人たちが集まってメディアを作っている。コンテンツマーケティングで「これがもうかるからメディアをやって」というのでは、本当にそのジャンルが好きな人ではないですよね。そこが問題ではなかったのかなと感じます。

「事業創出×メディア」のキーワードが一番大事。
それが実現できれば細かいことはどうだっていい。

Q:では、浜崎さんが好きなジャンルはなんでしょうか?

浜崎

独立するときは、「事業」がしたかったんです。先程話したように、ではその事業はなにかと考えたら、経験を活かすとか、自分が好きなことということから、メディアになった。そこで、いまメディアをやっているんですが、それだけでなく好きなのは、やはり「事業」なんです。この掛け合わせが面白い。例えば、テレビ局やラジオ局、新聞社や雑誌社なども、まだまだ発展できる。そのお手伝いがしたいんです。そういった従来型のメディアは、正直なところ、最近の時代の変化にマッチアップできていなかったという問題があったかもしれません。そこを手助けできるといいなと思っています。

 

また、ベンチャー企業は夢やアイデア、技術はあっても資金がない。一方大手は、最先端の技術を取りいれるのに時間がかかる。そこをメディアの力でマッチングさせる。「事業創出×メディア」がキーワードなんです。それができれば、細かいことはどうだっていいんですよね。

Q:いまメディアインキュベートの事業の一つとして、ライターや編集者の育成も行われていますね。やはり、メディアを作る側の人材育成も欠かせないんでしょうか。

浜崎

コンテンツマーケティングで、大量のコンテンツを作る必要があるというときに、一記事数千円、なかには数百円というめちゃくちゃな発注があるんです。それはオウンドメディアをただの集客手段であったり、広告だと捉えているからなんです。「その記事でいくら利益が出るのか」しか考えなくて、そんな値段が生まれてきてしまう。でもそんなことをしているとライターや編集者が食べていけない。なりたくない職業になってしまうと、結果としていい記事は生まれないし、いいメディアもできないんです。ライターや編集者が良い仕事ができる環境を作らないと駄目になる。いまのままでは絶対にいけない。それに一石を投じたいんです。

 

―メディアが好きでその力を信じている浜崎氏。その思いが伝わるお話でしたが、もう一つのキーワード、「事業創出×メディア」。それから浜崎さん自身の事業への取り組み方について、後編で伺っていきたいと思います。

(後編へ続く)

取材・執筆:里田 実彦

関西学院大学社会学部卒業後、株式会社リクルートへ入社。
その後、ゲーム開発会社を経て、広告制作プロダクションライター/ディレクターに。
独立後、有限会社std代表として、印刷メディア、ウェブメディアを問わず、
数多くのコンテンツ制作、企画に参加。
これまでに経営者やビジネスマン、アスリート、アーティストなど、延べ千人以上への取材実績を持つ。