WEBメディアのあり方が問われているいま、そのメディアで事業創出を助けていきたいというメディアインキュベート代表取締役社長、浜崎氏。そのキーワード「事業創出×メディア」に込められた意味、そこから生まれる将来像について話を伺いました。

ただメディアを作ればいいわけではない。
なぜそのメディアが必要なのかを考えれば、ゴールが見えてくる。

Q:前回の続きになるのですが、浜崎さんがメディアを作る、運営するときに気を付けていることはなんでしょうか?

浜崎正己氏(以下、浜崎)

まずは目標、ゴールを明確に設定することです。なぜそのメディアを作るのか、その記事は何のために掲載するのか、これを明確にする。いわゆるオウンドメディアだと、ほとんどの場合、売りたいものがあるわけです。それをいつまでにどれだけ売りたいかを決めることが大切です。これが明確でないと、取り敢えずメディアを作って、ダラダラと運営して、なんだかよくわからないまま「効果がよくわからないね」なんて、グダグダになっていくんです。

 

例えば、売上や利益ははっきりと数字が見えるので効果測定がしやすいのですが、ブランディングで企業イメージをよくしたい、商品の認知度を上げたいというときには、なかなかわかりやすい数字に表れてこない。そんなときには、SNSでの反応を計測しておくとか、メディアをきっかけとして露出量を計測するとか、「どうやって計測するか」をあらかじめ考えておく必要があります。とにかく、なんとなく始めるとうのが一番ダメです。ゴールを決める、その為の計測手段も準備する。ゴールによっては、わざわざ手間暇がかかるオウンドメディアを作るのではなく、既存メディアに寄稿するとか、徹底してネット広告を出しつづけるとか、別の手段の方が効率がいいケースもあるんです。なにもオウンドメディアを作ることそのものが目的ではないないはずです。目的に応じた手段を執るためには、目的を明確にすることが不可欠なんです。

Q:前回、「事業創出×メディア」という言葉を伺ったのですが、いま浜崎さんご自身がやっていきたいこととはどんなことでしょうか。

浜崎

まずは、メディアに特化することを考えています。メディアとベンチャー企業のマッチングだったり、メディアに特化した人材紹介や投資といったことも考えています。世の中には様々なサービスや事業がありますが、それをとにかく、メディアに特化したものにしてみたい。メディアを作りたいだけではなくて、メディアについてなんだかよくわからないけれど困った、悩んでるとなったら、メディアインキュベートに連絡が来る、そんなことになるといいと思っています。メディアにかかわることは全部やる、ということです。

 

いま、メディアというとWEBメディアばかり話題になりますが、リアルのイベントなんかも立派なメディアです。従来の放送メディア、紙メディアも含めて、全部、メディアのことなら「メディアインキュベート」ではできるようにしたいんです。

メディアでインキュベートするために、
たった数名でもメディアにかかわること全てを手掛ける企業になりたい。

浜崎

Q:メディアインキュベートという社名ですが、「メディアをインキュベート」という意味と、「メディアでインキュベート」という両方の意味に取れますね。※インキュベートは育成、支援するという意味

 

その通りで、メディアを作るメディアインキュベートではあるのですが、メディアで事業創成をお手伝いするインキュベートでもあるんです。メディアは人と人を、人と事業を、情報を繋ぐ存在なんです。

Q:そうなると、ありとあらゆる事業でメディアがかかわってくることになり、御社の事業はメディアを核にしながらも、ものすごく幅広いことになると思うのですが、いま、浜崎さんお一人で動かれていますよね。

浜崎

まだ大勢でやるレベルには達していないし、もしかしたらサッカーを始めたばかりの小学生がメッシみたいなプレイをしたいというような無謀な話かもしれないのですが、孫さんみたいな仕事のやり方をしてみたいんです。ソフトバンクグループは巨大ですが、ホールディングスには200人しか人がいない。その人数であれだけのグループ会社全てを取り回している。その真似がしたい。つまり最少人数で事業を回したい。まだまだレベルは違いますが、社員ではなく、同じ目標とまではいかなくても、同じ方向を向いた人たちとパートナーシップを結んで、ビジネスに取り組んでいく。そんな仕組みを作ろうと思っています。そうするとビジネスの相手やその時取り組むビジネスに応じたやり方に、その都度対応できることになると思うんです。

 

将来的には、メディアインキュベートはメディアにかかわるあらゆることをやっていける会社にしたい。今進めている具体的な事業は、例えばメディア×ファッションの会社があったり、メディア×ペットだったり、それぞれで関連会社を作っていきます。そんなイメージなんです。実際に食の関連会社もサケドアインキュベートという会社を設立しました。

 

なにが面白いかといわれたら、とにかく新しいこと、新しいものを作るのが楽しいんです。まだ誰もやっていないことをどうやって実現しようか、どうすればうまくいくだろうかと考えて、工夫するのが面白い。楽ではありませんが、あれとこれを組み合わせたらいけるんじゃないかとか、そんな思い付きが楽しいですし、どんなに忙しくても苦ではないですよね。いまは、いかに関連会社を増やしていくか、つまりどれだけ多くの事業を作っていけるかですね。結果として、何千社かのホールディングスになっていることが理想ですね。もちろん難しいことだとは思いますが、面白いところでもあります。

まずは社員よりも、自分の前を走るメンターを得よ。
そして、出資の誘いは、結婚以上に慎重にせよ。

Q:これまでの経験を踏まえて、これから起業をするという人にアドバイスをするなら、どんな言葉をかけられますか?

浜崎

メンターはいた方がいいですよね。僕自身、いろんな人に助けていただきました。仲間がいると言うことも良いんですが、自分よりも経験豊かで、先を走っているような方がいると違います。学びの速度に大きな差が出ると思いますよ。一人はきつい。なんでも相談できる相手で、仲間でもない。そういうメンターは大事です。

Q:一人はきついという話ですが、メディアインキュベートではまだ社員はいらっしゃらないですよね。

浜崎

社員はメンターではないので。いまは社員として自分に付いてきてくれる人ではなく、先を走っている人に相談したいんです。それに、いまとにかくたくさんの事業をしていきたいというときに、ある事業のために人を雇っていると、その事業を維持しなければならなくなるんです。フットワークが悪くなる。だったら、そこはパートナーとやった方がいい。いまはまだ社員を増やす前の段階で、流れができてきたらそこから社員が欲しいと思うでしょうね。

Q:雇用という話ですが、慎重ですね。他にも気を付けた方がいいことはあるでしょうか。

浜崎

株というか、出資ですね。起業して頑張っていると、ときに「出資したい」というような、ありがたい話をいただくこともあるんです。でもそこで深く考えずに出資を受けるのは危ない。出資を受けるというのは、結婚するのと同じなんです。熟考した方がいい。自由ではなくなるし、出資してもらった以上、リターンを返さなければならない。それは悪いことではないのですが、足枷でもあります。投資を受けることそのものは悪い話ではないんです。でも、自分が事業をしていくときに、出資者に反対された場合のことも考えなければならない。そこは気を付けなければならないですね。

Q:最後に、いま経営者として動かれていますが、会社員時代の自分と一番変わったところはどこでしょうか?

浜崎

ひと言で言えば、当事者意識です。会社員時代も、それなりに当事者意識はあったと思います。でも、経営者のそれとは圧倒的に違う。会社員だったら、委託で運営しているポータルサイトは自分のものではないんです。自社サイトでも会社のものであって、自分のものではない。会社を辞めればそれで離れてしまえるものですから。

 

いまは仕事を受注するときでも、「いただいたお金に見合うものは返さなければならない」と強く思います。それが当事者意識なんです。そういう意識は事業をしていく上で大切だと思いますね。

 

―最後に、浜崎氏は「死なないことが大事」とおっしゃいました。やりたいことがある、実現したいことがある。そのためにも死なないことだというのです。これこそが、究極の当事者意識ではないかと感じとれました。

取材・執筆:里田 実彦

関西学院大学社会学部卒業後、株式会社リクルートへ入社。
その後、ゲーム開発会社を経て、広告制作プロダクションライター/ディレクターに。
独立後、有限会社std代表として、印刷メディア、ウェブメディアを問わず、
数多くのコンテンツ制作、企画に参加。
これまでに経営者やビジネスマン、アスリート、アーティストなど、延べ千人以上への取材実績を持つ。