海外に日本の工芸品の市場を切り拓く。伝統文化と最新技術を組み合わせる。アートの世界ではこれまでにない多岐に渡る事業を展開しているのが、”スタジオ仕組“です。
今回は、刀匠の家に生まれ、美術の道に進んだ社長・河内晋平さんに、デザイナーでもある筆者が、アーティストとしてビジネスを行うことから、国内外のブランディング戦略や最新技術への取り組みについてのお話を伺いました。
前編では、会社設立に至るまでの経緯や想いと、海外マーケットを中心とした事業拡大について、お話をお伺いしました。
「アーティストや職人は稼げない」そんな現状を変えたい。
Q:当初、東京国立博物館にて勤務されていたそうですが、どういった経緯で起業をされたのでしょう?
河内晋平さん(以下、河内):
私は東京国立博物館で博物館にある文化財や工芸品の保護や管理をする部署にいました。国立博物館は公費で運営されていますし、スペースも無限ではありません。そういった中では国宝・重要文化財のように扱えるものに制限があります。ですが、浮世絵の例のように長い年月がたって価値が認められる事もあるのです。そこで、そういったものの保管を民間で行えないかと考えたんです。
私自身も職人なのでわかるのですが、モノが残っていれば時間がかかっていてもそこから技術を読み取れるんです。技術・意匠を後世に伝えるためには如何にちゃんと文化財そのものを残しておけるかが重要。なので、新しい価値付けをしたアートビジネスをしたい、というよりは文化財を残さねばならないという理念が先行している形です。
また、東京国立博物館での公費の中での仕事には不自由な部分を感じていて、自由にやらせてもらえれば既存博物館がリーチできていない世の中のためになる事が自分ならもっとできる!という烏滸がましい思いもありました。補助金に頼るのではなく、自分も含めて多くの人間がアーティストや職人としてビジネス的に成り立つ環境を作りたかったんです。
「アートに関しては他の人にはない知識や経験がある」という武器で経営知識を補う
Q:そこで早速起業されるわけですが、職人から社長ということで、仕事の内容は大きく変わったかと思います。順調に経営はできたのでしょうか?
河内:
もちろん、経営をきちんと学んだことはなくて、最初はわからないことだらけでした。「PL(損益計算書)見せて」と言われて、「わかりました!」と言いながら内心「PL学園?」みたいな状況でしたね(笑)。
その場その場でネットを検索したりなどして頑張ってはいたんですが、職人気質の自分にとってビジネスは大変だということを、会社を始めてから改めて痛感しました。様々なビジネス書を読み漁っても自分とはフィールドが違いすぎるなと。
ですが、同時に周りの素晴らしい人たちに恵まれてもいました。「教えてもらえませんか?」「成功報酬の形でお願いできませんか?」といった感じで、いろんな人に力を貸していただくことで、やってこれたと思っています。少しずつ成長はしていますが、今でも私自身はダメダメですね(笑)。
Q:逆に言うと会社のコンテンツが凄いということでしょうか?
河内:
そうですね!(笑)会社として持っているコンテンツは世界一だと本当に思っています。私に関しても「アートの部分に関しては他の人にはない知識や経験があるという武器がある事で経営の知識を補えていると思います。
本当はやりたくない!?無くなることが目標の経営コンセプトとは
Q:アートの分野ではNPOとして行っている組織も多い中、「稼ぐ」事についてどう考えていますか?
河内:
うちの基本的なコンセプトは「職人やアーティストが活躍できる場所を作る」事で、それ自体はNPOとしてもやれるかもしれません。ですが「自分たちが稼ぐ事」・「市場を広げる事」で、職業として職人を選びやすい環境にしたいんです。アーティストや職人は稼げない。だからなり手が減っていく。それを変えたいんです。夢を見せたいというか、稼げる「仕組み」を作る事が使命だと思っています。
この仕組みが出来上がったら、もう会社は必要ありません。稼げる市場ができたら競合他社も出てくるだろうし、そうなれば出来上がった市場に職人として私も出て行きます。というより、得意ではないので会社もやりたいわけではないです(笑)。職人が生きていくために、やらなければならないから会社を運営しているという感じでしょうか。最終的に弊社のような会社が当たり前にいくつも出てきて、弊社が無くなる事が目標とも言えます。
「市場を広げるという考え方」
アーティストはもっと海外の市場に目を向けるべき。
Q:市場を広げるためにどのような活動をされているのでしょう?
河内:
アートの市場というものは、基本的に西洋美術の文脈で成り立っていて世界中で取引されています。日本の伝統工芸でも一国の小さな市場だけで止まらず、世界に出れば、そこには遥かに大きな市場が眠っているんです。つまり、世界に出る事で市場を広げようとしているのですが、特に日本の美術が未開拓な国、中東やインド、東南アジアといった国で勝負をする事で新たな販路を開拓しようとしています。とりあえず自分たちが進出に成功して、後から他の人にも盛り上げてもらえれば、作家として私自身が進出することもできますしね!
Q:国や地域を選ぶ基準はあったりするのでしょうか?
河内:
ヨーロッパやアメリカは散々開拓されてますし、自分たちが行かなくても良いと思っています。富裕層が多く、日本の美術工芸品の販路が未開拓な地域で挑戦したいですね。そういった点で、ドバイでは2020年に万博が開催されるので美術品への注目が高まっていて面白そうだ、さらにドバイにはインド人が多いので、インドの事も知らなければならないからインドへ行こう。インドへ行ってみると今度はタイやシンガポール・香港から声が掛かったり、といった流れでいろんな国を渡り歩いた結果、たくさんの市場を開拓することができました。
(後編へ続く)
取材・記事作成/松本 遼
京都造形芸術大学卒業後、広告制作会社を経て、2010年よりフリーランス(http://idvl.info)。
デザイナー・アートディレクターとして
雑誌広告・広報ツール・webサイトなどの制作を請け負う。
「uniqlo creative award 2007 佐藤可士和賞」、「読売広告大賞 2010 協賛賞」ほか、多数の賞を受賞。
フリーランスとして多くの企業、個人と関わった経験を生かしライターとしても活動中。
専門家と1時間相談できるサービスOpen Researchを介して、企業の課題を手軽に解決します。業界リサーチから経営相談、新規事業のブレストまで幅広い形の事例を情報発信していきます。