海外に日本の工芸品の市場を切り拓く。伝統文化と最新技術を組み合わせる。アートの世界ではこれまでにない多岐に渡る事業を展開しているのが、”スタジオ仕組“です。

今回は、刀匠の家に生まれ、美術の道に進んだ社長・河内晋平さんに、デザイナーでもある筆者が、アーティストとしてビジネスを行うことから、国内外のブランディング戦略や最新技術への取り組みについてのお話を伺いました。

後編では、スタジオ仕組が手掛けるプロダクトの話をもとに、自分たちのやりたいことをするために、どのような目的意識を持って事業を行っているのかまで、アーティストならではの事業展開について、お話をお聞きしました。

ドバイの人は刀好き?「文化による評価の差」海外戦略でわかったこと
市場があるかどうかだけではない。海外で評価してもらうために

Q:国によって評価は変わってくるのでしょうか?

河内晋平さん(以下、河内):

変わりますね。モノによっても話を聞く熱心さが違います。
例えば、ドバイというのは文化的に鍛冶技術・金属加工へのリスペクトが強い地域で、向こうの美術館にも鍛冶屋の仕事場の再現のコーナーがあったりするんです。うちのキラーコンテンツは日本刀なので、熱心に話を聞いてもらえます。あとは、インドですと現首相のモディさんが日本贔屓で、日本への技術信仰が強いですね。日本刀にしても武器ではあるが実際に使うわけではなく魂として所持している、といった話をガンジーに擬えて評価してもらえたりしました。

そもそも受け入れてもらいやすい所から入っているという側面はありますが、文化的な背景を知った上で共感してもらえる話をしたりもします。金属加工へのリスペクトがあれば、特殊な製造法で表面しか錆びない日本刀の話などはとても喜んでもらえますね。

江戸切子を使ったインタラクティブウィスキーグラス。伝統と最新技術の融合とは

Q:販売の他にも多岐にわたる事業をされていますが、どのような事を考えて選んでいるのでしょうか?

河内:

 「できる事をする」という考え方ですね。内装やプロダクト、展示会のプロデュースなど、いろいろと行っている事はありますが、何か問題を解決するための仕事をいただくというよりは、「できる事」を評価してもらえる先を探すという考え方です。

ありがたいことに様々な依頼をいただくのですが、案件の選び方としては「こういうものを作って欲しい」という話ではなく「好きにしてくれ」や、うちの何かを使わせて欲しいといった案件を選ぶようにしています。
というのも、要望に対して最適解をだすという仕事なら弊社よりも他の会社様の方が良いと思うんです。むしろ弊社はその辺りが不得意なので良いパフォーマンスが出しづらいと思っています。良くも悪くも職人的な考え方で、自分たちを評価してくれる、力が発揮できる仕事を選ぶようにしています。

Q:貴社の特徴として、伝統的な技術を使った表現だけでなく、最新のテクノロジーも使っていますよね。

河内:

そうですね。そもそも私はメディアアートを学んでいる部分もあって、最新の技術の中にもいかに自分たちの強みである伝統技術とのブレンドを行えるかを考えています。

例えば、以前、最新のセンサー技術と江戸切子・彫金を使ったインタラクティブウィスキーグラスの工芸部分の製作をさせてもらってサントリーさんの広告に使ってもらった事がありました。
ただ、私たちは「本質を突く」という事を大切にしていて、「クライアントに対する最適解」とは別の部分に自己評価があります。また、工芸品・技術の市場価値を高める事の目標に反するようであればビジネス的には正解とわかっていても行ないません。最新技術も何に使えば成功するかというよりは、何に使えばおもしろいか、如何に新しい事を提案できるかという点を優先したいですね。

Q:社名の「仕組」はそういった新しい仕組みを作りたいといった考えでつけたのでしょうか?

河内:

そこまで深くは考えていませんでした。「仕組」という社名の由来は「仕事をする組合」というだけの意味なんです。自分たちの特技を使って仕事しようぜと。作家としての自分とビジネスをする自分はまた別です。だから作家としての自分たちとは切り分けて仕事をする組合を作りました。

技術・意匠を売る自分たちにとって、これからの流れは大きなビジネスチャンス

Q:技術により安価に良品が手に入るようになり、また嗜好も多様化してきています。ビジネスとして今後、どう対応していくのでしょう。

河内:

モノを売る上で、私たちは3つのラインにわけて考えています。ひとつは美術品として流通するような非常に高級なもの、ひとつは普段使える高級なもの、そして、もうひとつは通常のプロダクトに自分たちのエッセンスを加えたものです。美術品は別として、他の二つに関しては嗜好が多様化することにより、モノの値段が下がることは好意的に受け止めています。

モノの需要には波のようなものがあって、この流れは確実にオリジナル性への需要が増えることに繋がっていくんです。良いものが簡単に手に入る中で、「自分だけのモノ」にお金を使うようになる。こうした流れは、技術・意匠を売る自分たちにとっては大きなビジネスチャンスだと考えています。

(編集後記)

確かにモノを作る現場では、技術の高まりにより個人のニーズにも対応しやすくなりました。何か一つのブランドが幅を利かせる事も少なくなっているように感じます。流行り廃りの波がある業界では「常に次の波を考える」事が大事なのだと思いました。
しかしながら、「スタジオ仕組」の考え方は「良い波を探しに行こうぜ!」なのだと筆者は感じました。アーティストならではの問題を探しに行く姿勢。ビジネスにもこのアート思考は生きているのではないのでしょうか。

取材・記事作成/松本 遼

【ライター】松本 遼
京都造形芸術大学卒業後、広告制作会社を経て、2010年よりフリーランス(http://idvl.info)。
デザイナー・アートディレクターとして
雑誌広告・広報ツール・webサイトなどの制作を請け負う。
「uniqlo creative award 2007 佐藤可士和賞」、「読売広告大賞 2010 協賛賞」ほか、多数の賞を受賞。
フリーランスとして多くの企業、個人と関わった経験を生かしライターとしても活動中。

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