事業再生で重要な一つにターンアラウンドマネジャー(再生リーダー)の存在があります。たった一人のリーダーの存在が事業再生の成否を分けるといっても過言ではありません。ターンアラウンドマネージャーは、創業経営者やサラリーマン社長とも違う、外から入ってきた「一人の狼と百人の羊」の状態から会社を改革していかなければなりません。

今回は、特に飲食業界にて数々の事業再生を成功させてきた正金氏による連載です。
第2回は、4社の再生をリードしてきた正金さんに、ターンアラウンドのリーダーとして知っておくべき7つのポイントを上げていただきました。

ターンアラウンドマネージャーが知っておくべき7つのポイント

1.折れない心:改革リーダーの「言葉」は、悪意をもって社内に広げられる
2.納得力:改革案を出すにも、まずは意見を消化する時間を与える
3.やってみせ、言って聞かせて、させてみる:大将でありながら、斬り込み隊長の役割も担う
4.企業及び従業員への敬意:従来の従業員を無能呼ばわりしない
5.従業員の「知恵」を活かす:従業員が発言し、行動する仕組みをつくる
6.ブレない戦略:「目先追い」の施策に走らない
7.早い時期の「結果」:疑心暗鬼を減らし、賛同者を増やしていく

それでは上記のポイントについて順にみていきましょう。

1.折れない心:改革リーダーの「言葉」は、悪意をもって社内に広げられる

V字回復への道のりは、特に最初は想像以上に辛い事ばかりです。何故ならば、事業再生のミッションをもって入社した人材は、敵地に降り立ったパラシュート部隊のようなもので、周囲は敵ばかりなのです。

そして、業績の停滞した企業ほど「この会社の常識はビジネス世界の非常識」という言葉が当てはまります。即ち、「理論的な話が通じず、感情論が優先します。」

また、社内で「声の大きい」人ほど改革反対派です。なぜならば、それらの人が改革をリードしていれば業績の停滞は無かったはずですし、そういう人ほど業績低迷のビジネス手法に執着しがちです。即ち、それらの人々にとって「業務改革」というのは自分たちの否定にあたるからです。しかし、これらの人々も「改革」に巻き込むか、少なくとも改革反対派でないようにしなければいけません。

さらには、改革リーダーの「言葉」は、必ず曲解して悪意をもって社内に広げられる、と思って間違いありません。
例えば、ある企業で「販売部長不要論」が社内に根強くあったので、私は販売部長職を失くしてはいけない、というレポートを提出したのに、社内では私が「販売部長職は失くすべき」と言っていた、とまことしやかに広まって定着してしまいました。

他には、外部から来た改革リーダーが何かを言うと「うちの会社は違うのだ」と何度も言われることでしょう。
このような状況の中、最初は自分一人から改革を始めるわけですから、改革をやりぬく「折れない心」を持つことが最重要です。では、改革リーダーが何を拠り所としていたか、というと私の場合は、「改革の結果、会社も社員も喜ぶ」という信念だけだったりします。

一方、自分が逆の立場だったら、と考えたら「反発するのは当たり前」なので、このような反応をされてもあまり気にすることはありません。改革初期段階の改革リーダーとして、「悪者になる覚悟」がまず必要なのです。

2.納得力:改革案を出すにも、まずは意見を消化する時間を与える

ここで伝えたいのは、「説得」ではなく「納得」です。人は、心から「納得」したことでないと動きが鈍ります。なので、従業員を動かそうと思うと、いかに従業員が「心から」この戦略、方向性で間違いないと思ってもらえるかがポイントになります。

そのためには、それまでのやり方、従来のやり方では会社が将来どうなるか、自分たちがどうなってしまうか、について「気付き」を与える事が肝要です。言い換えれば「危機感の共有」ができるか否かです。

この「危機感の共有」のために、私も様々な手法を試しました。効果的なのが、これまでのやり方の未来予想図をグラフ等の視覚で明確に訴えることです。業績が停滞している企業の場合、実はそのことに気付いていても将来から目を背けている場合が大半です、しかし、可視化して訴えられると目を背けるわけにはいきません。

また、私は平行して、ポイントになる各部署のリーダーに1対1で話すことを繰り返しやりました。これは、改革案を発表する前にやることが重要です。なぜかと言うと、人は実は同意できる意見であっても、従来と大きく異なる意見をいきなり「決定事項として」聞かされると反発するものなのです。そうではなく、事前に情報を少しずつ与える事で、自分の中で「意見を消化する時間」ができるのです。

従業員全員に改革案をいきなり納得させる事は不可能です。その場合に、事前に情報を与え消化してくれていたリーダー達が、改革案を発表した時に私の分身として他の人達を「納得」させる作業をしてくれるのです。
また、事前の情報提供でも、1対1で話した時に、それらのリーダーから意見が出てきますし、取り入れられる案を取り入れれば、改革案はその人達の意見にもなります。即ち、改革推進の協力者となってくれるのです。

3.やってみせ、言って聞かせて、させてみる:大将でありながら、斬り込み隊長の役割も担う

しかし、「納得」したからといって、新しい取組みに最初から動ける人は稀です。
まずは、改革リーダーが自ら動いて、どういうものかを見せる、という事が必要です。即ち、大将でありながら、斬り込み隊長の役割も担うのです。大将は後ろでどっしり座ってなければならない、という意見をしばしば聞きましたし、言われもしました。そうでなければ、「全体を俯瞰できない」、もしくは「貫禄を見せなければならない」という事も言われました。
しかし、これらは、私に言わせれば全く持って論外なリーダーシップ論です。

目的は何でしょうか、それは、「戦略をスピード感持って実行し、実績を出す」ことです。それ以外のことはどうでもよいことです。そのためにはどうするのがよいか?私の結論は、自らが「やってみせる」ことです。人は、身近な手本があった方が理解も深まり、行動も早くなります。様々な企業での新規事業、新規戦略の実行の経過もたくさんみてきましたが、これができないと、真っ先に事業、戦略は潰れています。

手本を見せたら、前述の「納得させる」作業をします。そして、「させてみる」。
やはり、自らやってみて体感しないと身につきませんし、自らやることで、自信がつき、且つ「自分が会社を改革している主役の一人だ」というプライドを持つことができるのです。

4.企業及び従業員への敬意:従来の従業員を無能呼ばわりしない

しばしば、外部から来た改革リーダーは、従来の従業員を無能呼ばわりすることがあります。これは改革リーダーが最もやってはいけないことです。0から企業を立ち上げて、規模はどうであれ、かつてはある程度の成功を収めたのですから、無能なわけがありません。うまくいっていないのは、戦略のミス、消費者を始めとした世の中の変化に対応できなかっただけなのです。

従業員が、「無能であるかのような」扱いをうけるとどうなるでしょうか?従業員は萎縮し、業績も悪いのですから余計に自信喪失するだけで、何一つ良い事はありません。このような改革リーダーは従業員を「駒」として扱いますから、従業員の士気は上がらず、思ったような業績を上げる事は非常に難しくなります。

5.従業員の「知恵」を活かす:従業員が発言し、行動する仕組みをつくる

私は、先述したように4社をそれぞれ1年でV字回復させました。これだけの短期間で実績を上げることは当然ながら私一人の力では不可能です。どの企業でも従業員の「知恵」をフルに引き出す工夫が重要なのです。

例えば、私がどの企業でも最初に必ず言う事があります。「私は戦略立案や方向性を示すことはできる。皆は私より、この業界もこの会社も長いはずです。業績が悪くなって、こうした方がいい、と思うこともあるはずです。それを全部吐き出してください」

こういっても、最初は、中々発言しません。ただ、発言し、行動するような「仕組み」を構築していくことはできます。そして、この「仕組み」のポイントは、人事考課に直結させることです。

6.ブレない戦略:「目先追い」の施策に走らない

改革協力者ができて、改革のための戦略を進めた際に、非常に重要なことがあります。
それは、「戦略がぶれない」ことです。
実は、大小関わらず多くの企業で、「企業が復活する戦略」を打ち出しても、雲散霧消してしまいます。何故かというと、目先の1ヶ月、1週間の業績に惑わされて、「目先追い」の施策に走ってしまうからです。何十年も続けてきた業務を方向転換するのですから、1~2ヶ月位では成果は出ません。この期間が改革リーダーにとっても非常に辛い時期です。改革する際にはどんなに「納得」させる作業をしても初期段階では、反対派、様子見派の方が圧倒的に多いです。
それらの人達は必ず言います。「やっぱり上手くいかない」「失敗すると思っていた」「○○は仕事ができない」等々。

私が長くいた外食業界では、毎日、売上高、労働時間等の経営指標が従業員に配信されます。「この方向性で間違いない」と思っていても毎日悪い数値を見るのは非常に辛いです。

また、私が超大手飲料企業で営業所長をしていた時も最初の3ヶ月間は最下位でした。4ヶ月目から営業所の売上高数値が変わってきて、5ヶ月目で5位、6ヶ月目で1位になりましたが。この最初の3ヶ月間、「正金はだめだ」「うちの営業は特殊だから外部の人間には無理だ」という声がガンガン聞こえてきました。辛かったです。

しかし、どの企業でも部下は理解してくれていたので、気持ちも持ちこたえられました。しかし、大半の人はこの時期に挫けてしまいます。

戦略が間違っていなければ、大体3ヶ月目から兆候がでてきて、4~5ヶ月目から数値に顕著に現れます。戦略・方針がぶれると、部下や改革賛同者からの信頼を失い、絶対に成功しません。

7.早い時期の「結果」:疑心暗鬼を減らし、賛同者を増やしていく

大半の人は、新施策に反対か疑心暗鬼ですから、早い時期に何らかの「結果」を出す事が重要です。そして、「結果」を出し続けることです。
一つの「結果」を出す毎に、疑心暗鬼の者は一人減り賛同者が一人増えます。そして、皆が「進むべき道」に確信を持つようになります。

そして、これらをやり抜く事で、暗く意気消沈していた社内に活気が出、皆が積極的に活動するようになります。
これがつまり、「百匹の羊」が「百匹の狼」になる瞬間です。

【専門家】正金 一将
大学卒業後、大手総合商社系事業会社でキャリアをスタート。
2003年に大手回転寿司チェーンへ転職し、
取締役に就任した1年目に22億円の経常利益増加を達成。
その後、大手外資系飲料メーカー、大手持ち帰り弁当フランチャイズ、大手寿司販売店など
飲食業界の事業再生請負人として目覚ましい改善実績を上げる。
2015年より顧問、コンサルタントとして活躍。会社設立予定。
ノマドジャーナル編集部
専門家と1時間相談できるサービスOpen Researchを介して、企業の課題を手軽に解決します。業界リサーチから経営相談、新規事業のブレストまで幅広い形の事例を情報発信していきます。