飲食業界にて数々の事業再生を成功させてきた、正金氏による連載の第9回目は商品戦略の2回目となります。
繰り返しになりますが、企業にとって、最も良い商品というのは、消費者に人気が高く、原価率が低く、かつ店舗オペレーションも安易な商品です。商品開発部門の一番の使命は、このような商品を開発することです。しかしそうは言っても、なかなか開発できるものではありません。
一方、企業P/Lで一番比率の高い勘定科目は、仕入原価です。仕入原価を低減させながら、人気の高い商品を開発するにはどうすればよいか。必須になるのは商品マトリックスですが、前提として原価の話から始めます。
1.商品原価
信じられないかもしれませんが、原価計算を誤っている有名企業もかなりの数が存在します。私がこれまでに深く関係した大手フードサービス企業4社のうち2社では原価計算の誤りが起こっていました。なお、その内の1社では、私が入社する前年のおせち販売で、10億円販売して2千万円の赤字を出していましたが、要因は原価計算の誤りでした。また、もう1社では、誤った原価計算で長年の間、商品開発をしていました。従って、企業P/Lが滅茶苦茶になったまま長年放置されていました。ここでは、よくある誤りを2つ紹介します。
■食材歩留りの誤り
フードサービス業界でよくあるのが、食材歩留りの誤りです。
①初歩的なのは、歩留りを考慮していないケース
②次に、過去に歩留り計算をしていたが、それが間違っているケース
③商品開発部門で試算した歩留りと、現場で実行した際に誤差があるケース
これらの誤りを防ぐには、定期的に歩留り計算のやり直しをする必要があります。
また商品開発部門は、現場である店舗へ行き、実際の業務中にはどのように食材処理がされているかをチェックし、現場にあった歩留り計算をする必要があります。本社の開発室で試作するのと、現場の時間に追われた中で調理するのでは違いますから。
■仕入価格の変動
次によくあるのが、仕入れ食材の価格が変動しているのに、商品に反映されていないことです。これらのチェック機能は万全に整える必要があります。長年、原価が正しいか否かのチェックをしていない企業もあると思いますので、この機会にぜひ、チェックしてください。
これを防ぐには、購買部門で仕入原価を書換えたら自動的に、商品開発部門が数値を使えるような仕組みにすることです。
2.商品原価と店舗オペレーション
購買部門、商品開発部門が自らの部門の業績しか考えていないと、店舗に負担が掛かり、店舗人件費が増大してしまいます。通常、企業P/L、店舗P/Lでは、仕入原価と人件費は別勘定科目になっているので、このようなことが起こってしまう可能性があるのです。
これを防ぐには、別の管理会計的な商品原価P/Lを作成します。(ここでは、店舗製造時間を考慮します。)たとえば、ある商品を店舗で20個製造するのに、1時間掛かるとします。
時給が1000円だとしたら、製造人件費が50円/個となります。それを食材原価に上乗せし、商品毎に比較するのです。
ただしこの指標はあくまで、ある商品を店舗でそこまで手間を掛けさせる意味があるか否かを判断するためのもので、それ以外の目的で使うと魅力のない商品群になる可能性があるので取扱いには注意が必要です。
3.商品マトリックス
たとえば、下記のような商品構成、原価率になっていた場合、どのようにして原価率30%に落とせばよいでしょうか。(わかり易くするために各商品の売価は同じとします)
上記の表を見ると、Aがスター商品で、BとCが人気商品であることがわかります。この場合、商品設計を大きく変更することは、リスクが大きくなります。しかし、質を落とさず原価率を落とすことができれば、全体へのインパクトは大きくなります。従って、商品開発部としては質を落とさず、副菜等で原価率を落とせないかを工夫することになります。
ここで、一番活躍しなければならないのは購買部です。この場合、A、B、C各々3%ずつ原価率を落とすことを目標に活動します。D、Eに関しても同様です。
次に、F、Gに関しては、原価率が高く人気も薄いので、同じカテゴリーだが原価率が25%で同等以上の人気を取れる商品を新たに開発します。Hに関しても、原価率が20%で同等以上の人気を取れる商品を開発します。ここまでだと原価率は31.5%で、まだ目標原価率30%を達成できていません。
商品開発部としては、原価率20%で売上構成比10%以上になる商品開発が使命となります。
ここまで書いてしまうと、「そんなことができるのか、机上の空論じゃないか」と思う人がいるかもしれません。そう思う方は、皆さんの会社の購買部門、商品開発部門が戦略的にやれているかどうか、確認してみてください。
4.部門間の調整
これまで見てきたように、商品開発部門と購買部門は密接な関係があります。ですが、両部門が横の並列な関係のままでは調整が円滑に進みません。組織のタコツボに陥ってしまう可能性が大きいのです。そのため、必ず、両部門の上位職位者や上位部門を設ける必要があります。そして、この上位に当たる人、または部門が、全体を俯瞰して判断、方針決定をします。
では、営業部門から商品開発部門に対して、要求や文句がきた場合はどうすれば良いのでしょうか。その際は、明確なデータ、数値、状況を基に、説明できなければなりません。営業部門の要求を、原則としてすべて受入れるのが仕事と勘違いしているケースをしばしば見ますが、独自の戦略を基本に語れなければなりません。
また、営業部門からの要求で、注意しなければならないのは、データに基づいた要求か否かです。よくあるのが、「声の大きい」人の意見を検証せずにそのまま聞いてしまうことです。
声と言えば、「お客様の声」にも要注意です。現場で直接お客様から聞くと、1人の特殊意見なのに、10人分の意見に聞こえたりします。一方、10人の意見を1人が代弁していることもあります。「お客様の声」は鵜呑みにせず、十分な検証をすることが必要です。
大学卒業後、大手総合商社系事業会社でキャリアをスタート。
2003年に大手回転寿司チェーンへ転職し、
取締役に就任した1年目に22億円の経常利益増加を達成。
その後、大手外資系飲料メーカー、大手持ち帰り弁当フランチャイズ、大手寿司販売店など
飲食業界の事業再生請負人として目覚ましい改善実績を上げる。
2015年より顧問、コンサルタントとして活躍。会社設立予定。
専門家と1時間相談できるサービスOpen Researchを介して、企業の課題を手軽に解決します。業界リサーチから経営相談、新規事業のブレストまで幅広い形の事例を情報発信していきます。