飲食業界にて数々の事業再生を成功させてきた、正金氏による連載の第8回目。今回からは2回に渡り、商品戦略について考えていきます。前回の購買戦略と同じくらい重要な戦略となりますので、自社や他社のシミュレーションをしながら、読み進めていただければと思います。

ただ、美味しい商品を開発・提供すればよい、という単純な話ではなく、売上・利益・店舗オペレーションの簡素化等のバランスを考慮して開発しなければなりません。

企業にとって究極の良い商品は、人気商品だが、利益率が高く店舗オペレーションも楽な商品です。そのような商品を抱えていると、非常に経営が楽ですし、大量出店もし易いです。ですがこうした商品を生み出すには、様々な工夫が必要となります。また、競合店が必ずでてきますので、常に新商品の開発及び既存商品を磨いていくことが、この部門には求められます。

1.スター商品

現在持っていないとしても、スター商品の開発を追及し続けることが大事です。上述したような商品がベストですが、利益率が低かろうが、「この店にいかねば、◯◯という商品は食べられない」というものが必要です。
しかし、ここで誤りがちなのは、「他社は当社商品をマネできないし、もっと価値のある商品は開発できない」と思い込んでしまうことです。名前は挙げませんが、複数の有名企業がこのような考えで足元を掬われ、数年来業績が低迷しています。

2.こだわり

多くの企業が商品に「こだわり」を持っています。企業はそうでなければなりません。しかし、果たしてその「こだわり」が現在こだわる価値のあるものか、陳腐化していないか、他で代替できるものか等は、常に自問自答しなければなりません。「こだわり」を持ち続けたために破綻した企業は、フードサービス業に限らず多々あります。

歴史的に見れば、第二次世界大戦時の日本の「大鑑巨砲(たいかんきょほう)主義」が、いい例でしょう。自ら真珠湾攻撃やマレー沖海戦で航空攻撃の優位性及び「大鑑巨砲主義」は遅れていることを証明しながら、「大和」「武蔵」を主軸にした戦艦対決にこだわって、大敗北を喫してしまいした。

一方、「こだわり」を捨てることで日露戦争勝利の立役者の一人になった人もいます。
秋山好古は、日本騎兵隊の創設者でフランス留学してまで研究した軍人で、当然、騎兵隊に対して強い愛着や「こだわり」がありました。しかし、日露戦争のキーポイントの一つの戦いの黒溝台の戦いでは、その「こだわり」の馬を捨て、機関砲を中心とした戦いに変更したのです。どんなに苦労して磨いた「武器」でも競合相手や消費者に合わなければ潔く捨てる。この判断こそ、我々に必要なものです。

しかし多くの企業では、この思い切りができないか、または判断を誤ってしまいます。  たとえば、できたてにこだわっていた大手弁当企業では、そのことが原因で、ある時間帯の顧客をごっそり失くしました。オフィスで働いている人の昼休みは通常1時間しかなく、その時間帯で買って帰社して食べなければなりません。それなのに、注文してから弁当を製造するので時間が掛かりすぎ、この客層が来店しなくなってしまったのです。

また、ある大手寿司企業では、店舗への食材を運送会社から店舗の人への「手渡し」にこだわっていました。配送順序で店舗のピーク時に「手渡し」することが当然あります。すると、商品を冷蔵庫・冷凍庫へしまい忘れられるということがしばしば起こります。その結果、この企業は毎年食中毒を出してしまっています。

さらに別の例を挙げると、ある有名企業では◯◯産の食材しか使わないと宣言していました。その後、病気のせいで〇〇産の食材が使えなくなったことがあったのですが、他の産地の食材を使わず、その看板商品を販売停止にしてしまったのです。その結果、倒産寸前にまでなり、10年以上業績が回復していません。販売停止にしている間に競合企業へ消費者が流れ、定着してしまったのです。

3.価格

商品開発をする際、まずは価格から決めなければなりません。消費者目線で見ると、「この店・商品ならば◯◯◯円位が妥当な値段」という知覚価格というものがあります。その価格帯よりも高い価格では良い商品でも手を出す消費者は少ないです。また、消費者にはそれぞれ予算もあります。この2つを無視して価格を決めるのは無謀ともいえる行為です。
しかし、この消費者心理を判っていないのではないかと思わざるを得ない価格設定をしばしば見ます。「これだけ良い素材で、美味な商品だから◯◯◯円位で消費者は喜んで食べるだろう」と思ってしまうわけですね。積み上げ方式で商品開発すると、このようになりがちです。

では、どのように価格を決めたらいいのでしょうか。自分たちの店舗の消費者の知覚価格帯はどれ位かを見極めた上で、商品設計をすることが重要です。また、この際、購買部門に対して「この商材は〇〇円以内で仕入れてくれ」と依頼します。どうしても無理だったら、商品設計を変更する、という作業を繰り返します。あくまでも知覚価格帯に収まる価格で商品を開発しなければならないのです。

なお、数年前からマスメディアでは「価格の二極化」ということが言われています。たしかに、高価格帯の商品が売れることは以前より増えたかもしれませんが(それ以前がどん底でしたから)、データに現れているでしょうか?また、自分の店舗で高価格帯の商品が売れるでしょうか?冷静に多角的に分析してください。マスメディアが取り上げるのはニュースとしてインパクトがあるか否かで、データとしての実体とは必ずしも一致しません。

4.ABC分析

商品毎のABC分析(売上高の高い順番にデータを並べること)をしている企業は多いと思いますが、気をつけなければならない点があります。商品全体でのABC分析だけで、商品の改廃を決めてしまうことです。これをやってしまうと、商品の品揃えに偏りがでてしまい、バラエティ感がなくなります。

たとえば、売上高の2%しか構成していない商品であっても、代替品がない5アイテムを削除したら消費者は選ぶ商品がないので、単純に言えば売上高は10%落ちてしまいます。そのため、ABC分析をする際には、カテゴリー毎にやらなければなりません。前提として、カテゴリー毎のアイテム数は決めておく必要があります。

5.カテゴリー毎に商品数を決める

時間が経過すると商品の数が増えがちです。また、商品数は多ければ多いほど消費者の選択肢が増えて良いことだ、という意見もよく聞きます。
しかし、全体数及びカテゴリー毎の商品数を決めておかないと、在庫日数、廃棄率、在庫スペースの増加を招き、かつ店舗オペレーションの煩雑化、労働時間の増加を引き起こします。さらにその結果、売上高がそれほど伸びず、利益率は低下し、店舗が疲弊するだけの企業になってしまうのです。

多くの人が経験したことがあると思いますが、よく行く店でメニューを見ても、結局食べるのはいつもと同じ。量だって、それほど多くは食べられません。要は胃袋は一つということです。そうは言っても、絶対的な人気・売上を誇る単品メニューがないのであれば、消費者に「選ぶ楽しさ」を提供する必要はあります。

どの程度の商品アイテム数がよいかは、業態、企業によって一概に言えませんが、メリット、デメリットを考慮した上でアイテム数は決めるべきです。つまり、「商品アイテムは多ければ多いほど良い」という思考は、企業経営的には誤っている、ということです。

6.新鮮味を演出する

鉄板の商品があるとしても、「新しさ」を演出する必要があります。人間は本能的に新しいものに魅かれますから。
日本にはせっかく、春夏秋冬がありますので、これに合わせた商品開発、及び様々なイベント向けの季節商品等は多くの企業がやっていますが、これは原則としてやらなければならないでしょう。ただし、味がよくなければなりませんが。

7.試食

各社とも商品を開発したら、社内で試食をして商品を採用するか否か決定します。しかし、得てして「声の大きな人」の意見が通ってしまうことが問題です。
試食会の際は、社員が追従しやすい社長や営業統括者等々に、意見(美味だ、不味いも含め)をさせないことが肝心です。こうなると商品が良いか否か一人の意見で決まってしまう可能性が高く、その一人が消費者目線で正しい判断をできているとは限らないからです。

ここでも具体例を挙げてみましょう。ある大手スーパーでは、会長の味覚・感覚が一般消費者とズレていると大半の社員が感じた結果、その会長が行く2店舗だけ味を変え、他の数百店舗には違う商品を出していました。

また、私が大阪の企業に在籍していた時のことです。会長が「この味は薄い」「これは臭みがある」等々を最初に意見した後、各社員に意見を求めたところ、全員が同じことを言っていました。ちなみに、試食会が終わり散会した後に個々人に聞くと、違う意見を持っていました。

そのような状況でしたので、ある試食会で会長が「味が薄いなぁ」と言った時、私はすかさず「会長と私は関東人だから薄く感じますが、関西人には丁度良いのですよ」と言いました。
室内に緊張が走るのがよく判りました。ですが、この会長の凄いところは、次の試食会からは、最初には一切意見を言わなくなり、皆の意見が出尽くした後で言うようになったところです。なかなか、このような対応ができるトップは少ないものです。
なお試食会では、フォーマットを作成し、5点満点で各項目に点数をつけてもらう手法が、経験上は一番いいです。

8.商品の決定

このような試食会で、高得点の商品のみ投入すればよいわけではありません。たとえ点数があまり高くなくても、戦略的な意図のある商品の投入をすることはあります。

【専門家】正金 一将
大学卒業後、大手総合商社系事業会社でキャリアをスタート。
2003年に大手回転寿司チェーンへ転職し、
取締役に就任した1年目に22億円の経常利益増加を達成。
その後、大手外資系飲料メーカー、大手持ち帰り弁当フランチャイズ、大手寿司販売店など
飲食業界の事業再生請負人として目覚ましい改善実績を上げる。
2015年より顧問、コンサルタントとして活躍。会社設立予定。
ノマドジャーナル編集部
専門家と1時間相談できるサービスOpen Researchを介して、企業の課題を手軽に解決します。業界リサーチから経営相談、新規事業のブレストまで幅広い形の事例を情報発信していきます。