飲食業界にて数々の事業再生を成功させてきた、正金氏による連載の第4回目。今回は、フードサービスの業態ごとの課題と、それを踏まえた上でどのような戦略や対策を取るべきかについてです。

フードサービス業といっても、業種は多岐にわたり、それぞれ違った課題があります。前提として忘れてはならないことは「胃袋は一つ」ということです。どういうことかと言うと、同業態他社だけでなく、異業態やコンビニ、スーパー等もライバルだと認識する必要があるということです。
以下、主要な業態・戦略の課題と方向性について詳細をご説明していきます。

1.フランチャイズ本部

数年前から旧来型のフランチャイズ形式では、相当強いブランド力がないと、加盟者が集まりにくくなってきています。そこで現在では、経営委託型をはじめとした様々な形のフランチャイズが生まれています。

この形態での課題は、コンビニでクローズアップされましたが、独禁法により、加盟店は必ずしも食材をフランチャイズ本部から購買しなくてもいいことにあります。
極端なことを言うと、フードサービス業の場合、食材は市中から揃えようと思えばすべて揃えることができてしまいます。従ってフランチャイズ本部は、価格・質とも他では入手できない魅力的な食材を提供しなければなりません。また当然ですが、店舗経営のノウハウ、指導も随時していかねばなりません。このようにさまざまな施策を通して、他フランチャイズチェーンとは差別化することで加盟店を増やすことができるのです。しかしながら現実は、提供食材で手を抜いたり、店舗指導の人員を減らすなど、目先の利益に走ってしまうことが多く見受けられます。

また、いかに加盟店から「金を巻き上げるか」ばかりに知恵を絞り、様々な器具を売りつけたり、締め付ける事に注力するケースもしばしば目にします。
フランチャイズ本部は、絶対に目先の本部利益に走らず、「加盟店が潤ったら本部も潤う」という視点をもとに、既存の商品を磨き続け、魅力的な新商品を開発し、加盟店が潤う「仕組み」の構築を使命として運営しなければなりません。これを怠ってしまうと、食材導入率落込みによる本部からの食材売上高の減少、新規加盟店が集まらない、加盟店離反、訴訟等により、中長期的には必ず衰退します。

2.高客単価業態

客単価が3000円以上の高客単価業態では、致命的な勘違いをしているケースをしばしば見かけます。どういうことかというと、「標準化」「コストコントロール」「仕入れ」が甘い、ということです。

この業態では店舗での調理工程が多いですが、それを理由に店舗の調理人に「お任せ」になりすぎてしまっているのです。そのため、調理工程の「標準化」が徹底されず、チェーン店に拘わらず店舗によって味などにバラツキがでてしまい、食材ロス管理も疎かになってしまいます。また、いわゆる「料理長」に食材発注を任せている場合もよく見かけます。上に管理者がいないことで「不正」の温床となり、さらなるデメリットとして、企業の利益の根幹を成す「仕入れ原価」の低減を進めることもできません。

では、誰が仕入をするのが一番いいのでしょうか?本来、どの商品にどの商材をどれだけ使うかは判っているのですから、本部で食材調達等をマネジメントできるはずです。それを店舗任せの発注にすると、「品切れ」を最も恐れるので、ほぼ100%発注過多になってしまうのです。

ここで実例をお話しましょう。私が、ある企業の中京地区の店舗を統括していた時のことです。最初は店舗毎の発注でしたが、あまりに食材廃棄率が高いので、全店舗の日々の発注量を私が決めたことがあります。店舗からの反発は凄かったですが、「とにかく1ヶ月間、私が決めた通りにやってくれ」と言い、強引に実行しました。その結果、食材廃棄率は17%下落(25%→8%)、さらにその1年後には4%まで下落しました(様々な理由で、元々が異常に高かったのですが)。

また、ホールの人員配置に関しても、無駄があるはずです。そこでまずは、作業を10秒又は1分単位で分解して、組み立て直しをしてみることをオススメします。その結果、いわゆる「遊びの時間」を考慮しても大半の企業では多すぎるという事実が出てくるでしょう。実はこれは、厨房に関しても言えることです。厨房での無駄を省くにはどうしたらいいかというと、道具の配置等を明確にし、究極は一歩も動かずに調理作業ができることです。現実的には困難ですが、極力そうなるような配置にすべきです。

私から見れば、フードサービス業界の99%は「仕入れ体制」が甘いですが、この業態では、特に「客単価が高いから」と余計に甘くなりがちです。目安として、経常利益10%(店舗ベースでなく、企業ベース)以上でなければ、上述したどこかに問題があるという仮説が成立ちます。

3.居酒屋業態

この業態では年々、市場規模が縮小しています。今後もこの傾向が続くことを前提に企業戦略を練り直す必要があります。
具体的には、新興の居酒屋で勢いのある企業をベンチマークに研究して、既存の体制の大幅見直しをしてみてください。

ただし、他企業を分析する際に気を付けなければならないことがあります。それは、企業全体の売上高の伸びを見るのではなく、既存店売上高の推移をみるということです。フードサービス業は出店すれば、自動的に企業全体の売上高は上がります。しかし、消費者に支持されているかを見るには既存店の売上高の推移を見なければなりません。そうしないと、最初はいいけれど直ぐに消費者離れがしている企業かどうかの判断がつかないからです。
その上で、自社の強みのある「経営資源」は何かを客観的かつ詳細に分析し、それを基に新業態の開発を行うことが必要となります。

4.セットメニュー

様々な業態で、「セットメニュー」を販売しています。客数が伸びないと、客単価を上げようとして「セットメニュー」に走りがちですが、果たして、それで業績が向上した企業がどれだけあるでしょうか。実は、ほとんどありません。

これは、消費者心理を理解していないことで起こる戦略ミスです(そうするしか仕方のない企業もありますが)。セットにして、全部食べたい物または消費者が「お得感」を感じる品揃えならば問題がありません。しかし、みなさんの経験上でも、食べたくない物が入っている場合がほとんどなのではないでしょうか。

そこで参考にしてほしいのが、外食不況と言われる中で、いまだに回転寿司業界が好調なのかということです。理由はいくつかありますが、「食べたい物だけを好きな量、自分が主導権をもって選べる」ということが一番です。たとえ予算オーバーしてしまっても、自分の好きなものを食べれれば消費者は自己責任だと思いますが、セットメニューでそんなに食べたくない物が入っていると「店から押し付けられて」「高い」と感じてしまうのです。すなわち、「あの店は価格が高い」というイメージを逆に植えつけてしまうことになるのです。

店舗の売上高は、客単価X客数で決まります。セットメニューを導入することで客単価が上がっても客数が伸びず、店舗売上高が伸びないのであれば、意味がないどころか逆効果になってしまいます。このように客単価を上げる事を第一義に考えると、目先は売上高が上がったとしても、中長期的には客数が減少し、店舗売上高は減少していきます。セットメニューの導入には、将来どうなるかの予測をした上で実施することが肝要です。

5.24時間営業

バブル崩壊後の長引く消費不況の中で、売上高減少の解決策の一つとして24時間営業がスーパー・外食の中で広がりました。私も24時間営業の店舗統括を経験しましたが、12時間営業するより24時間営業した方が売上高が上がるのは当たり前です。
しかし、利益は増加したでしょうか。管轄していた約40店舗の中で、人件費・水光熱費等を勘案すると、その時間帯で赤字になっていないのはなんと、たったの1店舗のみ。つまり売上高は上がったものの、利益には繋がっていなかったのです。

実は、24時間営業で利益の出る業態・立地は限られます。24時間営業は従業員にかなりな負担を掛けますし、深夜はトラブルの件数も日中より増えます。このような様々なデメリットを考慮しても利益が出るならば検討の価値がありますが、赤字なのに継続する意味はありません。

それにもかかわらず、24時間営業をやめないのはなぜなのでしょうか。理由の一つは、人件費・水光熱費等の24時間営業による経費と売上高の比較で利益が出ているかの精査をしていないからです。二つ目は恐らく「売上高増加が目的」になっているからです。売上高はあくまでも「利益増加目的」のための手段です。そのことを忘れてしまい、数字が上がったという事実だけを見ていては、いつまでたっても効果がないことに気づかないのも無理はありません。

【専門家】正金 一将
大学卒業後、大手総合商社系事業会社でキャリアをスタート。
2003年に大手回転寿司チェーンへ転職し、
取締役に就任した1年目に22億円の経常利益増加を達成。
その後、大手外資系飲料メーカー、大手持ち帰り弁当フランチャイズ、大手寿司販売店など
飲食業界の事業再生請負人として目覚ましい改善実績を上げる。
2015年より顧問、コンサルタントとして活躍。会社設立予定。
ノマドジャーナル編集部
専門家と1時間相談できるサービスOpen Researchを介して、企業の課題を手軽に解決します。業界リサーチから経営相談、新規事業のブレストまで幅広い形の事例を情報発信していきます。