飲食業界にて数々の事業再生を成功させてきた、正金氏による連載の第7回目。6回目では、購買戦略を考える上での前段階として、購買部門の使命・役割と、問題点について見ていきました。今回はいよいよ、具体的な購買戦略について解説していきます。

戦略を実行に移す前にまずやっていただきたいのが、企業として、購買部門を経常利益を稼ぐ部門と位置づけ、社内でコンセンサスを取ることです。また、購買といえば、せいぜい相見積りをとるだけが仕事と思っている人も多く見ます。相見積りは初歩中の初歩で、これ以外に仕入れコストを下げる手法は多々あります。以下に挙げる9つの戦略を、ぜひ試してみてください。

1.仕入先は上流から

フードサービスの場合、
漁港・牧場・田畑 → OEMメーカー → 加工メーカー → 商社・問屋 →自社
という順番で食材が流通しています。加工メーカーに関しては2〜3社、商社・問屋に関しては、多い場合は3〜4社を流通する場合もあります。
当然ですが、仕入れる流通経路で何社も間にはいれば各々の企業でマージンを取りますから仕入れコストは上昇します。当然、なるべく商流の上流から仕入れればそれだけ安く仕入れることができます。

しかし現実は、前稿(攻めの購買戦略①~購買部門の重要性と現状)でお伝えしたように、新商品、新食材を使おうとしたら、99%の企業は既存の取引先に依頼します。たとえ、その商社・問屋が、今まで取扱った事のない商材でも、親しい企業から仕入れようとするのです。

本来は、いくら親しい企業とはいってもどのようなルートを持っているか判りませんから、調査しながら、同時に自らでも探します。現在はインターネットが発達していて非常に情報を得やすくなっていますので、難しいことではありません。
集めた情報を元に、次は可能な限り、自らの足で上流の企業を見つけ出し交渉すべきです。 ここで、絶対にやってはならない事は、既に商社・問屋等と取引があるのに、その企業を抜いてメーカー等と取引することです。これをやったら、一挙に業界内での信用を失くします。

私は、以前在籍していた会社で使用している消耗品50kgを持参して一人で上海、広州の交易会に1週間ずつ行き、中国企業30社と交渉し、18社から直接輸入しました。中国でもミニ商社、問屋がありますが、メーカーのみを対象としました。その結果、年間約25億円掛かっていた消耗品コストを7億円超(約30%)削減できました。
実は、もっと削減することも可能でしたが、20%以上削減できる商品に限定しました。なぜならば、為替変動や中国内の税金・物価上昇があっても従来の調達先よりコスト削減効果が消滅することがないようにです。

また、私が注力していたのは、OEMメーカーから直接仕入れることでした。大手メーカーでも、OEM企業と各々取引があります。そこから仕入れれば、同質の商品をかなり安く仕入れることができます。

なるべく上流から、と言っても、自ら農業・養殖場・牧場を経営することはお薦めしません。天候・鶏インフルエンザ・狂牛病等のリスクが高く、自社で使えきれない商品、自社で扱えない部位の流通先の確保もしなければならないためです。
もう一つの注意点は、メーカーよりも商社から仕入れた方が安いケースがあるということです。仕入れ量は商社の方が多いので、たとえばメーカーから商社へ100円で卸した場合には、メーカーからの直接仕入れ価格が130円になり、商社経由だと120円になるようなケースがあります。

2.新規取引先開拓活動

できるだけ商流の上流から商品を仕入れた方がよいわけですから、既存の取引先に限らず、常に自ら商材を探し回らねばなりません。このような活動をしていると、安く仕入れることができるだけでなく、既存取引先へのけん制にもなります。どういうわけか「我が社と取引できなければ、店舗運営もできないだろう」と勘違いしている取引先が存在するので、ライバルの存在が有効な手段になるのです。

この場合、単なるハッタリではいけません。こちらの取引条件を受入れてもらえない場合は本気で取引先を切替える準備をしなければなりません。私は、ハッタリを一度も使った事がなく、必ず切替えてもいいような交渉を他社とした上で、再度既存取引先にチャンスを与えました。私が言っていることは「どうせハッタリだろう」と強気に出て、私から取引を打ち切られた企業は多数あります。

私自身は、地方出張した際は、必ず朝4〜5時には市場へ行き、デバ地下、スーパー等を視察するようにしています。そして、面白そうな商材を見つけたら製造メーカーと直接コンタクトを取るのです。
大手・中堅企業になると、展示会へ行っても知合いの企業に挨拶する程度の人をよく見ますが、私の経験だけでも、展示会で発掘した商材で大ヒットしたものがいくつもあります。

さらに、私は取引先を発掘するのに取引銀行をよく使いました。銀行からの紹介であれば信用できますし、銀行にはあらゆる企業の情報が集まっていますから。銀行は、金を調達するだけの企業ではありません。金利を取られているのですから、もっと有効に活用すべきですね。

3.出張したら仕入れ価格を下げる

国内外を問わず、仕入先の工場は価格ダウンの”種”の宝庫です。

私は、しばしば仕入先工場を効率化及び、コスト削減するための施策を打っていました。たとえば、熊本の農家で原油高のためコストが増えると聞いた時は、もっと安い重油を提供できる石油卸会社を紹介し、コスト削減の半分を仕入れ価格へ反映させてもらいました。
また、物流費が高いと聞けば、私が物流会社と交渉したり、別の物流会社を紹介したりしました。このときは、30%減を仕入れ価格へ反映してもらうことができました。

また、仕入先工場で端材を捨てている場合には、その端材も購入することで、仕入れ価格を下げました。そして、その端材を他企業に持ち込んで違う商品に加工してもらうのです。もうひとつ例を挙げると、コスト削減のケースではないですが、どうしても取扱いたい商品があり、工場を見たら衛生面で不合格でしたので、3ヶ月間社員を定期的に派遣して衛生改善させたりしたこともあります。
このように、仕入先にも常にコスト削減の意識を持ってもらうのが、出張の大きな趣旨の一つです。

4.契約の遵守

サプライヤーにとって、最もリスクと感じるのが、約束した商品数量、契約した商品数量を「売れないから」という理由で、削減されたり、カットされることです。
どんなに売れなくても契約数量は必ず引き取るように、大手回転寿司時代に切り替えことがあるのですが、そうしたら約10%仕入れ価格が落ちました。どういうことかと聞いてみると、それまで、リスク料を価格に上積みしていた、とのことでした。

5.サプライヤーマネジメント

目先の仕入れ価格が高い、安いというだけでサプライヤーを判断すると、中長期的には大きなマイナスになります。そこで有効なのが、サプライヤーによって取り組み方を変えることです。

その際に、考慮すべき事項の代表的なものは下記の通りです。
*OEM企業か
*質の高い商品を製造しているか
*価格が安いか又製造コストを下げる努力を継続しているか
*商品開発に力をいれているか
*衛生管理に注力しているか  
*安定供給できるか  等々
*忘れてはいけないのは、サプライヤーにとって、自社が重視されているか否か

上記を参考に、自社がどの項目に重点をおくかを含め数値化してサプライヤー政策の序列をつけて判断をしていきます。

なお、企業の主力商品に関しては、できれば3~4社にわけて購買(無理ならば2社)にするべきです。そうしないと、サプライヤーのコントロール下におかれることになりますし、何かのトラブルがあった時に供給がストップすることを意味するからです。

ひとつ事例を挙げると、サーモンの購買において、ある企業が品質も価格も優位性のある商品を提案してきたことがありましたが、同社のシェアを30%までに制限するため、4社に分散させていたことがあります。(同社としては、50%のシェア獲得が目標だったようですが)
また、サプライヤーの売上高が私の在籍企業で30%以下になるように、という要請もしていました。なぜならば、もし私の在籍企業との取引が0になったら破綻の憂き目をみてしまうからです。(一方で、政策的に相手先企業のシェア50%以上にもっていく事もしましたが。)

6.全体最適

購買部門が、部分最適に走ると品質が落ちて売上高減少を招いたり、店舗オペレーションを増加させ人件費の高騰を招いたりします。こうした状況を避けるためには、常に、仕入れ価格と品質、店舗オペレーションの軽減とのバランスを考慮した購買をしなければなりません。

また、商品開発部、店舗運営部からクレームがついた場合は、数値で仕入れ理由を説明できるようにしておく必要があります。(前提として、これらの両部門も全体最適の考え方を持っておかなければなりませんが)

7.集中購買

これまでに説明してきた1〜6のことができて、初めて「経常利益を稼ぐ」購買部門といえます。そう考えると、店舗で使えない人材を購買部門に充てるといった配置はできないはずです。また、様々な知識、テクニックが必要なことも理解していただけたのではないかと思います。
従って、商品開発部が購買業務を兼任するとか、店長・料理長達が購買をする、ということはあり得ないのです。

購買部門には優秀な人材を集めて、購買業務に集中してもらう。その上で、調達先や購入品目をひとつの窓口に集約する集中購買をすることで、スケールメリットをだすことができます。

8.購買部門に適した人材

これまで購買戦略を見てきましたが、おのずと購買部門に適した人材についてわかってきたかと思います。
色々な要件がありますが、主な要件は以下の通りです。
*傲慢でない
*倫理観がある 
*全体を俯瞰できる
*フットワークが軽い
*戦略眼を持っている*バランス感覚
*数値に強い

最後に、繰り返しになりますが、購買部門は、「買う」ので立場が強いため、サプライヤーに対して傲慢に「上から目線」になる人をよく見掛けます。これは絶対に戒めるべきで、そのようなことをした人、企業はサプライヤーから必ず手痛いしっぺ返しを食らっています。

9.価格交渉は購買部門だけの責任か

実は、サプライヤーの視点から見る必要があります。
企業規模が小さくても成長する可能性があれば、サプライヤーは良い条件で提案してくれますが、企業規模が現在は大きくても凋落傾向にあれば、サプライヤーからの条件は段々悪くなります。 企業が成長し続ける事が価格交渉等で大きな要因になります。

【専門家】正金 一将
大学卒業後、大手総合商社系事業会社でキャリアをスタート。
2003年に大手回転寿司チェーンへ転職し、
取締役に就任した1年目に22億円の経常利益増加を達成。
その後、大手外資系飲料メーカー、大手持ち帰り弁当フランチャイズ、大手寿司販売店など
飲食業界の事業再生請負人として目覚ましい改善実績を上げる。
2015年より顧問、コンサルタントとして活躍。会社設立予定。
ノマドジャーナル編集部
専門家と1時間相談できるサービスOpen Researchを介して、企業の課題を手軽に解決します。業界リサーチから経営相談、新規事業のブレストまで幅広い形の事例を情報発信していきます。