仕事として不人気で採用ができない、離職率が高く人材が定着しないなど、人材不足に喘ぐサービス産業。従来のように「お客さまが来ないから」ではなく、「従業員がいないから」といった理由で閉店に追い込まれている店も少なくない。
マクドナルドを始めとした外食チェーン店の24時間営業廃止はこうした状況に対する苦渋の選択の結果だが、働く個人や社会全体にとって少なからず良い影響を与えることは、前編で説明した。後編では、あきんどスシローとローソンについて取り上げるが、今回も企業の取り組みが個人の働き方にどう影響していくのかを考えながら見ていくことにする。
■利益確保には”省力化”が鍵
ラーメンやハンバーグといった奇抜な”ネタ”の開発や価格競争など、熾烈な闘いを繰り広げている回転寿司業界。そんな中で、全国442店舗を展開し、創業から30年に渡り増収増益、業界1位の売上高を達成しているのが、あきんどスシローだ。原価率50%とネタにこだわる一方で、基本価格は100円+税で提供。もちろん、徹底的なコスト削減が行われていることは想像に難くない。
実はスシローでは、約20年ほど前から機械化やロボットの導入を進めている。ここでいくつか取り上げてみよう。
●すしロボ
1時間に3600個もの、寿司を握れるロボット。
●オートウェイター
回転寿司レーンで直接、お客さまに商品を届けることができる。注文商品を取り損ねる不安を解消。
●ICタグ
皿の裏側に搭載されたICタグで商品を管理。売れ行き・レーンを走った距離なども管理できる。
●セルフレジ
ICタグを活用して集計。皿以外の椀物などは注文端末と客席のバーコードが連動する仕組みになっている。
寿司というと、どうしても職人が握ったほうが美味しいとか、機械がつくっているなんて・・・という声も聞こえてきそうだが、筆者の周りでも「味はなかなか」と、意外(?)と好意的な反応が多く、家族のいる友人も頻繁に利用しているそうだ。
機械化すればミスも減るし、提供するスピードも上がる。これなら店にも客にもいいこと尽くしだ。働く従業員にとっても、レジ打ちだけをずっとしているより、調理技術を磨いたり新商品を開発するほうが、スキルアップに繋がるし、なにより仕事がおもしろくなるはずだ。単純作業は機械やロボットに任せて、人間はクリエイティブな仕事へ―という流れは、飲食業界でも確実に進んでいるようだ。
■難易度の高い仕事で、やりがいアップ
だが、こうした省力化の試みのすべてが上手くいっているわけではない。そのひとつが「皮引き」だ。ハマチやタイなど皮がかたく食感の良くないものは、刺し身や寿司にするときに皮を剥ぐ作業が必要になる。文字通り、魚の皮を引きながら剥いでいくため、かなりの手間がかかる。そこで、4年ほど前に皮引きを外注することにしたのだ。
外注先で皮引きを行い、各店舗に配送してもらう。たしかにこれで現場の負担は減ったが、寿司は鮮度が命。皮引きから店頭に出すまでに時間がかかることで美味しさが損なわれ、顧客満足が下がってしまったという。
結果、2年も持たずに打ち切ることになり、さらに、皮引き作業を知らない従業員が増えたため、新たに研修をするなど、会社としては逆に負担が増える形となってしまった。
と、外から見れば明らかな失敗ではあるが、よくよく考えてみるとそうとも言い切れない。「魚の下ごしらえは店内ですべし」という学びは、将来に渡ってノウハウとして活かされる。また、皮引きというある程度、高度な技術を使った作業に携わることは、図らずとも従業員のやる気や、やりがいを引き出したようだ。
ネタやシャリ、皮引きなどこだわるところにはとことんこだわり、「人」がやらなくてもいいところは、とことん省力化を図る。細かいところまで徹底した選択と集中(得意な事業領域を明確にし、経営資源を集中的に投下する戦略)を行っていることが、「スシロー」がライバルから一歩、抜きん出ている理由のひとつなのかもしれない。
■ヒトとロボット、それぞれの得意を活かして、協働・共存する
飲食店でロボットや機械を導入しているのは、「スシロー」に限った話ではない。ちなみに、前出のすしロボは業界内ではすでに普及している。ひとくちに機械・ロボットといっても、便利グッズのようなものからPepper君に匹敵するようなものまでさまざまあるが、ここでは効果の高いものと今後普及しそうなものを紹介することにする。
中国生まれのロボットで漢字で書くと「康 真寧」。価格は150万円と産業用ロボットとしては(おそらく)安い部類に入るのではないだろうか。
これまでは人間が重さ2キロもある麺を肩に担いで、刀削麺(とうしょうめん)づくりをしており、腱鞘炎になる職人も多かったという。ロボットの導入により重労働から解放されただけでなく、麺の太さや長さが均一になり、売上も3割アップした。
ちなみに、当初はウルトラマンのような風貌だったロボットを、塗装し直してユーモラスなヒト型ロボットに変身させたところ、店のマスコットとしても人気を博しているそうだ。
1店舗1日当たり1300個の食器を洗浄している吉野家では、すでに「洗う」部分では機械を使っている。今回は、その次の工程となる「濡れた食器を仕分けする」作業をするロボットを導入したという。
従来洗浄にかかっていた労働時間2.3時間を1.8時間にまで削減、さらに今後0.5時間の削減と、約78%の工数削減を見込むという。また、従業員の腰の負担や手荒れなども、大幅に軽減する効果が期待できる。
餃子をつくるときに一番大変なのが、皮巻き。素人である筆者などは100個もやれば手と指が引きつってきてしまう。ある意味では重労働ともいえる作業を代わりにやってくれるのが「餃子革命」だ。
手作業に比べると作業効率は10倍にもなり、導入した企業では月の売上も1.3倍上がったという。
■ICタグ、自動袋詰めで、店側・客側の双方の負担を削減
人手不足は、もちろん飲食店の専売特許ではない。同じサービス業であるコンビニでも、事態は深刻化している。
そこでいち早く動いたのが、業界2位のローソンだ。2013年にパナソニックとともに「BLUE PROJECT」を立ち上げ、健康、環境、ICTといったテーマで協業している。すでに、温暖化ガスの排出抑制および省エネルギーに効果があるノンフロン(CO2冷媒)冷蔵・冷凍システムを約1,600店舗(2016年10月末現在)に導入するなど、実績も上げている。セルフレジの進化系といえる「レジロボ®」が生み出されたのも、このプロジェクトだ。商品のバーコードをスキャンするだけで自動で精算と袋詰めをしてくれるシステムで、面倒な袋詰めを客自身がしなくていいところがポイントだ。
さらに今年2月14日には、ICタグで精算できる新システムの実証実験を公開。タグがついた商品を専用の買い物カゴに入れ、レジの指定位置に置くとタグの情報を読み取って支払額が表示される。最後にクレジットカードなどで決済すれば商品を受け取ることができる仕組みだ。
初期のシステムでは、バーコードを読み取る手間があり、上手く使えない場合には結局、店員の手が必要になるといったロスが起きていたが、ICタグなら読み取る必要すらない。これにより業務の1/4を占めるレジ業務での負担を減らし、生産性を高められることを見込んでいる。もちろん来店する客にとっても、レジ待ちの時間が減るなど利点は大きい。
■無人店舗へのハードルはまだ高い
ローソンによると、2018年度中に数店舗で新システムの導入を目指しているというが、これがすぐに店員の削減や無人化に繋がるかというと、まだその段階には達していない。商品すべてにICタグをつけるにはメーカーの協力が不可欠だし、ICタグの価格も1枚10円程度と高い。そこで当面は、レジ業務の省力化を目的にし、ここで余った労力を他の仕事に振り分けることで、徐々に必要な人員を減らしていくことが主眼になるだろうと思われる。
だがいずれは、在庫を店頭に並べる、システムに不慣れな人のサポートをするといった業務だけを行う人員1〜2名がいればいい、限りなく無人に近い店舗になることは間違いない。採用難に困ることもなく、人件費を抑えられる店側にとっては万々歳だが、消費者、ひいては経済全体にとっては、どのような影響を及ぼすのであろうか。無人店舗がもたらす変化について、次回はAmazon Goを取り上げて考えてみたい。
記事制作/宮本 雪
専門家と1時間相談できるサービスOpen Researchを介して、企業の課題を手軽に解決します。業界リサーチから経営相談、新規事業のブレストまで幅広い形の事例を情報発信していきます。