労働市場を見渡してみれば、長時間労働、低い労働生産性、非正規社員の増加など解決しなければならない問題が山積しており、どの業界でも働き方改革が必要とされている。しかし、その中でも大きくメスを入れなければならないのが、サービス業ではないだろうか。

すき家の深夜帯ワンオペ問題に端を発し次々とサービス残業の実態が明らかになったり、直近では、ヤマト運輸が時間帯指定の見直しをしたり、アマゾンの当日配送業務から撤退する方針を表明(4月19日現在)したりなど、労働力不足が深刻化していることが窺える。

そこで今回は、サービス業界における働き方改革について、主に機械化や人工知能を利用した取り組みを行っている、マクドナルドあきんどスシローローソンについて取り上げる。各論に入る前にまずは、なぜサービス業界がこれほどの労働力不足に陥っているのかについて考えてみたい。

■ブラック業界認定+オリンピック特需のダブルパンチ

人材不足の主な要因としては、①産業構造の変化、②生産年齢人口の減少、③業界全体がブラック(と思われている)、④訪日観光客の増加、の4点が挙げられる。

①産業構造の変化

まずは、1970年と2010年の産業構造の変化について、以下の表を見ていただきたい。(平成28年版厚生労働白書 第2節「産業構造、職業構造の推移」より作成)。

これを見ると、第1次、第2次産業が減少した一方で、第3次産業が大幅に増えたことがわかる。もちろん、産業構造の変化自体が問題なのではない。むしろ、社会や経済が発展・成熟してきていることの証であり、歓迎すべきことである。問題は、サービス業が主に「人」が主体となって価値を生み出す産業(労働集約型産業)であることだ。

逆を考えてみるとわかりやすい。農業や製造業では生産される「モノ」自体に価値があるため、製造過程を機械化する、ムダを省くなど、人の手を最小限にして生産することができる。実際、人類はこれまで、手作業から道具を使うことを覚え、産業革命を経て、ロボット化に至る変革を続けてきた。

それに対してサービス業では、車を運転して運ぶ、気持ちの良い接客をするなど、どうしたって「人」がやらなければならないことが多い。要は、機械化が難しい仕事であるがために、サービス業が産業の中心になると、どうしても人不足になってしまうというわけなのである。

②生産年齢人口の減少

少子高齢化と言われて久しいが、現状はどうなのだろうか。国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、2010年には約1億2800万人だった日本の人口は、2030年には1億1600万人にまで減ると予測されている(出生中位・死亡中位の場合/平成24年1月推計)。

さらに、生産年齢人口(15~64歳の人口)を見てみると、2010年に8000万人以上だったものが、2030年には6700万人ほどになる。つまり、ぼーっとしていたら10年後には20%もの労働力がなくなるということ。なんとなくやばい事態だということは、誰にでもわかるだろう。

③業界全体がブラック(と思われている)

冒頭でも言及した深夜帯のワンオペや24時間営業が引き起こす長時間労働、ノルマ達成のための買い取りなど、「ブラック」という烙印を押されている企業はサービス業が大部分を占めている。

こうなると就業先として不人気になるのは必死。さらに、ここ2〜3年は新卒も転職も売り手市場(人手不足で求職者に有利な状況)が続いており、採用どころか応募数も減少の一途を辿っている。

④訪日観光客の増加

2016 年の訪日外客数は前年比 21.8%増の 2,403 万 9 000人(日本政府観光局 プレスリリース)と、過去最高を記録。小売、飲食、宿泊業にとっては好機になるはずだが、需要に対応できるだけの従業員がいない状態。せっかくのチャンスをふいにしてしまっている。

また、2020年のオリンピックでは16.8万人の新規人材ニーズがでる予測されているが、これに対応できる見込みはまったく立っていない。

これに追い打ちをかけているのが、人件費の問題だ。利益を上げるためには、店舗を増やすか、最低限、店舗でのオペレーションを回すことが必要だ。とはいえ、募集をかけても正社員だけでなくアルバイト・パートすら集まらない。結果、賃金を上げることでしか人材不足を補えなくなってしまっているのだ。(ちなみに、3大都市圏のアルバイト・パート募集時の平均時給は、1000円を突破(2016年11月時点)。求人情報大手のリクルートジョブズが2006年に調査を開始して以来、初の大台だそうだ)

■年中無休は不健全?少しの不便が、社会を豊かにする

当面は賃金アップで乗り切れたとしても、人口減少による消費・労働力の低下を考えると、今のビジネスモデルでは上手くいかないのは、自明のこと。こうした状況を踏まえて迅速に動いたのが、小売・外食業界だ。

ロイヤルホストが24時間営業を廃止したことはニュースでも大きく取り上げられたが、すかいらーくグループ吉野家でも全店舗の半分ほどで24時間営業をやめている。また、百貨店やスーパーなどでも営業時間の短縮や1月2日の初売りを廃止(三越伊勢丹ホールディングス)したり、定休日の導入も検討し始めているという。なお、このような措置を取った理由としては、①深夜帯の人材が確保できない、②お客さまの少ない深夜帯の光熱費・人件費を昼のサービス拡充に投資したい、という2点に集約されており、会社と消費者の双方にとってメリットがあることを強調している。

各メディアや消費者の反応はどうかというと、しょうがないといった反応も含めて概ね好意的に受け止められているようだ。今まで年中無休だったのに比べれば多少の不便は感じるだろうが、30代以上であればセブン-イレブンが7時〜11時までしか営業していなかった時代も経験しているはずだし、考えてみればそれほど頻繁に深夜に買い物や食事をする必要がないこともわかるはずだ。

加えて、小売や外食が深夜営業をやめることで、きちんと休む時間が増える、家族団らんの時間が増える、電力など余計なエネルギーを消費しなくて済む、非行少年・少女が減る(かなり副次的なものだが)・・・などなど、個人にも社会全体にとっても、いい影響を及ぼすだろうことにも期待したい。

■数ではなく、質で勝負

かつて低価格路線と24時間営業店舗の拡大で業績を伸ばしてきたマクドナルドでも、2年前から営業時間短縮へと舵を切っている。2012年には1857店舗で24時間営業をしていたが、2015年末には882店、2016年9月末には809店にまで減らしている。

方針転換の理由としては、広報担当者がいうように「消費者の生活スタイルの変化」もあるだろうが、2014年に発覚した鶏肉の使用期限切れ問題が収束したところで、一気に復活を図りたいという意図もあったのではないだろうか。そのためには当然、先立つもの、つまりお金が必要だ。そこで人件費という莫大なコストに白羽の矢が立ったのでは、と筆者は考えている。(マクドナルドでは店舗運営に当たりクルーと呼ばれるアルバイトスタッフを最低3人以上配置しているのだから、人件費は相当なものだ)

その証拠に最近では、店舗や人の「数」を増やして目先の利益を確保するのではなく、商品開発やプロモーションなど「質」に注力することで利益を増やしており、本来あるべき姿に戻っているように見える。

たとえば、2016年には名前募集バーガーやトッピングの裏メニューなど顧客参加型の商品を続々と展開。今年も1月6日〜31日にかけて「バーガー総選挙」を実施した。なお、こうしたキャンペーン施策の結果、2016年1~12月の既存店売上高は平均で前年比2割増。消費者の信頼も徐々に取り戻しつつあるといえるだろう。

■販売職、接客業がなくなる日も遠くない

とはいうものの、店舗数を抑制するのも、24時間営業の店舗を少なくするのにも、限界はある。そこで次の手として出してきたのが、モバイル・オーダー&ペイだ。

実は、この前の施策として無人レジ(スマートフォンを巨大化したようなタッチパネルで注文する)を導入、アメリカの一部店舗や日本では東京・大森店など3店舗でも実験をしていたが、支払い方法が限定されているなどの理由で、どうやら上手くいかなかったようだ(現在も継続中らしいので、ネットでの反応と筆者の憶測による)。

ここで、モバイル・オーダー&ペイについて簡単に説明しておこう。スマートフォンのアプリ経由で注文と決済を事前に済ませておくことで、混雑時のレジ行列に並ぶことなく商品を受け取れるサービスで、レジ待ち行列を緩和し注文ミスも回避できる。マクドナルドにとっては、顧客ロイヤリティを高めると同時に、労働力(人件費)も大幅に削減できるという、一石二鳥にも三鳥にもなるサービスというわけだ。なお、すでにアメリカ国内の1万4,000店、日本を含む海外6,000店でも導入が決まっているという。

少し仕組みは違うが、レジで決済をしないという意味ではAmazon Goも同じだ。また、一歩手前の段階にはなるが、日本で導入が進むセルフレジも、人件費削減には一定の効果が見込めるだろう。
こうなってくると、そう遠くない将来に「接客・販売」という仕事は極端に減り、サービス業は人件費というコストを、商品開発や高付加価値なサービスに投資できるのではないか、という明るい未来も描けてくる。機械化や人工知能の話題を個人に向けると「労働がロボットに奪われる」というマイナス面だけ強調されることが多いが、社会全体で見ると、やはりメリットのほうが大きいのである。

この流れで、次回は、ローソンが取り組むセルフレジと、接客・調理の両面で機械化を取り入れたスシローの事例を見ていくことにする。

記事制作/宮本 雪

ノマドジャーナル編集部
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