ここ最近、ニュースで「特区」という言葉をよく聞きますよね。しかし、具体的にどんなものを指しているのか、あまりピンとこない方もいらっしゃるでしょう。ところがこの「特区」という政策、日本経済復活の起爆剤として期待されている、とても重要なものらしいのです。さらには、地方創生とも密接に関係しているというのですから、このコーナーとしても放ってはおけません。「特区」とはなにか? 地方創生とどんな関係があるのか? いまからじっくり見ていきましょう。

■特区―規制改革の突破口

今回取り上げる「特区」、正式な呼び名は「国家戦略特別区域」といいます(「国家戦略特区」とも)。指定された特定の地域で、特別に規制を緩和したり、税制を変更したりして、経済の活性化を図るものです。
たとえば中国では、深圳(しんせん)などの経済特区で特別に制度を変更し、外資(外資系企業)を積極的に導入しました。税制優遇措置などで外資が集まったことで、特区は飛躍的に成長し、中国の高度成長にも大きく貢献したとされています。

日本でも、小泉政権時代の2003年から「構造改革特区」という仕組みが作られました。
そして安倍政権では「国家戦略特区」がスタートし、経済政策「アベノミクス」において、成長戦略の柱のひとつに位置づけられています。特区に課せられた大きな使命は、規制改革(規制の緩和)によって経済成長を実現することです。
しかし、規制改革を全国で一斉にやろうとすると、どうしても反対する勢力が出てきます。中央の官僚たちや、規制で保護されている業界団体です。彼らは現体制の受益者であるため、規制の撤廃には頑強に反対するわけです。

そこで安倍政権は、特区に限定して規制改革を行い、それを突破口として「岩盤規制」(注)へのメスを入れようとしたのです。特区内で【医療、雇用、教育、都市再生・まちづくり、農業、歴史的建築物の活用】といった分野の規制を思い切って改革し、経済成長を実現しようと試みています。

(注)岩盤規制(がんばんきせい)……既得権益を持つ官庁および業界団体などが、改革に強く反対し、緩和・撤廃が難しい規制のこと。

■地方創生を後押しする特区

特区は規制改革・経済成長の突破口としてはもちろん、地方創生の起爆剤としても期待されています。2015年には「地方創生特区」として、秋田県仙北市仙台市愛知県の3地域が指定されました。地方創生特区とは、具体的になにを目指しているのか―まずは仙北市を例にとって、見ていきましょう。

◇秋田県仙北市―「農林・医療ツーリズム」のための改革拠点

仙北市(せんぼくし)は秋田県東部にある、人口約26,000人の自治体です。「『農林・医療ツーリズム』のための改革拠点」という政策テーマで特区に指定された同市は、農林業と医療について規制改革を実施しています。
仙北市は古くから、林業が盛んな地域でした。しかし現在、日本の林業は低価格の外国産木材に押されて衰退し、もはや産業としての存続すら難しいという、危機的な状況にあるのです。

このように国内の林業は苦境にありますが、仙北市はとても林業資源に恵まれた地域です。市の面積の8割を山林が占める同市は、「秋田杉」の生産でも広く知られています。
さらには市域の6割が約600k㎡もの国有林であるため、私有地よりも活用しやすいという面があります。仙北市はこのメリットを生かし、広大な国有林を民間に開放することで、農林業の再生・振興を目指すことにしたのです。

規制改革では、この国有林に関する規制が緩和されました。国有林の貸し付けの対象者を広げたり、貸し付け面積の制限を5haから10haへ緩和するなどの措置を取ったのです。こうして民間業者の参入をうながし、林業あるいは農業(放牧など)の振興を図ろうとしているのです。
仙北市は特区のメリットを最大限に生かしつつ、農林業のダイナミックな展開を計画しています。たとえば広大な林野にハンガリーの高級豚を放牧し、良質な生ハムを作るプランもあるといいますから、今後の展開が注目されます。

■医療も規制緩和

医療に関しても、仙北市は特区ならではの意欲的な取り組みをしています。それは観光地での診療における外国人医師の起用(注)です。通常は国内での外国人医師の医療行為は認められておらず、その実現についても日本医師会などが根強く反対しています。しかし仙北市は特区ならではの規制緩和を生かし、外国人医師による診療を可能としました。
こうした規制改革は将来的に、地方の医師不足への対策としても期待されています。

(注)外国人医師による診療の解禁……規制緩和により、「国際医療拠点」と認められた地域に限って、外国医師の診察・外国看護師の業務を解禁できるようになった。最初に活用した自治体は東京都である。

■「農業・医療ツーリズム」とは?

農業・医療の規制は緩和されましたが、仙北市が目指しているのはそれだけではありません。彼らが掲げた特区の目標は「農業・医療ツーリズム」なのです。
ツーリズム(tourism)とは、観光のことです(横文字にしない方が分かりやすいと思うのですが)。つまり仙北市の「農業・医療ツーリズム」においては、「農業・医療を通じて観光業を振興し、観光客を呼び込む」ことが、究極の目標になるわけです。

まず「農業ツーリズム」について、仙北市は「グリーンツーリズム」を推進しています。グリーンツーリズムとは、農村に滞在し、農業体験を通じて自然とふれあうことです。特区に指定され、農林業のダイナミックな展開が期待できることから、仙北市はグリーンツーリズムでの観光客呼び込みも、さらに推進したいと考えています。

そして「医療ツーリズム」では、仙北市自慢の温泉を活用する計画です。玉川温泉は「湯冶」(とうじ/注)の名所でもあり、健康に良いとの評判を得ています。そこで市は医療体制を整えることで、湯冶を生かした医療ツーリズムをさらに振興し、より多くの観光客を呼び込もうとしているというわけです。
また、仙北市の医療ツーリズムは、海外の観光客の呼び込みもねらっています。先にご紹介した外国人医師の起用は、外国人旅行者が安心して医療を受けられる体制作りも、大きな目的であるのです。

(注)湯冶(とうじ)……温泉に入って療養すること。

このように、仙北市の取り組みは、産業振興と地域の問題解決が、一体となっています。地方創生特区が、真に地方創生の起爆剤となるか―今後の成り行きが注目されます。

記事制作/欧州 力(おうしゅう りき)

ノマドジャーナル編集部
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