前回までご紹介してきた地方創生人材支援制度のほかにも、国は地方自治体に対する人的支援のシステムを設けています。それが「地方創生コンシェルジュ」という制度です。なんだか気取った名前がついていますが、彼らは地方創生の「なんでも屋」のような存在だと言われています。某・国民的人気アニメのネコ型ロボットのように、地方のどんな悩みにも相談に乗ってくれる上、遠くはなれた地方と国とを「どこでもドア」のようにつないでくれるといいます。
いったいどんな制度なんでしょうか?詳しく見ていきましょう。
■地方創生コンシェルジュとは?
そもそも「コンシェルジュ」とは、どんな仕事なのでしょうか?
ときどき耳にするオシャレな言葉ではありますが、いまひとつ意味が分かりにくいですよね。
コンシェルジュというのは、もともとはホテル業界の用語で、観光の手配・サポートや、各種チケットの購入、交通案内などを行うスタッフのことを指します。宿泊客のあらゆる願いにこたえてくれる、相談役のような存在です。
これを地方創生コンシェルジュに当てはめてみると、文字通り地方創生のための「なんでも相談役」というべき存在となります。彼らは地方自治体のあらゆる相談に乗り、問題解決のための具体的な提案をしてくれます。また場合によっては、国に相談するための窓口ともなります。まさにホテルのコンシェルジュのごとく、地方のどんな悩みにも手を差し伸べ、活性化を支援するのがミッションなのです。
地方創生コンシェルジュに選ばれるのは、国の職員、すなわち官僚です。当該の地方にゆかりや愛着のある職員、あるいはその地域での業務経験を持つ職員を、地方創生の相談役として選任しています。
地方創生コンシェルジュの大きな特徴は、省庁の枠組みにとらわれず、すべての相談を包括的に受け入れている点です。
地方が国になにかを相談しようとしても、地方の課題は各省庁の担当領域が複雑にからみ合っていることが多く、「どこに相談すればいいのか分からない」というケースも多々あります。そんな場合でも地方自治体が困らないように、地方創生コンシェルジュがすべての相談の窓口となって、国とのパイプ役になってくれるわけです。これは地方の相談役として機能するうえで、重要なポイントといえるでしょう。
■地方創生コンシェルジュの名簿
都道府県ごとに任命されている地方創生コンシェルジュは、各自治体が相談しやすいように、名簿が公開されています。
たとえば兵庫県の地方創生コンシェルジュは、以下のメンバーです。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/concierge/pdf/hyogo.pdf
兵庫県だけで、51人(2017年7月現在)ものコンシェルジュが任命されています。内閣府をはじめ、財務省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省などの省庁から職員が選ばれており、まさに「地方のどんな相談にも対応できる」万能の窓口となっているのです。
それではこの地方創生コンシェルジュ、どんな仕事をしているのか、具体例を見てみましょう。
地方創生テーマに意見交換会 省庁職員と兵庫県知事ら
https://www.kobe-np.co.jp/news/shakai/201507/0008171403.shtml
この記事では、地方創生コンシェルジュが、井戸敏三兵庫県知事および県内自治体の首長らと、意見交換する様子が紹介されています。
出席した地方創生コンシェルジュは、地域の活性化についての提案を述べました。
「外国人学校の多さや、充実したスポーツ環境を生かし、他県からの移住者を増やせないだろうか」
「日本酒の聖地を目指すべきだ」
などなど、熱意あふれる意見が飛び交ったといいます。
コンシェルジュたち(官僚)は行政のプロフェッショナルであるうえ、兵庫県にゆかりのある人たちです。同県に対する愛着があるのはもちろん、現地の実情にも精通しています。地方創生のブレーンとして、また国とのパイプ役として、彼らの存在には大きな期待が寄せられているのです。
■切実な相談事例 地方は悩んでいる
地方創生コンシェルジュに対し、地方からどんな相談が寄せられたか、以下のページに具体例がまとめられています。
地方創生コンシェルジュに対する相談事例
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/concierge/concierge_soudanjirei_0729.pdf
交付金の交付基準から廃校の利用まで、どの相談も切実なものがありますね。こうした具体例を見ると、多くの自治体が悩みをかかえていて、その打開のために必死だということが分かります。
相談の内容は、大きく以下の3つに分けられるでしょう。
まずはなんといっても「国の制度に関する質問」です。国のシステムや規制はあまりに複雑なため、正しく理解して対処するには、中央の官僚のアドバイスが必要不可欠なのです。
また「財政面の支援」も、自治体にとっては切実な問題です。「こういう場合は○○省の▲▲補助金は利用できるのか?」といった質問が、多く出ています。
そして「人的支援」についても、熱い要望が寄せられています。国がお金をバラまくだけでは、もはや地方の活性化は不可能であり、人材のパワーがいよいよ必要な時代に入っているのです。
以上見てきたように、地方創生コンシェルジュは地域ゆかりの官僚が担い手となり、自治体の様々な相談の窓口となっています。地域活性化への提案はもちろん、地方と国とのパイプ役としても期待されているのです。
彼らが地方にとって「某・ネコ型ロボット」のような頼れる存在になれれば―地方の活性化は大きく前進することでしょう。
記事制作/欧州 力(おうしゅう りき)
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