都会から地方への、人の流れを作る―これが、地方創生の基本理念です。地方に住む人が増えてこそ、経済が活性化し、地方に活力が生まれるからです。
その処方箋のひとつとして、政府は「中央省庁の地方への移転」を考えています。それがどのように地方への人の流れを作るのか? そもそも移転自体が本当に上手くいくのか? 今回はじっくり考えていきましょう。

■省庁移転のメリットは?

省庁移転の実現により、地方創生にどのような効果が生まれるか、順に考えてみましょう。

1.雇用の創出

ここがなんといっても重要なポイントです。なにしろ国の行政機関がやってくるわけですから、規模も予算もとてつもなく大きな事業をあつかうことになります。国レベルの事業を展開するには、現地で多くの「人」が必要となります。よって移転先の地域の人々にとって、大きな雇用の受け皿ができることにもなるのです。
また、大きな行政機関の運営には、それなりのインフラが必要です(建物はもちろん、交通インフラ、通信システムなど)。そのインフラを整備する過程でも、新たな雇用が創出されます。
地域に新たな雇用を創出し、地方への人の流れを作る―これが省庁移転で期待される、最大のメリットといえるでしょう。

2.企業の地方移転・進出を推進する

東京および首都圏に人が集中している原因のひとつは、そこに企業が集中していることです。よって「都会から地方への人の流れ」を作るには、企業に地方へ移転・進出してもらうことがとても重要です。
省庁の移転は、その大きな推進力となる可能性を秘めています。移転が実現すれば、その省庁との関わりが深い業種の企業も、省庁といっしょに拠点を移す(あるいは進出する)効果が期待できるからです。
このように企業の地方移転・進出が進めば、そこで新たな雇用が生まれることにもなり、地方の活性化にもつながります。

3.行政機能のパワーアップ

組織や事業にとって、「地の利」はとても重要なものです。省庁と移転先の特色が上手くシンクロすれば、省庁の業務内容の向上や、さらなる効率化が期待できます。
たとえば現在、文化庁京都府への移転が決定していますが、京都府(および隣県の奈良県)には多くの文化財が集中しているため、より充実した文化行政を、効率よく展開できると期待されています。

■省庁移転のデメリットもある

ここまでお話しすると、「なんだ、省庁移転っていいコトずくめじゃないか。早くすれば?」と、お考えになる方もいらっしゃるでしょう。
しかし……省庁移転は、地方創生の起爆剤として期待されている半面、そのデメリットも指摘されているのです。懸念される主なポイントを挙げてみましょう。

1.関係機関との連携が取りづらくなる?

これまで東京に集中していた中央省庁が、もし各地に分散されるとなれば、他の省庁および関係機関との連携が取りづらくなることも、考えられます。

2.行政の効率が低下する?

政治・経済の中心である東京を離れることで、省庁の業務が非効率化してしまう懸念もあります。国会対応・会議・各種の交渉などで、担当者が上京する必要もありますから、時間や労力のロスも生じます。

3.危機管理上の問題が生じる?

国家レベルの非常事態では、各省庁が連携しての対応が不可欠です。東京に集中していた省庁の機能が分散することで、災害やテロへの対応が難しくなるのではないか……と心配する声もあります。

4.企業の負担が生じる?

これまで東京にあった省庁が地方に移転してしまったら、その省庁と仕事をしていた企業に新たな負担が生じる可能性もあります。交渉・打ち合わせひとつとっても、わざわざ担当者が地方へ出張しなくてはならなくなります。

5.移転に伴うコストについて

国の行政機関を移し、その業務に必要なインフラを整備するのですから、相応のコストが必要となります。

このように、省庁移転により懸念される点もあるのは事実です。
どんな改革であれ、必ずなんらかのデメリットは生まれます。省庁移転による地方創生を、真剣に進めるのであれば、これらのデメリットをできる限り抑えることも課題となるでしょう。

■官僚の頑強な反対

このように、省庁移転は(心配されるデメリットはあるものの)地方創生の起爆剤として期待されています。しかし現実には、政府の思うようには進んでいないのが現状です。
いまのところ全面移転が決定しているのは、文化庁の京都への移転のみ(しかも明確な時期は示されていません)。あとは消費者庁徳島に、総務省統計局和歌山に、それぞれ一部の業務を移すことが決まっているだけです。

でも……おかしいですよね。政府は地方創生の推進カードとして、省庁移転に期待をかけています。各都道府県も地域の活性化のため、省庁の誘致を望んでいます。
それでは一体、だれが反対しているのでしょうか?
答えは……「官僚」です。彼らが省庁移転に反対するのは、もちろん先に挙げた移転のデメリットもあるのでしょうが、彼ら自身が東京を離れたくないという事情もあるようなのです(官僚生活を地方で終えた場合、元官僚としてのブランドイメージがそこなわれ、その後に影響する……と考える人が多いともいいます)。

官僚がこぞって反対するとなれば、政策の実現は容易ではありません。はたして、省庁移転による地方創生は、本当に実現するのか―政府の力量が問われるところでしょう。

■省庁が肥大化する?

なお、文化庁は京都に移転した後も、東京に拠点を残します。また移転が見送られた省庁についても、地方の出先機関の強化という方針が示されました。
こうしたことから、「省庁移転をきっかけに、行政組織が肥大化してしまうのではないか」という懸念も生まれているようです。

以上見てきたように、省庁移転による地方創生の実現というのは、口でいうほど簡単なものではありません。それでもこの切り札でもって「地方への人の流れ」を作ろうとするなら、政府には断固たる取り組みが求められるでしょう。同時に、省庁移転のデメリットをできる限り抑えることも必要となります。

記事制作/欧州 力(おうしゅう りき)

ノマドジャーナル編集部
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