地方創生の取り組みのひとつに「地域再生制度」というものがあるのを、ご存知でしょうか。これは地方自治体が地域活性化のための計画(=地域再生計画)を作成し、国もその実現を支援するというものです。
もちろん、無条件で支援を受けられるわけではありません。自治体の立てた計画が、国(内閣総理大臣)によって認定されることで、はじめて交付金などを受けることができるのです。

自治体が自ら計画を立てるのですから、この制度のカギは「地方の自主性」といえるでしょう。今回は、この地域再生制度について、具体的にどのように展開されているのか、じっくり見ていきましょう。

■地域再生計画とは?

この地域再生計画は、「地域再生法」という法律に基づく施策と連動しています。

地域再生法は2005年に制定された法律で、地方創生の司令塔である「まち・ひと・しごと創生本部」の立ち上げ以前から、成立していたものです。
(「まち・ひと・しごと創生本部」は、2014年9月3日の第2次安倍内閣発足とともに設置されました)

この法律の第1条には、立法の目的が以下のように書かれています。
「地方公共団体が行う自主的かつ自立的な取組による地域経済の活性化、地域における雇用機会の創出その他の地域の活力の再生を総合的かつ効果的に推進する」
あくまで地方が自主的に取り組むことを、同法は求めています。その上で、内閣総理大臣に認定された計画については、国が交付金を交付できることになっています。
さらに地域活性化の取り組みをしやすくするために、税制面の優遇や、規制の緩和なども盛り込まれているのが特徴です。

つまり、地方自治体の自主性を前提としつつ、国がそれをバックアップすることで、地域活性化のプロジェクトを推進していく―そうした考え方で運用されている制度なのです。
では地域再生計画が地方創生にどう影響しているのか、具体的に見ていきましょう。

■医学を基礎とするまちづくり

橿原神宮(かしはらじんぐう)で有名な奈良県橿原市(かしはらし)は、医学を活用した地域活性化に取り組んでいます。同市は医療や観光などに力を入れた地域再生計画を策定し、内閣府の認定を受けました。これにより、国からの交付金を活用できるようになったわけです。
橿原市の地域再生計画の目玉は、「医学を基礎とするまちづくり」です。
MBE(Medicine-Based Engineering:医学を基礎とする工学)と住居医学を組み合わせ、MBT(Medicine-Based Town)と呼ばれるこの試みは、医学の考え方をまちづくりに生かし、地域住民のより豊かで健康な生活を実現しようというものです。

そこで橿原市は、市内にキャンパスのある奈良県立医科大学と協力し、以下の2つの目標のもと、取り組みをスタートさせました。
1.少子高齢化社会を解決するモデル(地域モデル)の構築
2.新しい産業の創出

■医科大学の機能を、まちに埋め込む

まずひとつめの目標である「少子高齢化社会を解決するモデル(地域モデル)の構築」についてです。
医療や介護を、ハード・ソフトの両面から充実させ、高齢者にも住みやすいまちづくりを目指しています。

たとえば病院とは別に、まちなかの医療拠点を設けるという構想があります。これは、病院にかかる以前の段階で、地域住民を日常的に見守る小さな施設をつくるというものです。拠点の担当者が日ごろから住民と交流しつつ、その健康に気を配っていけば、きめ細やかな医療が実現します。さらに情報技術によって、将来的には住民の健康をチェックする仕組みの導入も考えられています。
こうした取り組みが、予防医学や疾患の早期発見を大きく後押しすると期待されています。

他には、空き家を医療施設や介護の拠点として再生する試みもあります。たとえば入院患者が自宅に完全復帰するまでの、中間施設(療養のための施設)としての利用が考えられています。さらに医学生や看護師らのシェアハウス、研究者に滞在してもらうためのゲストハウスなど、空き家を医療面で有効活用する方法がたくさん考えられています。

(注)地域包括ケア……高齢者の医療・介護・生活などについて、地域ぐるみで支えるシステムのこと。

こうした考え方の核にあるのは、「医科大学の機能を、まちに埋め込む」という発想です。医科大が地域と一体となることで、住民に提供できる医療サービスの質が飛躍的に高まると考えられています。

■新たな産業の創出も

「医学を基礎とするまちづくり」では、新たな産業の創出も期待されています。
たとえばお年寄りのための「見守りセンサー」などが構想されています。センサーの端末を身体に貼り付けてもらうことで、医師が住民のバイタルデータをチェックできるというものです。実現すれば、健康促進や予防医学の大きな助けとなると同時に、高齢化社会における大きなビジネスとなる可能性も秘めています。

■「お金のばらまき」にならないために

以上、橿原市の例でも分かるように、各地の自治体が意欲的に地域再生計画を策定し、国の後押しのもとで計画を進めています。
それでは、地域再生計画は日本中で成功を収めているのでしょうか?
どうも、そう簡単にはいかないようです。

少し前の報道になりますが、会計検査院が終了した地域再生計画について調べたところ、計画でかかげた数値目標が達成されなかったケースが多くあったというのです(日本経済新聞 2015年10月8日付記事)。
この調査によると、地域再生計画での目標が達成されたケースは、全体の約半数(51.0%)にすぎませんでした。一方で、目標を達成していないケースが35.0%、達成状況が不明なものが13.8%あったそうです。

国は各自治体の地域再生計画を後押しする上で、莫大な国費を投入しています。
にもかかわらず、計画での目標を達成できた自治体が半数にすぎないとなれば、「国によるお金のばらまき」と言われても、仕方がありません。

「地域の自主性を前提に、国が後押しする」という方向性はいいのかもしれません。
それでも、地域再生計画を「机上の空論」に終わらせないためには、国の関与の方向性を考え直すべきではないでしょうか。
たとえば計画の審査をより厳しくするなり、自治体への人的サポートをするなり、何らかのテコ入れは必要かもしれません。

記事制作/欧州 力(おうしゅう りき)

ノマドジャーナル編集部
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