近年、環境やエコロジーについて、世間の関心が高まっていますが、政府が「環境未来都市構想」というものを進めていることを、ご存知でしょうか。
地方創生はあくまで(経済を中心とする)地方の活性化と、地方への人の流れを作ることがメインテーマですので、一見、環境との結びつきは見出しにくいように思えます。

しかし、地方に人を集めて活性化するためには、地方そのものを魅力的で住み良い場所にしなくてはなりません。よって環境の向上なくして、地方の活性化は成り立たないとも言えます。

 

これを踏まえると、「環境未来都市構想」が地方創生においても大きな意味を持つことが分かります。同構想は「環境対策や、高齢化への対応を踏まえた、魅力的で住み良い都市」を目指しているからです。

そこで今回は、環境未来都市構想の概要と、具体的な取り組みについて見ていきたいと思います。

■環境未来都市構想とは―持続可能な都市づくり

環境未来都市構想の根底には「いまのままの都市のあり方では、もはや持続していくことができない」という危機感があります。関連するホームページには難しいことが書かれていますが、シンプルにまとめれば「都市のあり方を持続可能なものに変えていこう」という試みだといえます。

 

分かりやすいのは、エネルギー問題でしょう。

資源の乏しい日本では、国内で使用するエネルギーのうち、原子力発電が32%を占めていました(2011年の震災前まで)。原子力は事故のリスクや環境への負担、さらには放射性廃棄物の問題も抱えています。また火力発電の場合は、原油の価格高騰や円安でコストが増大することがあり、二酸化炭素の排出問題もあります。かといって、近年期待の高まっている自然エネルギーも、現状では効率や安定性に課題があります。都市がエネルギーを利用する上で、これらの問題にどう対処していくかは、重要なテーマです。

 

そしてもうひとつ、日本社会はこれから先の未来に大きな難問を抱えています。みなさんもご存知の少子高齢化です。

高度経済成長期の1970年、日本の65歳以上の人口は7.1%にすぎませんでした。ところが40年後の2010年には23.1%となり、65歳を超えたお年寄りの比率が3倍以上にも膨れ上がっているのです。この傾向は今後さらに進み、内閣府のデータによると2055年には40.5%、約半数が高齢者になるとの予測も出ています。

私たちはまさに「超・高齢化社会」の到来を覚悟しなくてはなりませんし、その現実に対応すべく、都市を変えていく必要があるわけです。

■環境未来都市構想・3つのファクター 環境・社会・経済

このようにエネルギーや人口構成といった問題を見るだけでも、日本の未来は決して楽観できないことがわかります。

こうした社会の変化に対応し、人々の豊かな生活を実現していくには、社会や都市をバージョンアップしなくてはなりません。環境未来都市構想では「環境・社会・経済の3つの側面から新たな価値を創造」するべきと説いています。この3つのファクターにおける抜本改革こそが、未来に持続可能な都市を残すためのカギとなるのです。

 

環境面においては、エネルギーの消費を抑えることはもちろん、自然環境の維持や、資源リサイクルの推進など、都市部において機能を強化できる余地はまだまだあります。資源を浪費せず、豊かな自然を守ってこそ、未来に向けて持続可能な都市となれるわけです。

 

社会的な面では、医療・介護・福祉・子育てといった、人々の生活に密接にかかわる機能を強化することが必要です。それができてこそ、都市はより高い価値を生み出し、人々の豊かさを向上させることができます。また、高齢化への対処はもちろん、子供を安心して預けられる保育施設の拡充、医療における産科医・小児科医の不足解消など、喫緊の課題は山積しています。さらに、介護の担い手不足については、今後さらに深刻化が予想されます。生活の豊かさを実現する上で、都市が機能を強化すべき点はまだまだ多くあるのです。

 

そして3つ目のファクターが経済の面です。経済が活性化されないことには、都市機能を向上させることなどできません。環境や社会の問題を解決しつつ、新たな産業を興し、雇用を創出していく必要があります。

■環境未来都市・環境モデル都市

環境未来都市構想の具体的な取り組みには、「環境モデル都市」と「環境未来都市」の二種類があり、それぞれ政府が都市を選定しています。選定された都市は、環境対策や高齢化への対応などにおいて、一歩進んだ取り組みに挑戦していくことが求められます。

名前が似ていて紛らわしいのですが、「環境モデル都市」「環境未来都市」の違いは以下の通りです。

 

・環境モデル都市:

低炭素社会の実現に向け、先進的な取り組みをする都市(地域)です。

例としては、エネルギーの地産池消と経済活性化の両立を目指す、沖縄県宮古島市などがあります。

 

・環境未来都市:

環境モデル都市よりもさらに先駆的な取り組みにより、世界のトップランナーを目指す都市(地域)です。

環境問題や高齢化といった「人類共通の課題」に対応し、「環境・社会・経済の3つの価値」を創造する、先導的プロジェクトに取り組みます。世界的にも前例のない成功事例を生み出し、その成果を広めていくという、壮大な役割が与えられているのです。

 

例としては、森林バイオマス(注)の有効利用を通じ、収益の最大化とエネルギーの自給につとめている北海道・下川町(しもかわちょう)などがあります。

こうした試みが成果を出し、環境にやさしい未来型都市のモデルとなれば、世界にも成功事例を広めていけますよね。環境未来都市とは、それほどにスケールの大きい取り組みなのです。

(注)森林バイオマス……森林から得られる植物由来の生物資源。従来は捨てられていた部分の有効活用に、期待が集まっている。

 

以上見てきたように、「魅力的で住み良い都市を作る」という取り組みも、地方創生において大切なことです。ただ経済を活性化するだけでは、地方に人を集めることはできません。地方が人間にとって住みやすい環境にならないことには、人を呼び込むことはできないからです。

環境未来都市構想が、魅力的で住み良い都市を創造し、地方への人の流れを作ることができるか、今後も注目していきたいところです。

 

記事制作/欧州 力(おうしゅう りき)