ここまで23回に渡り、地方創生の全体像を見てきました。

「地方への人の流れを作り、地方を(経済を中心に)活性化させる」

この地方創生の理念のもと、国はあらゆる施策を講じ、地方もさまざまな試みを展開しています。

 

最終回の今回は、主に3つの視点から、地方創生の現状とその展望についておさらいしていきたいと思います。

1.交付金を生かした地方創生

国は、地方創生のためのさまざまな交付金を用意しており、地方でもそれを生かした取り組みが活発に進んでいます。交付金を活用した地方創生には以下のような例がありますが、そこには光もあれば影もあります。

 

地方のマイナス面をプラスに転じる

地方創生の成功例のひとつに、島根県壱岐地方の「島まるごと学校」という取り組みがあります。

深刻な過疎化が進行する隠岐諸島は「島全体を『留学先』として、全国から生徒を募集する」という、これまでにない新しい取り組みをしています。島の高校に学生を受け入れ、美しい環境を「学びの場」として生かすこの試みは、各地から多くの「留学生」を集めることに成功しました。さらには全国から多様なバックボーンを持つ“よそ者”の生徒が集まることで、活力ある学校へと生まれ変わったのです。

 

ここで重要なのは「地方のマイナス面をプラスに生かす」という視点です。「過疎化が進む離島」と聞けば、誰もがマイナスイメージを持つでしょう。しかし裏を返せば、人の手が入っていない「美しい自然環境」が残されているともいえます。地方のマイナス面を嘆くだけでなく、それをプラスに転じていく発想の転換こそが、地方創生の事業を成功に導くのでしょう。

 

詳しくは⇒ 【地方創生は実現するのか】第2回:地方創生の交付金……どんな事業にお金が下りるの?

 

ばらまきになってしまう危険も

一方で、交付金を生かした地域活性化には、残念な失敗例もあります。福島県会津若松市の「地域限定の電子マネー」という取り組みがそのひとつです。

この電子マネーは地元の加盟店で使うごとにポイントがたまり、そのポイントを地元での買い物で使うことができるというものです。そのほかにも、健康診断の受診・ボランティアへの参加など、社会のプラスになる活動でもポイントがたまる仕組みになっていました。地域での消費を促すうえに、社会を良くする活動も後押しするという、発想自体はすばらしい試みだったといえます。

 

しかしこの電子マネーは結果として、見るも無残な大失敗に終わってしまったのです。市民の認知度が高まらなかったうえ、電子カードのシステム自体を導入した店舗がほとんどなかったことが、失敗の要因でした。

(多くの店舗が、レジでの作業が煩雑になるのを嫌い、導入を見送ったといいます)

 

地方創生の事業は、たとえ理念や発想が良くても、関係プレイヤーの協力を得られなければ上手くいきません。また施策が現地の実情に合っているか十分に考えて進めなくては、まさに「交付金のばらまき」になってしまう危険があるのです。

 

詳しくは⇒ 【地方創生は実現するのか】第4回:地方創生の交付金 「ばらまき」になっているケースも?

2.特区による地方創生

国家戦略特区」とくれば、まさにいま話題となっていますね。そう、愛媛県の特区で獣医学部を作る云々……と、連日テレビでやっているあの話題です。こうしたスキャンダラスな文脈で論じられがちな特区制度ですが、実は地方創生においても重大な意味を持っています。

 

特区とはひと言で言うと、「特定のエリアで法律や規制を撤廃し、経済成長につなげよう」という試みです。その中でも、特に地方創生の起爆剤として期待されているものが「地方創生特区」と呼ばれています。ここでは各種の規制を撤廃することで、自治体の斬新な施策や、民間企業の新たな事業展開を促進し、地方創生につなげていく狙いがあるのです。

 

その地方創生特区のひとつに選ばれたのが、秋田県仙北市です。「『農林・医療ツーリズム(注)』のための改革拠点」という政策テーマで特区に指定され、農林業と医療について規制改革を展開しています。具体的には、以下のような規制改革を行ったうえで、各種産業の振興を図っています。

(注)ツーリズム……観光のこと。仙北市の特区では、農林業と医療の振興を通じ、観光客の呼び込みも狙っている。

 

(1)国有林の貸し付けに関する規制緩和→林業や畜産業の振興

仙北市内には広大な国有林があるため、これを有効活用することで、衰退した林業を復活させようとしました。特区の制度を生かし、国有林に関する様々な規制を撤廃することで、農林業のダイナミックな展開を目指しています。

 

(2)外国人医師の診療を解禁→地方の医師不足の解消→医療ツーリズムによる観光客の呼び込み

日本国内では基本的に、外国人医師の診療は認められていません。仙北市は特区の制度を生かしてこの規制を撤廃し、医師不足の解消につなげようとしています。

さらにこの規制改革にはもうひとつの狙いがあります。それは観光客の呼び込みです。仙北市はもともと湯治(とうじ/注)にいいと評判の名湯があり、医療体制を整えることで、湯治を生かした医療ツーリズムを振興したいというビジョンがあるのです。

さらにこの医療ツーリズムでは、外国人観光客の呼び込みも狙っています。外国人観光客を受け入れるうえで、外国人医師の起用がいよいよ大きな意味を持ってくるのです。

(注)湯治(とうじ)……温泉に入って療養すること。

 

詳しくは⇒ 【地方創生は実現するのか】第6回:特区ってなに? 地方創生とどんな関係があるの?

3.都市計画による地方創生

「地方への人の流れを作り、経済を活性化する」には、地方都市が魅力的で、活気にあふれていなくては始まりませんよね。しかし現実には、多くの地方都市が活気をなくし、衰退してしまっています。そうした現状を打破するため、街づくりの枠組みにおいても様々な施策が打ち出されています。

 

中心市街地活性化

その試みのひとつが、中心市街地活性化です。中心市街地とは地域の中核駅を中心に、商業施設や公共施設が集積している一帯です。消費者が集まることで経済活動の中心となり、多くの人々の職場にもなります。ここが経済推進エンジンとなってこそ地域は活性化されるのですが、現実には多くの地方で中心市街地の衰退という現象が起きてしまっています。

 

原因としては、地方そのものの過疎化、そしてもうひとつが車社会の進展です。中核駅周辺にある中心市街地は、マイカーでのアクセスに不便なため、人々はよりアクセスしやすい郊外へと流れてしまいました。それに伴い、事業者も地価の安い郊外に店舗を構えるようになります。結果として、多くの地域で経済の中心が郊外に移ってしまっているのです。

 

こうした「都市のドーナツ化」というべき状態は、地域の将来に深刻な影響をもたらします。経済の中心が郊外に移ることは、都市部の拡大を意味します。すると広がった都市部でも、インフラ(道路や学校など)を整備・維持していく必要があり、莫大な行政コストとなります。ただでさえ人口の減っている地方都市にとって、都市の拡大によるコスト増加は、もはや容認できないのです。

 

詳しくは⇒ 【地方創生は実現するのか】第18回:中心市街地活性化、上手くいくのか?

 

コンパクトシティに未来はあるか

こうした都市の拡大を抑制するため、「コンパクトシティ」という取り組みがはじまっています。

その代表的なプレイヤーが、富山県富山市です。同市はLRT(次世代型路面電車システム)の整備や、中心市街地の再整備により、減り続けていた中心市街地の人口を転入超過にすることに成功しました。

また公共交通(JRなど)沿線への居住誘導策もある程度は功を奏し、徐々にではありますが、中心市街地に人の流れがもどりつつあります。

 

しかしこれをもって、コンパクトシティ政策を成功と見るのはまだまだ早計のようです。

特に富山県は、マイカー中心のライフスタイルが根付いており、郊外の大型商業施設が経済活動の巨大なコアになっているのが現状です。富山市が都市の膨張の抑制に成功し、持続可能な地方都市のモデルを生み出せるか……地方創生の観点からも、その成り行きが注目されるとことです。

 

詳しくは⇒ 【地方創生は実現するのか】第19回:中心市街地活性化、上手くいくのか?(2)

 

 

以上、地方創生の主な取り組みの例を見てきましたが、国も地方もそれなりに知恵を絞っているとは言えると思います。それくらいに地方の未来は楽観できない状況であり、いまのうちに将来を見越して手を打っておかなければならないという、切実な動機があるわけです。

 

その一方で、すべての取り組みが上手くいくわけではなく、中には失敗に終わる事業もあれば、交付金のばらまきになってしまったケースもあります。

「地方への人の流れを作り、地方を活性化する」

地方創生の理念が各地で実現してこそ、日本にも明るい未来が見えてきます。

 

政府にも地方にも、ただお金のやり取りに終始することのない、実効性ある施策が求められています。

そして私たち国民ひとりひとりが、地方創生の取り組みを注視していくことも必要でしょう。

 

記事制作/欧州 力(おうしゅう りき)