地方創生の実現を目指し、政府はいろいろな種類の「交付金」を出しています。こうしたお金が、地方創生の事業を確実に後押しし、地方の活性化をもたらすことが必要です。
今回はまず交付金の概要について整理した後、それが具体的にどう使われているのか、じっくり見ていくことにしましょう。

■交付金が目指すもの―真の地方創生につなげたい

地方創生のために国はお金を拠出するわけですが、それが実際に地方創生の実現に役立たなければ、ただお金を配るだけで終わってしまいます(これまでも「ばらまき行政」として非難されてきた政策は、いくらでもありますよね)。
そこで政府は、「配ったお金が、本当に地方創生に効き目があるのか」をチェックする仕組みをもうけて、交付金を運用することにしました。つまりは交付金の効果測定をしつつ、地方創生に実効性のある施策を展開していこうというのです。

同時に、交付金の有効活用のために、ビジネスで用いられる2つの考え方を導入することにしました。
ひとつがKPI(重要業績評価指標)、もうひとつがPDCAサイクルです。

■地方創生にビジネスの手法を導入

KPI(重要業績評価指標)とは Key Performance Indicators の略で、目標の達成度を示す数値のことです。具体的な目標数値を設定したうえで、一定期間後に交付金がどれだけ効果を出しているかを判定します。目標の達成度を見たうえで、その後の対策についても検討するのです。
具体的な数値基準としては、たとえば「Uターン就職率」「男性の育児休暇取得率」などが挙げられます。地方創生は「地方の人口減少を食いとめ、経済的活力を取りもどす」ことが目的なので、Uターン就職する若者の数は、とても重要な目安です。また、男性が育児休暇を取りやすくすることも、地方を働きやすい場所にするうえで、とても大切なことです。
このように、地方創生の達成度についての明確な目標数値を定めることで、交付金の効果を判定するのです。

PDCAサイクルというのは Plan-Do-Check-Act Cycle の略で、事業を改善しつつ成長させていく一連の流れの事を指します。
Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Act(改善)という4つのプロセスを繰り返すことで、業務の問題点をそのつど改善しながら、事業を育てていく考え方です。

これはもともと、企業のビジネスの展開に用いられてきた考え方ですが、地方創生の現場にも導入されることとなりました。交付金を出した事業について、定期的に成果を評価(Check)して、必要に応じて改善(Act)しながら、成長させていこうというのです。こうすることで、交付金がただの「ばらまき」になってしまうことを防ぎたいというのが、政府の思惑です。

政府の最終的な目標は、交付金で地方の事業を育てつつ、将来は(交付金なしで)独力で展開できる事業へと育てることです。だからこそ、先に述べたようなビジネスの考え方を導入し、交付金の効果測定をしているわけです。

■交付金はどんな事業に出るの?

交付金は平成26年度の補正予算を皮切りに、国の予算に段階的に組まれてきました。そのつど1,000億円レベルのお金が拠出されているのですから、大変な金額です。
とはいえ、交付金がどこでどう使われているのか、多くの人にとってピンとこないのも事実でしょう。そこで、交付金が与えられる地方創生の事業について、具体例を見ていきましょう。

田んぼアート(青森県田舎館村)

稲田をキャンバスに見立て、色の異なる稲を活用して巨大なイラストを描き、観光業の振興を目指すというものです。7色12種の稲で、壮大なアートを創りあげています。
はたしてそんな試みで観光客が来るのか……と思った方もいるかもしれませんが、この田んぼアートは芸術性が高いうえ、話題性のある作品展開もあることから、多くの観光客を集めることに成功したのです(ちなみに平成28年度の題材は、大河ドラマ「真田丸」と、映画「シンゴジラ」でした)。

田んぼアートの成功により、平成28年度は展望台の入場収入が9,300万円にのぼったといいますから、村レベルの自治体としては大変な収入です。
田舎館村の観光事業はまた、単にアートを展望するだけでなく、稲刈り体験ツアーなども合わせて展開されています。農村ならではの創意工夫が光る事業ですね。

島まるごと学校(島根県隠岐地方の自治体)

山陰地方の島根県は、深刻な人口減少に悩まされています。その沖合いにある隠岐諸島は、特に過疎化が進行している地域です。よって以前から、その対策に知恵を絞ってきました。
起死回生の策として行ったのが、「島全体を『留学先』として、全国から生徒を募集する」というものでした。島の高校(隠岐島前高校)を学生の受け入れ先とし、なおかつ島の美しい環境をまるごと「学びの場」として提供するという、斬新な発想でした。

このもくろみは見事に功を奏し、日本各地から多くの「留学生」が集まりました。一時期は約90名に落ち込んでいた生徒数が、約160名にまで増加したのです。自然豊かな美しい環境で学べるのはもちろん、全国から集まる生徒たちが多様な価値観のなかで交流できるようになりました。ただ生徒数が増えるだけでなく、ユニークで活力ある学校へと生まれ変わったのです。
島まるごと学校は、離島であることをプラスに生かし、「島留学」という概念を生み出すことで、地域に人を呼び込み活性化させることに成功したわけです。

■交付金、生かすも殺すも地元次第

以上の例からは、地方であることをマイナスにとらえるばかりでなく、あえてプラスに生かしていく発想の転換が見られます。
交付金が下りるとはいえ、それだけでは地域の継続的な発展にはつながりません。地方の情熱と創意工夫があって、はじめて「地方への人の流れ」が生まれ、地方創生が実現するのです。

記事制作/欧州 力(おうしゅう りき)

ノマドジャーナル編集部
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