前回までは、地方創生関連の交付金の概要について見てきました。国の交付金が地方で上手く生かされてこそ、真の地方創生が実現します。そのためには地方の自助努力はもちろん、アイデアも重要な要素になります。各地の自治体が、どんな創意工夫をしているのか―交付金の具体的な活用例について、より詳しく見ていきましょう。

■デニム・ジーンズ産業のクリエイター養成(岡山県)

正式名称は「岡山県をモデル地区としたデニム・ジーンズ産業の中核的クリエイター養成プロジェクト」といいます。あまり知られていないことですが、日本製のデニムやジーンズは(価格競争では有利とはいえないものの)品質が高く、国際市場でも高く評価されています。岡山県にはそのデニム・ジーンズ産業が集積しているのです。岡山県のプロジェクトでは、産業の中核となるデニム・ジーンズ分野のクリエイター養成を試みています。地域のデニム・ジーンズ産業の振興と、業界の国際競争力向上につなげるのが狙いです。

岡山県は古くから繊維産業が盛んな地域であり、繊維分野の技術が受け継がれることで、製造施設の集積地となっています。その土台の上に、デニム・ジーンズ産業も発展してきました。
産業をさらに振興させるには、単に良質なジーンズを生み出すだけではなく、ビジネスを理解したクリエイターを育てなくてはなりません。そのために岡山県はいろいろな工夫をしています。

まず講義のカリキュラムについて、社会人でも受講しやすいように設定しました。これにより、すでに業界に就職しているクリエイターも、改めて技術を見直したり、新しいノウハウを吸収したりすることができます。
また、ビジネスマインドのあるクリエイター育成のため、講義ではマーケティング・マネジメントを重視した教材を用いています。マーケティングを理解していてこそ、売れる商品やブランドを生み出すことができます。また業務管理・生産管理を適切に進めるには、マネジメントのノウハウが欠かせません。こうしたビジネス面での知見も備えたクリエイターを、育てようとしているわけです。

現在、日本の繊維関連産業は、中国をはじめとするアジア諸国との価格競争で苦しんでいます。にもかかわらず、岡山県のデニム・ジーンズ産業は、国内外で相変わらず高い競争力を誇っています。
その背景には、この地方に長年培われてきた繊維産業の技術があります。この技術によってジーンズの微妙な「色落ち」などを実現し、製品の高付加価値化に成功しています。これこそが岡山のデニム・ジーンズ産業の強みなのです。
地方においても、人材と技術を育てることで、産業を大きく振興できます。岡山県の事例は、地方創生モデルのひとつとして参考にできるはずです。

■漁船廃油と冬季の遊休労働力の活用(長崎県壱岐市)

正式名称は「漁船廃油と冬季の遊休労働力を活用したナマコ等の養殖・高付加価値化・販売による地域資源循環の創造」といいます。ちょっと聞いただけでは何のことだか分かりにくいのですが、地域の持つ資源と特色を生かそうという試みです。

壱岐島は九州北方の玄界灘にある島です。その立地からも漁業が地域経済の中心となっており、海産物を売り物としています。
ですが漁業には、どうしても発生する「遊休労働力」というロスがあります。季節や天候によって漁が制限されることがあるため、その間はせっかく働き手がいても仕事がなくなってしまうのです。

こうした遊休労働力を、水産品の加工に有効活用しようというのが、壱岐市の試みです。交付金を活用して加工資材を購入し、仕事のない働き手を生かしつつ、水産加工業の振興をしようというわけです。こうして地域の雇用創出はもちろん、労働者の所得を安定させることも目指しているのです。

プロジェクトの創意工夫は他にもあります。壱岐地方では「海女(あま)」の女性たちが活躍していますが、彼女たちに受け継がれてきた水産品加工の技術を生かし、商品の高付加価値化につなげています。
また、水産品の加工にはボイル加工(煮ること)が不可欠ですが、燃料には不要になった漁船の廃油を活用するなど、エコロジー面でも工夫がなされています。

このプロジェクトからは、地域の「資源」を有効活用しようとする、徹底した姿勢がうかがえます。海産物はもちろん、労働力や廃油、さらには海女に受け継がれた技術も、地域の貴重な資源です。それらをできる限り有効活用して、産業振興・雇用の創出・収入の安定化につなげ、地域を活性化していこうとしているのです。限られた経営資源を有効活用しようという姿勢は、まさに地方創生の考え方のお手本というべきでしょう。

以上見てきたように、地方創生の事業というのは「無いものを新たに生み出す」ものではありません。「もともと地域にある」資源や強みを生かしてこそ、はじめてプロジェクトは成功するのです。
「自分たちの地域のよさを、どこまで再発見できるか」
「地域の強みを生かすため、どのように創意工夫していくか」

そこに、地方創生の成否のカギがあるのかもしれません。

記事制作/欧州 力(おうしゅう りき)

ノマドジャーナル編集部
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