前回ご紹介した「中心市街地活性化」の取り組みは、地方創生においても極めて重要な位置づけがなされています。各地方の中心となる市街地が、地域の心臓部として健全に機能することが、地方の発展には欠かせないからです。
今回は、この中心市街地活性化の具体的な例を見るとともに、その展望と課題について考えてみたいと思います。

■中心市街地活性化は、なぜ必要か?

前回のおさらいになりますが、現状多くの地方都市で中心市街地が衰退しています。地方そのものの人口減少はもちろん、車社会の進展により、人の流れを郊外に奪われてしまったことが主な原因です。これらの「二重苦」によって中心市街地は空洞化しドーナツ化ともいうべき現象が起きています。

これは地方の未来に、深刻な影を落とします。人の流れとともに経済の中心が郊外に移ると、都市部が拡大します。そうなると広がった都市部でも、インフラ(道路・学校など)の整備・維持管理が必要になるので、将来にわたって膨大なコストが生じます。地方の財政を破綻させないためには、この状況を放置してはおけません。だからこそ、中心市街地を経済の中心として再生し、都市の膨張をおさえる必要があるのです。

■富山市が目指す「コンパクトシティ」

このままでは地方都市は近い将来、財政破綻の危機に陥ってしまう―そんな危機感のもと、各地で中心市街地の活性化と、都市の拡大を抑制する施策がとられています。

その代表的な自治体が、富山県富山市です。人口42万人の同市は地方都市の例にもれず、郊外への都市の拡大および、中心市街地の衰退といった難題に直面しています。車社会の進展はもちろん、一戸建ての家を持ちたがる県民性もあいまって、地価の安い郊外へと人が移っていきました。また幸か不幸か、富山平野が平坦なため地形的な制約もなく、都市の膨張に歯止めがかからなくなっていたのです。
こうなると当然のことながら、都市部の膨張にともないインフラ面のコストが増大します。加えて富山は雪国であるため、都市の拡大部分での除雪コストが新たに発生するという、深刻な問題もあるわけです。

2002年に富山市長となった森雅志(もり・まさし)氏は、この現状をなんとか打開すべく、いち早く「コンパクトシティ」というビジョンを掲げ、その実現に着手しました。公共交通を軸としたコンパクトなまちづくりを通して、中心市街地を再生し、あわせて都市の膨張をおさえようと考えたのです。

■コンパクトシティの牽引車「LRT」

コンパクトシティの基本思想は、移動手段を車から公共交通・徒歩へと切り替えていくことにあります。そこで富山市は、まず公共交通の整備・活性化に着手しました。その切り札としてつくられたのがLRTです。

LRTとはLight Rail Transitの略で、次世代型路面電車システムのことを指します。富山市は上下分離方式(注)によって鉄道事業者の負担を軽減するなど、意欲的な施策をとりました。さらに、一時消滅していた市内中心部の環状線を復活させるなどして、LRTの導入を進めたのです。

※注:上下分離方式

鉄道などの経営において、インフラの維持管理(下部)と、運行・運営(上部)を分離すること。
文中のケースでは、行政(富山市)が「軌道整備事業者」として軌道整備及び車両の購入を行い、民間(富山地方鉄道)が「軌道運送事業者」として車両の運行を行っている。安全性と事業の効率化を両立させる狙いがある。

■効果あり! コンパクトシティ戦略

もちろん公共交通が充実しただけでは、コンパクトシティが完成したとはいえません。中心市街地の活性化と、都市の膨張が抑制されなければ、その理念が実現したとはいえないのです。
では実際のところ、富山市のコンパクトシティは成功しているのでしょうか?限定的ではありますが、徐々に効果が出てきているようです。

富山市の中心市街地の人口は2007年まで転出超過でしたが、2008年からは転入超過になっています(出て行く人よりも、新たに入ってくる人の方が多くなったということですね)。これまでずっと、中心市街地から人が減り続けていたことを考えると、復活の兆しが見えてきたということになります。

また都市の膨張をおさえるにあたって、公共交通(JRなど)の沿線に人を集中させる必要もあります。そのため富山市では「公共交通沿線居住推進地区」というエリアを設け、居住誘導策を取りました(エリア内に移住した市民に、最大50万円の補助金を出すというのですから、富山市も必死なのですね)。
その甲斐もあって、居住推進地区の人口も転入超過に転換しました。
このように、徐々にではありますが、中心市街地に人の流れが戻り、公共交通の沿線に人が集まりはじめているのです。

■成功と言うにはまだ早い

このように、富山市ではコンパクトシティの施策が効果を上げつつありますが、それに対しても様々な見方があります。
まず、コンパクトシティ推進にともなう、財政的な負担を懸念する声があるのも事実です(たとえば中心市街地の再整備にもコストが発生しますし、LRTにも市がお金を出しています)。
さらには、郊外から人を呼び戻すのはそう簡単なことではありません。富山県は特に車社会が進展した地域なため、マイカーで移動する郊外のライフスタイルが幅広く根付いているのです。

富山駅から車で20分ほどの郊外に、約100のテナントとシネマコンプレックス(複数のスクリーンがある映画館)を兼ね備えた「ファボーレ」という大型商業施設があります。近隣には大規模な住宅街があり、家族連れを中心に毎日多くの人が訪れるなど、高い集客力を誇ります。富山市郊外にあるにも関わらず、商業の中心となっているのです。つまり、「ファボーレ」を中心として、郊外に人々が定着しているわけです。

郊外へ向かった人の流れを、ふたたび中心市街地に向けることは容易ではありません。富山市の都市計画およびコンパクトシティ構想は、郊外に市民が定着している現実と向き合いつつ、長い目で見た舵取りが必要となります。そのため現段階でその成否を判断することは、時期尚早だといえます。

■コンパクトシティに未来はあるか?

コンパクトシティ構想に取り組んでいる自治体は他にもありますが、すでに大失敗に終わってしまっているところもあります。

青森県青森市は、富山市と同様にコンパクトシティを目指したものの上手くいかず、計画が頓挫してしまいました。中心市街地活性化のシンボルである大型商業ビル「アウガ」が、赤字経営を長年続け、ついには運営していた第三セクターが経営破綻してしまったのです。
各方面から注目を集めるコンパクトシティ構想ですが、中には青森市のように挫折してしまう自治体もあります。コンパクトシティが地方都市の未来を救う処方箋となるか―その進展を、今後も注意深く見ていきたいところです。

記事制作/欧州 力(おうしゅう りき)

ノマドジャーナル編集部
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