安倍総理は24日、首相官邸で開かれた政府の教育再生実行会議(座長・鎌田薫早稲田大総長)の会合で、夏休みなどの長期休暇を地域ごとに分散させる「キッズウイーク」を導入する考えを表明しました。

キッズウィークは、働き方改革と併せた「休み方改革」の一環で、全国の地域ごとに小・中・高校の夏休みなど長期休暇の一部を他の平日に分散させ、観光需要の分散化や地域活性化につなげる取り組みです。今年2月に導入されたプレミアムフライデーに次ぐ第2弾として、有給休暇の取得促進が期待されます。

果たして安倍総理の思惑どおりとなるのか、それともプレミアムフライデーの二の舞に終わるのか、来年実施予定のキッズウィークに注目が集まっています。

1.最大9連休!新たな大型連休となるキッズウィーク

キッズウイークは、夏休みの最後の5日間を他の時期に移すことで、その前後の土曜、日曜と合わせて最大9連休とする仕組みです。政府は企業に働きかけて、子どもと一緒に大人も休暇を取れるようにする予定だといいます。

厚生労働省が行った平成26年の就労条件統合調査によると、企業などの有休取得率は48.8%となっています。政府は2020年までに70%に引き上げる目標を掲げており、キッズウィークによって取得促進につなげる方向です。

2.地域活性化の起爆剤!休暇分散化のリベンジなるか?

キッズウィークの設定時期は全国一律ではなく、たとえば、東京では10月第3週の月~金曜日、大阪では11月第1週の月~金曜日という風に、地域ごと独自に決めることができます。

キッズウィークは、子どもたちにとっては夏休みを削った代休に過ぎませんが、大人にとっては、まさに新たな大型連休の出現となります。この大型連休を活用して有給休暇の取得を促すということですが、そこには観光需要を分散することで地域の活性化を図るという狙いもあります。

こうした休暇を分散させる案は、かつて観光庁も検討していました。平成21年12月より「休暇分散化ワーキングチーム」による調査・検討が開始され、平成22年11月、その結果が公表されています。資料によると、休暇分散化による交通機関や観光施設の混雑緩和により、約2.8兆円の新規旅行需要が見込まれるとあります。

一方、休暇を分散させることで「クラブ活動等における全国大会・地方大会、運動会等学校行事の日程が組みにくくなる」「ふるさとの家族や友人、単身赴任の親と家族との休みがあわなくなる」さらには「祝日の意義を失わせる恐れがある」といった懸念の声も上がりました。

そして、その後行われた意識調査で、休暇分散化について賛成が4分の1程度に留まったこともあり、結局、休暇分散化は国民的合意が得られないとして白紙になったのです。

実現しなかった政策に対するリベンジとも思えるキッズウィーク。さて今回はうまくいくのでしょうか。

3.かつての議論再燃!安倍内閣に勝算はあるのか?

再び浮上した休暇分散化政策であるキッズウィークですが、国民はどのように受け止めているのでしょうか。

YAHOO!ニュースが実施しているインターネットによる意識調査では、キッズウィークの創設に「賛成」が約24%、「反対」が約62%、「わからない/どちらとも言えない」が約13%となっています。

「休みが分散した方が旅行に行きやすい」「分散は家計に優しい」といった肯定的な意見も見受けられますが、「任意に長期有給休暇を取得しやすくするような政策を考えるべき」「会社自体が休みでなくては休めるはずがない」「有給休暇を取れば同僚に迷惑がかかる」など否定的な意見が多数を占めています。

これを見る限り、かつての議論が再燃しています。賛否の割合も平成22年に議論されたときとほぼ同じです。意識調査は、キッズウィークと休暇分散化との間に違いが見出せないことを物語っています。このような状況の中、安倍総理は来年の実施に向け、キッズウィークを成功させる秘策を持っているのでしょうか。関心を持って見守っていく必要がありそうです。

4.まとめ

今年の2月にプレミアムフライデーが始まりました。しかし、実施企業はごく一部にとどまっていると言われています。製造業を中心とした中小企業は、年に何回も長期間生産を止めることができません。サービス業で働く人たちにとってキッズウィークは、休めるどころか反対に忙しくなるだけでしかないのです。

安倍総理の発想は、一部大企業や公務員のホワイトカラーを対象としているようで、多数を占める中小企業で働く人たちの実情が見えていないように思えます。

キッズウィークというネーミングも気になります。子どもをダシにして有給休暇の取得率を上げようとしているようにしか見えません。そもそも有給休暇は自由に取得するものであって、強制的に取得させられるものではないはずです。さすがにこれでは不満を持つ人が多いでしょう。

かつて実現できなかった政策の中身を変えず名前だけを変えて出してくるあたりは、一強といわれる安倍総理のおごりともとれます。このような形ばかりの大型連休を増やすことより、まず自由に有給休暇を取得できる環境を作っていくことが先決ではないでしょうか。

記事制作/白井龍

ノマドジャーナル編集部
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